転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第3章

第64話 死闘

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 神歴1012年4月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 午後7時50分――ラーム神殿前。

「着きました。ナミ様、ここがラーム神殿です」

 振り向き、ミカエルは大仰に両手を広げて言った。

 と、数歩遅れてその場に到着したナミが、皮肉げに笑ってそれに応じる。

「なるほど。前に住んでいた、ルミナシア神殿と似たような雰囲気だな。威圧的で排他的。あいつらしいよ」

「中にはおそらく、ナギ様だけではなく、ギルバードもいるでしょう。あたしの力でどれだけの時間、奴を抑えられるかは分かりませんが――」

「必要ない。ちゃんと対策は練ってあるよ。おまえはここにいて、あとから神殿の中に入ってこようとする者の足止めをしろ」

「承知しました。ではさっそく――」

 答えて。

 ミカエルは、ゆるりと『その方向』を見やった。

 左斜め前方、二十メートル。

 が、訝しげな視線をこちらに向けていた。

 淫靡な興奮が、腹の底からせり上がる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後7時51分――ラーム神殿前。

 ルーナリア・ゼイン――ルナは、怪訝に眉をひそめた。

 ラーム神殿の入り口に、女が二人立っている。

 一人はミカエル。

 もう一人は――。

「黒髪黒目……」

 知らず、口からそれがぼそりと落ちる。

 黒髪黒目。

 腰のあたりまで伸びた艶のある黒髪と、氷のように冷たく、でもどこか淋しげな雰囲気を醸し出す漆黒の瞳。年齢は(人間なら)おそらく二十歳前後だろう――まだ少女のあどけなさも多分に残している。息を飲むほどに美しい女性だが、同時にどこか空恐ろしいともルナは感じた。

(……十二眷属? でも、だとしたらなんでミカエルさんが一緒に……)

 分からない。

 分からないが、ルナは見逃すことのできない大事だと直感した。

 と、そうこうしているうちに、黒髪黒目の女(着ている服まで黒なので全身黒づくめの女だ)が、ゆったりとした足取りで神殿の中へと入っていく。

 ルナは慌てて、自身も神殿のほうへと歩を進めた。

 リアからは「怪しい人間を発見したら、一人で対処しようとしないですぐに報せること」というような注意を受けていたが――この状況、報せに戻っているゆとりはとてもない。すぐに追わねば、とルナはとっさにそう判断したのである。

 が、神殿の前へと至るその直前で、ミカエルがそれを阻むように彼女の前へと歩み出る。

 まるでそうすることが当たり前であるかのように、そうして彼女は言った。

「おっと、ここから先へは通さないよ。ああ、何があっても通せないさ」

「……これは、どういうことですか?」

「どういうことって?」

「今のヒト、黒髪黒目でした。十二眷属ですよね? なんでミカエルさんが十二眷属と一緒にいたんですか?」

「なんで? なんでって……おもしろいこと訊くね。敵と仲良くおしゃべりなんてする馬鹿がいると思うかい?」

「……目の前に、います」

「ハハっ、これはいい。でも、あんたが言うとあんまり皮肉に聞こえないから不思議だよ。本気で怪訝に思ってる、みたいに聞こえちまう。まさかとは思うけど、この状況でまだ『構図』が理解できてないってことはないよね?」

「……リリース」

 つぶやき、ルナは刀身モードのダブルを利き手に握った。

 黒刀ゲルマの重みが、ズシリと全身に伝わる。

 彼女はそのまま、両の瞳を闘争の色に染めた。

 それを見たミカエルが、満足げに笑う。

「そう、そういうことだよ。あたしはあんたの敵で、シェラ殺害犯の一人。詳しい事情は分かんなくても、それだけ分かればじゅうぶんだろ? じゅうぶん殺し合いのできる理由になる。それ以上の情報は、必要かい?」

「いえ、じゅうぶんです。あなたがシェラさん殺害に関わっていたと知れただけでじゅうぶん。その他のことは、あなたを倒したあとにさっきの十二眷属のヒトから訊き出します」

「いいね。もちろん、その『倒す』は『殺す』という意味だよね?」

「はい、そういう意味です。今から、

 ハッキリと、言い切る。

 ルナは、覚悟の瞳で腰を落とした。

 文字通りの『死闘』が、そうして始まる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後7時53分――ラーム神殿前。

我儘なセルフィッシュ尖塔・ロック

 放たれた言葉と共に。

 ルナの足もと――その地面が、突として槍のごとく突き上がる。

 今までの彼女だったら、おそらくはその突発的な動きに対処しきれず、大きなダメージを負っていただろう。最悪、串刺しにされていた可能性すらある。

 が。

「――――っ!?」

 ミカエルの両目が、驚きに染まる。

 ルナは華麗なステップであっさりその一撃をかわすと、その流れのまま、一気に間合いを殺してゲルマを振るった。

 シュバ!

 黒光りする刀身が、のけ反ったミカエルのあごの先をサクリと切り裂く。

 ルナは続けざまに、今度はミカエルの右太ももに強烈な左のローを見舞った。

「ぐ……ッ!」

 痛みに顔をしかめたミカエルの身体が、わずかに左方向へとよろめく。

 ルナはここぞとばかりに、必殺の右ハイキックを彼女の顔面に叩き込んだ。

 ごぎゃ。

 手応えが、物語る。完璧にあごをとらえた一撃。受けた衝撃で、ミカエルの身体は数メートル後方まで弾け飛んだ。

 が、無論のこと、これで終わるはずはない。

 隙という隙さえ見せずに、ほとんど反射の速度で立ち上がったミカエルは、心底愉しそうに両目を細めて、

「ククッ、いいねぇ。前よりさらに良くなってるじゃないか。剣撃と打撃のコラボレーション。成長速度がえげつなくて、ゾクゾクしちゃうよ」

「強がらないでください。ひざ、ちょっと笑ってますよ」

「……ああ、そうだねぇ。確かにちょっと足にきてるよ。良いタイミングで、良いトコにもらっちまったからね。ホント、今の一連は見事だった。あたし、Mっ気はないと思ってたんだけど…………正直、軽くイキかけたよ。いやマジな話でさ」

「…………??」

 イク?

 どこに?

 ルナは怪訝に眉をひそめた。

 それを見たミカエルが、嬉しそうにカッカと笑う。

「いいねいいね、その顔好きだよ。ああ、やっぱりあたしは根っからのSだ。なんにも知らない無垢な少女を見ると、身も心も滅茶苦茶に汚してやりたくなる。ま、順序としては身を汚したあとに心だね。顔の形が変わるくらいボコボコに殴りつけたあとに、その耳もとでゆっくりじっくり言葉攻めを――」

「すみませんが、もうその気持ち悪い口から出る気持ち悪い言葉は聞きたくないです。首から上を斬り飛ばせば、黙ってくれますか?」

「さあ、どうだろうねー? 試してみれば、分かるんじゃないかい?」

「そうですね。では、試してみることにします。次の一連で、あなたの口から下劣な言葉を奪います」

 終わらせる。

 シェラの仇を取り、そうしてミカエルかのじょとの浅い因縁にもケリをつける。

 ルナは、細く長い息を吐いた。

 因果応報を、正しい形で送って届ける。

 
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