転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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最終章

第105話 神の座をかけた戦い

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 神歴1012年6月10日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。

 午前9時35分――宿屋前の広場、宿から少し奥まった地点。

「貴様ッ!? まさかリリーを……!」

「リリー? ……ああ、申し訳ないですがナミ様、あの娘も半殺し状態でどこぞの場所に転がしております。ほかにもセブンズリードの娘二人と、ブレナ・ブレイク……おまえの仲間の黒刀使いも同様だ。オレがその気になれば、おたくらとの勝負を切り上げて、刹那のうちに彼女たちにトドメを刺しに行ける。状況が理解できたかな?」

 男の説明に、ブレナは短く黙考した。

 嘘の可能性がふたつある。

 ひとつは、男がルナやリアらと遭遇していないという可能性。

 もうひとつは、遭遇はしているがという可能性。

 否、もうひとつあったか。

 そのもうひとつの可能性を、ナギが発する。

「貴様が約束を守るという保証は? 戦っている最中に、隙を見つけて捕らえている者たちにトドメを刺しに行くかもしれない」

「保証はない。が、そんなことをするくらいなら最初から殺しているよ。ああ、もう殺してるって可能性もだからないぜ。瀕死のまま、ちゃんと捕らえている。信じる信じないはおたくらの自由だがね。オレの言葉を嘘だと決めて、全員でかかってきてももちろんかまわない。どうする?」

「…………っ」

 ナミの、悔し気な息遣いが聞こえる。彼女の心はもう決まったようだ。

 ブレナはナギを見やった。

「……奴の要求を飲むしかないようですね。人質を盾に、、と迫らないあたりは、いくぶん良心的だ。まあ、そこまで要求されたら、問答無用で人質は切り捨てますがね」

 ナギならそうするだろう。男もそれを分かっているから、そこまでは要求しない。

 サシでの勝負というのは、落としどころとしては悪くないと言えた。

 いずれ。
 
 男の要求を飲む。

 どうやらナギの行き着いた結論も、やナミと同様らしかった。

 ブレナは、言った。

「分かった。おまえの言うとおり、サシでやろう。俺が最初に相手になる。ナギ、ナミ、それでいいか?」

「かまいませんよ。父上にお任せします。この女が始末するのが筋だとは思いますが、

「??」

 意味深な言葉。

 気にはなったが、ブレナは流した。そこに思考を割いている状況ではない。

 彼は代わりに、ナミへと視線を向けた。

 と、彼女は複雑な表情を浮かべながら、

「……好きにすればいい。が、貴様のあとはわたしがやる。番が回ってくることは、万にひとつもないだろうがな」

「ああ、ないよ。俺が一番手で、俺で終わる」

 ブレナは確固たる口調で断言した。

 そのまま、闘争のまなこで男を見やる。

 受けた男は、

「了解。おたくが最初ってことだな。いきなりメインディッシュってのはもったいない気もするが、まあいいだろう。二戦目以降が楽になる」

 そう言って、自身の瞳もすべからく闘争そのの色に染め上げた。

 始まる。

 ヴェサーニアの運命をかけた戦いが。

 否。

「ブレナ・ブレイク、これは『革命』だ。この戦いを制して、おたくに代わってこのオレが――このミヒャエル・ミュラー改め、ハイン・セラフォントが

 男――ハイン・セラフォントとの『神の座』をかけた戦いが、そうして始まる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午前9時50分――宿屋前の広場、宿から少し奥まった地点。

 無駄に動くべきではない。

 座して待ち、カウンターで仕留める。

 それが、ブレナの取った戦法だった。

 全神経を研ぎ澄ましていれば、現れた瞬間に気配で察知できる。

 待ちガイルに徹することが、この相手には最良と判断したのだ。

 だが。

 

 想定していた以上に、すぐ現れ、すぐ消える。

 カウンターで仕留めるどころか、相手の巧みなヒットアンドアウェーにいいように翻弄される有様だった。

(……あの剣、地味に切れ味がありやがるぜ。一度のダメージはたいしたことないが、塵も積もればだ。それに対応をミスれば、いつでも致命傷に持っていかれる怖さもある)

 戦いが長引けば長引くほど、少しずつだが確実に神経がすり減らされていく。

 が、かといって、焦ってこちらから攻撃を仕掛けても無駄に隙を与えるだけだ。

 厄介な状況だった。

「やれやれ、なかなかどうしてコイツは反則レベルの身体能力だぜ? これだけ仕掛けてなお、致命傷を与えられないって事態はさすがに想定してなかった」

 離れた位置に姿を現したハインが、いったん休憩とばかりにそう放つ。

 ブレナは、気を緩めずに返した。

「反則レベルは、おまえのその特殊能力のほうだろ? 転生と共に与えられたそれかどうかは知らないが、俺の造ったこの世界にはふさわしくないんだよ。邪道だ」

「邪道? だがこれからはこっちが正道になるんだぜ。おたくの造った『ダブル』や魔法こそが邪道になる」

「ならねえよ。これから何百年何千年経とうが、そんな未来は訪れない」

「どうかな? そいつはこの戦いの『結末』しだいじゃないのかね?」

 ヒュッ。

 言葉の終わりに、ハインが消える。

 と、ほぼ同時にこちらの右斜め後方に姿を現した彼の一刀を、ブレナは文字どおり首の皮一枚でやり過ごした。

(……この十数分の攻防で、分かったことが『ふたつ』ある)

