転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
19 / 112
第1章

第19話 ゲヘナ盗賊団殲滅(後編)

しおりを挟む

鋭利な光線キーン・レイ

 放たれた言霊は――。

 ザックの姑息な目論見と、彼の強靭な右腕を根こそぎ豪快に切り飛ばした。

 想定外の一撃。

 ブレナ・ブレイクの姿を確認した直後、彼は本能で『人質』に手を伸ばした。

 最善は女のほうを引き寄せることだったが、どちらかを選んでいる余裕はとてもない。近くにいたほう――つまりは『男の腕』を、彼は遮二無二につかみにいったのだ。

 だが。

(……な、なんだ……今の……魔法、は……? どこ……から……)

 ブレナが放ったそれではない。

 別の方向から、その魔法は放たれた。

 その、――。

(……オレは職業柄、ダブルやマジックボールには詳しい。そのオレが知りもしない魔法なんざ……ちっ、今はそれどころじゃねえか)

 それどころではない。

 ザックは激烈な痛みと共にそのことを自覚した。自覚したところで、失った右腕は戻ってこないが。

 ブレナにばかり注意を向けていた自分の失態だが、その代償はあまりに大きかった。

 怒りの言葉を吐き散らしたい衝動をなんとか抑え――ザックはデレクのほうへと視線を投げた。そのまま、叫ぶように発する。

「デレク、無事か!? 無事だったら、急いでほかの連中を――」

「無事じゃねぇよ。それに『ほかの連中』なんてもういねえ。残ってんのは、おまえだけだ」

「なっ――!?」

 ザックの顔から、血の気が失せる。

 視線の先、数メートル。

 デレクの生首を持ったブレナが、その距離まで近づいていた。

「悪く思うなよ。今回ばかりは、生かして捕らえる余裕がなかった。時間との勝負だったからな。トレド式でやらせてもらった。だ」

「みな……」
 
 皆殺し?

 まさか、百人以上いた手下が皆殺しにされたというのか?

 ありえない。

 そんな馬鹿なことが……。

 ザックは、絶望の息を吐いた。全身の力が抜け落ち、膝から地面にくずおれる。抗う意思も、それと同時に粉みじんに崩れ去った。

「ブレナ、さん……」

「すみません、ルージュさん。俺がいながら、こんなことになってしまって。どんな非難でも受けます。でも、少しだけ待ってもらえますか? カタを、つけなきゃならない」

 そう言って、ブレナ・ブレイクが『刀身モード』のダブルを振り上げる。

 彼は、無慈悲に言った。

「何か言い残すことはあるか?」

 ザックは、せせら笑って答えた。

「ねぇな。が、後悔はしてる。こんなことになるなら、旦那の前で嫁を犯してそのあと旦那を――」

 ピュッ!

 ザックの意識は、そこで途絶えた。

 悪逆非道を背中に背負って歩いてきた――男の首から上が宙を舞い、最後の巨悪が地に落ちる。

 帝都の闇が、百年ぶりに消え去り晴れる。


      ◇ ◆ ◇


「すみません、ブレナさん。なんとお礼を言ったらいいか……」

 拘束を解かれたアリスの母親が、心底申し訳なさそうな顔で頭を下げる。

 ブレナは、両手をブンブンと左右に振って、

「お礼なんてとんでもない。むしろ非難の言葉をください。あなたがたにはその権利があるし、俺にはそれを受ける義務がある」

「非難なんて、そんな……。悪いのはむしろ、警戒を怠った僕たちのほうで――」

「いや、それやめない? そのやり取りは、始まっちゃうとキリないぞ。無事に助けられた。良かった。ありがとう。それで終わりでいいと思うけど……」

 隣に立つトレドが、あきれたような口調で言う。

 ブレナはキッと両目を細めて彼のほうを向いたが――アリスの両親の反応は、ブレナのそれとは真逆だった。

 二人とも、プッと吹き出すように笑い、

「そうですね。その方のおっしゃるとおりです。このやり取りは始まってしまうとキリがない」

「ハハ、僕もメアリィと同感です。ですが、あなたにもお礼の言葉を一度だけ言わせてください。助けていただいて、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。これで終わりでいいんだよ。なあ、ブレナ?」

 ニッコリ笑って、トレドが言う。ブレナはチッと小さく舌打ちした。

「んなことより、ブレナ。一個訊いていいか?」

「……なんだよ?」

「なんで、そんなショボいダブル使ってんの?」

「……あ?」

「そのダブル、Cランクじゃん。こんな活動してるなら、ダブルには金かけたほうが良いと思うけど? アリスはその辺分かってる。それとも、それメインじゃないとか?」

「……ほっとけ。おまえには関係ない。んなことより――おまえこそ、いったいどこで手に入れたんだ?」

「知りたい?」

「いや別に」

 本当は知りたかったが、訊いてきたときのトレドの表情がなんとなくムカついたのでブレナはそっけなく流した。

 どのみち、関係ない。

 帝都の巨悪は、これで大方払いきった。この男とも、そう遠くない未来に別れることとなるだろう。そうして、二度と再び会うことはない。

 トレド・ピアスとブレナ自警団の物語は、今日を持って終わりを迎えたのだ。

 崩れた壁の隙間から、別れの風が音を鳴らして吹きすさぶ。


      ◇ ◆ ◇


「うわーん!! パパぁー、ママぁ―、心配したよー!! 良かったぁー、良かったよぉーーー!!」

 救出された両親に飛びつくように抱きつき――アリスが、人目をはばからずに号泣する。

「……もうっ、この子ったら……ブレナさんやルナちゃんが見ていますよ?」

「だって、だってぇーーーっ!!」

「……ハハ、まったくアリスは本当に泣き虫だなぁ。そういうところは、いつまで経っても成長しないな……」

「……ホント。でも、また会えてうれしい。うれしいわ、アリス……」

 アリスの涙に誘われたのか――アリスの両親の瞳からも、彼女と同じそれが流れて落ちる。その様子を見て、ルナはようやくと安堵の息を吐いた。

 良かった。

 本当に良かった。

 最悪の結果にならなくて、本当に。

 ルナは、胸の前でギュッと拳を握って空を仰いだ。

 在りし日の、父と母の姿がまぶたの奥に蘇る。

 ルナは少しだけ、感傷的な気分になった。

 鮮血にまみれた思い出は、どれだけ月日が流れてもセピア色には変わらない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

処理中です...