転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第3章

第47話 セブンズリード集結

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 神歴1012年3月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 午後5時3分――ラーム神殿、応接室。

 嫌な光景だ。

 視線の先に居並ぶ『面子』を見て、ブレナはげんなりと息を吐いた。

 聖堂騎士団、セブンズリード。

 一番隊から七番隊までの、七人の隊長達である。

 全員、並の十二眷属を凌ぐ力量の持ち主(ちなみにジャックは二番隊隊長、リアは三番隊の隊長である)で、ナギからの信頼も厚い。が、正直、十二眷属ほどではないにしろ、ジャック含めて半分以上がブレナとはそりの合わない連中だった。

 と、そのうちの一人――大柄な女性がおもむろに一歩を踏み出し、

「言いたくて、でも我慢してることは山ほどあるんだけど……これだけは言わせてもらおうかね。なぜこの神聖な場に、いるんだい? ブレナはしかたないとして、ほかに三人も下賤な輩を招き入れるなんて――」

「こいつらは俺の仲間だ。パーティ組んで、一緒に旅してる。俺と同じ扱いをしてもらいたいね。じゃなきゃ、俺はナギとは会わない。ジャックからの了承は得てるし、ギルバードもおそらく了承すると思うぜ? 納得できないなら直接訊いてこいよ、ミカエル・パトラ。ああ、ミカエルの名で呼ばれるのは好きじゃないんだっけか? 女でミカエル、でも別にいいと思うけどな。男として育てられた嫌な思い出でも蘇るのか?」

「…………ッ!」

 女――ミカエルの両目が、敵意むき出しに見開かれる(まあ、元から敵意はむき出しだったが)。

 隣で不安げにこちらを見上げるアリスに、ブレナは心配いらないとばかりに軽く頷きを返した。

 と、ブレナは改めて、視線を『くだんの女』へと差し向けた。
 
 五番隊隊長、ミカエル・パトラ。

 頬にかかる程度の長さの紫色の髪と小麦色の肌、加えて百八十センチを超える長身が特徴的な二十代半ばの女である。獲物は大斧式アックスタイプのAランクダブル、バイアリータークだ。たった一人で、千の軍勢を蹴散らしたという逸話を持つが真偽のほどは定かではない。が、真実だとしても、彼女ならばさしたる驚きもないだろう。それほどの、一騎当千のツワモノだった。

「まあまあ、落ち着きなよあねさん。気持ちは分かるが、ブレナを呼んだのはナギ様だ。下賤の輩が二、三人、供として混ざってようが、大目に見てやらんと。どのみち、ナギ様に会うのはブレナ一人なんだからさ。――ブレナ一人だよな?」

 とぼけたような口調で、糸目の男がそう確認してくる。

 四番隊隊長、バルトロメイ・エアリーズ。通称、バルト。

 ひょろりとした体型の、二十代前半の青年である。短く刈り込まれ、稲のように力強く真上に突き伸びた白髪と、糸のように細い両目が特徴的のニヤケ面がデフォルトとなっているいけ好かない男だ。獲物は短剣式ダガータイプのAランクダブル、ラビュリントス。変幻自在な戦闘スタイルが持ち味の、あらゆる意味でのトリックスターである。

「一人だよ。この中を少し見せたら、こいつらには宿に戻ってもらう。それで文句はないだろ?」

 言って、ブレナは視線を『巨漢の男』に向けた。

 一番隊隊長、ディルス・ロンド。

 熊のような、とは使い古された表現だが――実際、熊のような体格をした三十手前の偉丈夫である。獲物は大刀式ブレイドタイプのSランクダブル、ドンキホーテ。セブンズリードに序列はないが、まあ彼がナンバーワンだと言って語弊はないだろう。物理的な強さだけではなく、精神的な強さもピカイチだ。ギルバードが一番隊の隊長に彼を置いたのは、おそらくはそういった面を考慮に入れたからに相違ない。口は悪いが、まともに話せる数少ないセブンズリードの一人である。

「ああ、かまわねえよ」

 そのディルスが、問題ないとばかりに頷く。

「けど、見学して楽しいトコでもねえだろここ? 町ン中、案内してやったほうがいいんじゃねぇか? おい、セーナ」

「……えっ、アタシ? めんどくさいなぁ。案内とか、されたい?」

 セーナ・セス。

 七番隊隊長、齢二十の少女である。

 オレンジ色の頭髪と同色の双眸。髪型は右で結んだサイドテールだ。年齢はリアよりも三つ年上だが、どう見ても同じ年くらいにしか見えない。骨格の問題か、あるいは雰囲気の問題か(百五十センチ弱と小柄ではあるが、それくらいの背丈でも年相応に見えるタイプはたくさんいるので、身長の問題ではないだろう)、なぜか実年齢よりもだいぶ幼く見えるのである。貫禄が欲しいのか、ほかに理由があるのか、よく分からないが――でも、本人の前でそれを言うとものすごく怒るらしいので、仲間内では暗黙の禁忌タブーと化しているらしい。使う獲物は細剣レイピアタイプのAランクダブル、アンデルセンである。

「はい、されたいです。どういうお店があるのか、とか興味あります。名所とかはあんまり興味ないです」

 ルナが、正直に答える。隣ではアリスも「うんうん」と頷いていた。レプは案内とかどうでもいいらしい。室内に迷い込んだ羽虫を退屈そうに目で追っていた。

 と、それらの反応を受けたセーナが、観念したように利き手を振る。

「あーもう、しょうがないなぁ。了解。じゃあ、お姉さんについてきなさい。リアと二人で、町の中を案内してあげる」

「あ、ごめん。あたし無理。片づけなきゃいけない仕事あるし」

「なんでよ!? アタシ一人でガイドしろっての!?」

「うん、セーナ姉一人でお願い。部屋の掃除とかもしなきゃなんないし。あ、どっちか報酬三万ゴーロであたしの部屋掃除する気ない? そんな散らかってないはずだから、一時間もかからず終わると思うんだけど。観光とか興味ないほう」

「レプがする!」

「あんたはダメ。絶対遊ぶから」

「わたしは観光したいです。おいしい食べ物とかあるお店行きたいです」

「じゃあ、あたしやるーっ。アセンブラで貯金全部使っちゃったから、今はお金のほうが欲しいーっ」

「じゃあ、決まりだね。このあと、アリスはあたしと一緒に第三の塔サード・タワー。ルナはセーナ姉に町案内してもらいなよ」

「はい、分かりました。よろしくお願いします、セーナさん」

 頷き、ルナがセーナのほうを向いてペコリと会釈する。

 セーナは「えっ?」と両目を丸くすると、

「……え、ちょっと待ってよ。アタシ、まだ一人でもやるとは一言も……」

「よろしくお願いします」

 トドメを刺すように、ルナがもう一度、今度はより深く頭を下げる。

 ああ、これは決まりだな、とブレナは密かに思った。セーナのことはあまりよく知らないが、見るからに押しに弱そうなタイプである。

 結局、案の定、彼女はこのあと嫌々ながらもガイド役を引き受けることになるのだが――それをブレナが知るのは、翌朝になってからだった。

 運命の再会が、そこから始まる混沌の物語が――その口を大きく広げて、主役の到着を今か今かと待ち望む。
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