転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第2章

第38話 盛大にざまぁされた男デービット。そして……(この話以降、第2章においての重大なネタバレが生じます。ご注意ください)

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 神歴1012年、3月6日――ギルティス大陸南東、滅びゆく村。

 午後1時17分――村の中央付近、見張り台。

 デービット・ウォーカー。

 四肢を引きちぎられた状態で、くだんのチャラ男は見るも無残に絶命していた。

「これで確定だな。犯人は目の前にいるこの女。そしてこいつは、おそらく『十二眷属』だ。私は最初から、この女が怪しいと思っていたがな」

 隣のジャックが、確信のまなこで言ってくる。

 ブレナは視線を『目の前の女』に向けた。

 リベカ・アースタッド。

 四回連続(ブレナの知るかぎり)で死体の第一発見者となった彼女は、あきれたような表情で、

「あんたなら絶対そう言うだろうと思ったけど――あたしが犯人だったら、わざわざ鐘を鳴らしてあんたたちに報せると思う? さらには馬鹿みたいに犯行現場で堂々と待ってると思う?」

「ふん、そんなことは知らん。ただの気まぐれだろう。気まぐれで、この趣味の悪いゲームをこの段階で終えたくなった。ゆえに鐘を鳴らして待っていた。鐘の音で集まってきた我らを、つまりはこの場所で皆殺しにする算段だったのではないのか?」

「……信じらんない。信じらんないほど頭固いガキね。あんたの脳みそ、鉄でできてんじゃないの?」

「なんだと!? 貴様ッ、この私を愚弄する気か!? 私は神都アスカラームの聖堂騎士試験を一発で――」
 
「おまえの言い分はもっともだが、消去法的に考えておまえがダントツで怪しいのも事実だ。ほかに候補がいない」

 ブレナはそう口をはさんで、脱線しかけた話(ジャックを煽るとすぐに話が脱線する)を即座に元に戻した。

「それなんだけどさ――っていうのはないの?」

 受けたリベカが、落ち着いた語調で応じる。

 彼女はその口のまま、第三の可能性を速やかによどんだ外気にさらしてみせた。

「犯人はこの村にいる誰か、なんじゃなくて、外部の人間。村の外にいて、目的を果たすときだけ村の中に入ってくる。別に門とか閉じてるわけじゃないし、可能だと思うんだけど……」


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後1時20分――宿屋一階、玄関近くの共有スペース。

 例の鐘が鳴り――ブレナとジャックが宿を離れてから、三十分近くが経過した。

 現在、このスペースにいるのは、ルナとアリスの二人だけである。

 リアとトッドは二階の部屋(トッドがお昼寝タイムなので、彼が眠るまではリアも部屋を離れられないのである)、レプはお風呂場でタンタンの身体をゴシゴシと洗っていた(無臭と言っていたが、やっぱりそんなことはなかったらしい)。

「どっちが殺されて、どっちが犯人なのかな……?」

「……分かりません」

 アリスに訊かれ、ルナは正直に答えた。

 分からない。

 というより、彼女の思考は別のところに向いていた。

 密室。

 どうしても、ルナはあの『密室』の謎が気になって仕方なかったのである。

 彼女は、胸中でひとりごちた。

(……順を追って考えていく必要があります。まずは……)

 まずは、犯人はどうやって室内に進入したのか。

 ステフは間違いなく、部屋に鍵を掛けていただろう。室内に侵入するためにはまず、彼女に鍵を開けてもらわなくてはならない。

 が、そのハードルは意外と高い。

 男が行っても、まず開けないだろう。ジャックのことは気に入っていたようだから、彼が行けば開ける可能性はあったもしれないが――彼は自分たちと同様、途中からこの村を訪れた存在。普通に考えたら、犯人たりえない。そう考えるとやはり、男は除外である。

 女だったらどうか。

 自分やアリス、それに同じ村に住むリベカが訪ねていったら開けるだろうか? 

 否、

 そう考えると、そもそも密室を作るどころか、あの部屋に進入することさえままならないことにルナは気づく。

 ドアを破壊せずに、どうやって犯人はあの部屋に踏み入ったのか?

 解決すべき謎がもうひとつ増え、ルナは心中で頭を抱えた。

 と、そのタイミングで再び、アリスの口がひらく。

 落ちた言葉はでも、先の問いとはまったく無関係のそれだった。

「……ねえ、ルナ。あの『抜け穴』の件なんだけど……」

(……え?)

