転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
46 / 112
第3章

第46話 神都アスカラーム

しおりを挟む

 神歴1012年3月7日――ギルティス大陸南東、ヴィレムの町。

 午前0時3分――宿屋三階、客室(リアの部屋)。

「リアさん、ひとつ訊いてもいいですか……?」

 ルナは暗い天井を見つめながら、ポツリとつぶやくように隣のリアに言った。

 ルナとアリスは、思わぬ不可抗力でリアの部屋に泊まることになった。

 リアに伸されたアリスが、いつまで待っても全然全く復活する気配を見せなかったからである。さすがに悪いと思ったのか、リアはアリスをベッドに寝かせて、自分は床に敷いた布団(布団もあったのは僥倖だった)の中に入った。そして、そのまま「あんたはどうする?」とこちらに訊いてきたのである。

 ルナは「わたしも泊まりたいです」と答えて、リアの隣にもう一枚の布団を敷いた(ちょうど二枚分あったのでこれも僥倖だった)。アリスだけを残していくのは可哀想だと思ったのが一番の理由だが、それだけではない。この特殊な環境下の中で、が彼女の心のうちに芽生えたのである。

 訊きたい。

 二人だけの今、どうしても彼女からそれを訊いておきたい。を持って生まれてきた者同士、どうやったら『その強さ』を手に入れられるのか、それをどうしても訊いておきたかった。

 リアの顔が無言のまま、こちらに向いたことを了承の意と取り――ルナは、思いきってそのことを口にした。

「……リアさんも、ゼロエネルで生まれてきたって聞きました。本当ですか?」

「……ああ、あんたもそうなんだってね。ブレナから聞いたよ。同類にあったのは初めてかも。ゼロエネル、珍しいし」

「わたしもです。最初の一人がリアさんで、でもちょっとモチベ上がりました。ゼロエネルでも、リアさんみたいに強くなれるって分かったから……」

「あんたもじゅうぶん強いと思うけど。あたしが十五のときと、そんな強さ変わらないと思う。ガゼル相手にそこそこやれてたみたいだし、じゅうぶんすごいよ」

 嬉しかった。

 半分お世辞だと分かっていても、やはり嬉しい。相手がリアだからこそ、それは嬉しくてたまらない褒め言葉だった。

 でも――。

「……すごくなんて、ないです……。わたしは、弱いです。最近になって、弱いと思い知らされました。魔法が使えないわたしは、フィジカルで圧倒しなくちゃいけないのに、圧倒できません。魔法を使える相手にさえ、フィジカルで勝てないのは悔しいです。なんとかしたいです。アドバイス、ほしいです……」

「その魔法を使えない相手ってのがブレナのことを言ってんだとしたら、気にする必要ないと思うけど。あたしも勝てないし。アイツはいろいろとおかしい。まあでも……」

 と、そこでことさら一拍置いて、リアが声のトーンを一転させる。

 彼女はシリアスな語調で再度口をひらくと、

「あんたが『十二眷属』をフィジカルで圧倒したいと思ってるなら、今のままじゃたぶんそれは叶わない。二年前のあたしのままじゃ、いつまでたってもアイツらには及ばない。ただやみくもにトレーニングしても、今のあんたの強さくらいまでが限界だと思う」

「…………」

 ここまでが、限界。

 薄々分かってはいたものの、改めてそう口に出されると『来る』ものがあった。

 自分はもう、これ以上強くはなれない。強くはなれないのかもしれないと、その思いが槍となって胸を刺す。

 ルナは唇を噛んで、両目を伏した。

 と、そのタイミングで、リアの口から思いも寄らぬ言葉が落ちる。

 それは本当に、思ってもみなかった出し抜けの『提案』だった。

? アスカラームに着いたら。残してきた仕事を片づけたら、しばらくやることないし。何かをつかむきっかけにはなると思う」

「――――!?」

 ルナは、光の速さで頷いた。

 巨大なターニングポイントが、これ以上はない形で彼女の前へとさらされる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午前1時31分――宿屋三階、客室(リアの部屋)

「それで、そのときアリスさんが――」

 ルナのテンションは、頂点に達していた。

 おしゃべりの口が止まらない。

 油紙に火をつけたような勢いで、彼女はひたすらに喋り続けた。そのほとんどが取るに足りないどうでもいい話である。ルナは心の赴くまま、そのどうでもいい話を上機嫌に発し――リアはそのどうでもいい会話に、でも嫌がるふうもなく(ほとんど相槌を打っているだけのような状態だったが)、延々、付き合ってくれた。

 否。

 付き合ってくれていたのだが――。

「……ごめん、そろそろ限界かも」

 リアがおもむろにそう切り出したのは、午前一時半を回ったあたり。

 ルナは、両目をパチクリさせて訊いた。

「え、どうしたんですか?」

「……眠い」

 答えは、シンプルだった。

「あたし……夜は弱いんだよね。十時を過ぎると、眠たくなる……」

「……子供ですか?」

「……子供だもん」

「あ、今の言い方めちゃ可愛い。リアさん、眠くなると可愛くなるタイプですか?」

「……なにそのタイプ。くだらないこと言ってないで、ホントにもう寝るから。あんたも、いいかげん……」

 どうやら、本当に限界は近かったらしい。

 最後まで言い終えることができずに、リアの頭が枕に落ちる。可愛らしい寝息が聞こえてきたのは、それから数秒のあとだった。

(……リアさん、寝顔幼い。意外な発見……)

 クスッと笑って、胸中で一言。

 ルナはゆっくりとまぶたを閉じた。

 閉じたが――。

 結局、この日、彼女は一睡もできなかった。

 膨れ上がった興奮が、睡魔を切り裂くつるぎとなる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後3時30分――神都アスカラーム、東門。

「ようこそ、アスカラームへ。イメージほど悪くないトコだから、そんな構えなくていいよ」

 委縮する面々に向かって、リアが気軽に言う。

 だが、それは無理だろうとブレナは思った。

 構えるに決まっている。

 この光景を見たら、誰だって構える。委縮する。ブレナも初めて訪れたときは、門の内側に入るのを一瞬ためらったほどである。

 荘厳。

 というよりも、それを通り越してイカつい。

 町の中央付近に佇む大神殿――『ラーム神殿』を中心に、それを取り囲むように背の高い七つの塔(七星塔)が立ち並ぶ。帝都よりもさらに広い、広大な面積も相まって、見る者を威圧してやまない大都市。それが、アスカラームだった。

「おい、どうした? 何をカエルのように口をパクパクさせている? さっさと中に入れ。貴様以外はみな入ったぞ」

 背後で、ジャックが苛立たしげに言う。

 言われたのは、リベカである。

 彼女は呆気にとられた様子で、眼前に映る神都の街並みを眺めていた。

「……なにこれ? あたしの生まれ育ったティグ村の何倍あるの? 野グソしたって絶対バレないくらいの広さじゃない……」

「貴様ッ、なにとんでもないことをほざいている!? そんなことをしたら、ナギ様が許そうともこの私が許さん! その瞬間に、この『ゴドルフィン』で串刺しにするぞ!」

 ぼそりと落ちたリベカの言葉に、ジャックが両目をひんむいて反応する。ブレナはやれやれと鼻息を落とした。

 神都アスカラーム。

 それぞれの思惑が入り乱れる、陰謀渦巻くこの町で――物語の第三幕が、静かにゆっくりと切って落とされる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...