 ルナは両目を丸くした。

 その言葉が、このタイミングで彼女の口から落ちるとは思いも寄らなかったのである。

 だが、思いも寄らない展開は、その先こそが本番だった。

 アリスは、仮定であることを強く強調したうえで、
 
「仮に、仮にの話だよ。あの穴はレプでも通り抜けられなかったけど――もしも、が挑戦したら、通り抜けられるのかな?」

「…………」

 言葉の意図を察して、押し黙る。

 やがてアリスは、言いづらそうに、だがハッキリと『その言葉』を沈黙の渦中へと放って落とした。

「……、通り抜けられるのかな?」
 

      ◇ ◆ ◇


 同日、午後1時25分――宿屋一階、玄関近くの共有スペース。

「……アリスさん、十二眷属の『定義』ってなんでしたっけ?」

「……え?」

 それは、まるで予期していなかった質問だった。

 アリスは一瞬、戸惑ったように両のまなこをパチクリさせると、

「ナギとナミが自らの力の一部を与えて創造した原初の生命体、不老の肉体を持っていて――」

「すみません、そこまででいいです」

 鋭く答えて、再び、ルナが思考の世界へと旅立つ。

 アリスは訳が分からなかった。

 どう考えても、このタイミングで訊いてくるようなことではない。

 ――。

 アリスは、安心したかった。

 ルナが「無理です」と一言言ってくれたら、安心できる。

 、と彼女が断言してくれたら、それだけで安心できるのだ。

 でも、すぐに返ってくるだろうと思っていたその言葉は、予想に反してなかなか返らなかった。

 一分、二分、三分――。

 不安にまみれた沈黙は五分と続き、そこでようやくとルナの口がひらく。

 アリスはごくりと唾を飲み込んだ。

 言いようのない緊張感の中――そうして、ルナはポツリと言った。

「……アリスさん、もしかしたら……わたしたちはをしてたのかもしれません」

「思い……違い?」

「はい、思い込みと言い換えてもいいです。真実はものすごく『シンプル』だったのに、のせいで、複雑なそれに変えてしまっていた」

「どういう……こと? ルナ、何が言いたいのか分かんないよ……」

 分からない。
 
 でも、なぜだかアリスは不安になった。

 彼女は不安な気持ちを胸に抱いたまま、ルナが放つ言葉の続きを聞いた。

「アリスさんのおかげで、密室の謎が解けました。いえ、違いますね。それだと語弊があります。解いたというよりも、気づいた、と言ったほうが正確かもしれません。、ということにようやく気づけました。あの部屋は密室でもなんでもなかった」

「ますますワケ分かんないよ……。密室じゃなかった、ってどういう意味なの?」

「言葉のままの意味です。あの部屋は密室ではなかった。あの『抜け穴』があったおかげで、筒抜け状態だったんです。

「そんな……あそこから出入りなんて……」

 言いかけ、だがアリスはハッとして言葉を止めた。

 若干と間を置き、それからゆっくりと放つ言葉を再開する。

 震える声を、制御できぬまま。

「もしかして……さっきあたしが言った……」

「いえ、

 断言。

 ルナは数瞬と置かずに、ハッキリとそう断言した。

 彼女は続けて、

。絶対に通り抜けられません。トッドくんの体格でも、間違いなく肩の部分で引っ掛かります」

「……そう、だよね。トッドくんでも、やっぱり無理だよね。ルナに言われて安心した。でも……でも、だったら……」
 
 安心したのもつかの間、それと同時に別の感情がアリスの胸を訪れる。

 不可解。

 トッドではないなら、誰なら……。

 アリスのその疑問に、ルナは確固たる口調で答えた。

 それはアリスが想像だにしていなかった、驚天動地の回答だった。

「事は、シンプルだったんです。シンプルだったのに、自分たちで勝手に複雑にしてしまっていた。わたしたちは、見たじゃないですか? 目の前で、これ以上はないほどハッキリと。

「えっ、それって……」

 それって、つまり……。

 瞬間、彼女の脳内を電流が走った。

 そうなのか?

 そういうことなのか?

 そういうことだったのか?

 アリスは、理解の両目を見開いた。

 殺人鬼は――。

 この摩訶不思議な事件の犯人は――。

 この村の人間を殺しまわっていた『十二眷属』の正体は――。

「ああ、そのとおり。よく気づいたな。いや、というべきか」

「――――!?」

 アリスは、ギョッとして振り返った。

 二階へと上がる階段と、風呂場へと続く廊下のちょうど中間地点。

 その場所から――。

 なんの変哲もない、その場所から――。

 、邪悪な笑みを浮かべてこちらを睨みつけていた。

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