 ひとつは、身体能力そのものは自分のほうが明確に『上』だということ。

 ハインのそれは、おそらくはナギやナミと同程度だろう。自分に比べて、つまりはそれほど不幸な前世ではなかったと推察できるが、まあそんなことはどうでもいい。

 自分のほうが身体能力――『力』が上だという事実のほうがはるかに大事である。

 そして、もうひとつ――。

(……攻撃パターンだ。攻撃パターンのバリエーションが少ない)

 否、

 出現するのは、真後ろか左右どちらかの斜め後方。距離も、当たり前だが刃が届く範囲内だ。

 さらにはそこからの攻撃パターンも大まかに三種に分けられる。

 首を狙った一振りと、胸と腹を狙った一刺しだ。

 どの攻撃パターンを選択するかは、出現位置によって決まる。

 斜め後方に姿を現したときは、首狙いの一閃。

 背後に現れたときは、胸か腹を狙った一刺しだ。

(……胸か腹。この二択は完全にランダムだが、ここまで絞り切れれば『リスク』を取る価値はある。あとはその『覚悟』があるかどうかだ)

 覚悟。

 ブレナは唇の端をわずかに釣り上げ、笑った。

 改めて問うまでもない。

 ガンギマリだ。

 彼は左の拳を強く握った。

 と、そのタイミングでハインが再び姿を消す。
 
 現れたのは、

「――――っ!!」

 プシュ。

 滑らかに、何かを突き刺す音が鳴り。

 飛び散った鮮血が、ラドンの土を赤く染める。

「ブレナ!!」

 ナミの叫び声が一瞬、耳の端に触れたが、ブレナは直後に意識の全てを『そのことのみ』に集中させた。

 

 

 握った自慢の名刀で、

「……ぐっ!? 貴様ッ!!」

「……どうした? ? そりゃ抜けないだろうぜ。俺のほうがおまえよりもだからな」

「…………っ!」

「瞬間移動して、逃げることもできないよな? この状況、俺も一緒に飛ばすことになる。そいつはつまり、

 ただ単に、場所が変わるだけだ。

 が、ただ変わるだけだ。

 ブレナは、速やかに『言葉』を放った。

 右手に握った魔法モードの『グロリアス』を、ハインの胸部に突きつけながら。

 終結を呼び込む、意志のこもったその『言霊』を。

傲慢な火炎アロガント・ブレイズ

 生まれた爆炎が、定めたターゲットを骨の髄まで焼き尽くす。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午前9時53分――宿屋前の広場、宿から少し奥まった地点。
 
 目を開けて、最初に見えたのは『ナミ』の顔だった。

 こちらから視線を外した状態で、明後日のほうを向いている。

 彼女はその視線のまま、冷ややかに言った。

「目覚めたか。なら、さっさと『古代の治癒エンシェント・ヒール』を使って全快しろ。 『祝福の治癒ブレス・ヒール』を三度かけるほど、わたしはお人好しではないぞ」

「……二度は、かけてくれたんだな?」

 間違いない。

 全快とまではいかなくても、五割程度はすでに回復している。

 までしてくれて、じゅうぶんに至れり尽くせりの対応だ。

 ブレナは薄く笑った。

 と、ナミがあきれたように言う。

「……まったく、無茶な戦い方をする。数センチ刃がズレていたら、貴様とて死んでいたぞ」

「二分の一で外れただけだよ。腹に食らってれば、意識を失う前に『古代の治癒エンシェント・ヒール』を唱えられた。それにおまえは知らないかもしれないが、心臓ってのは実は真ん中付近にあるんだ。左胸じゃない。奴も知らなかったようだがな」

「その割には、しっかり意識は失ったな。説得力のない話だ」

 まあ、確かに。

 もしかしたら、ナミの言うように意外と『ギリギリ』だったのかもしれない。

 とまれ。

「『古代の治癒エンシェント・ヒール』」

 お言葉に甘えて、全快の一言。

 最上級回復魔法の力によって、そうしてブレナの体力は見る間に最大値にまで回復した。

「助かったよ。ありがとう。おまえのおかげで死なずにすんだ」

 そう言って立ち上がり(名残惜しくはあったが)、ブレナはナミの肩をポンと一度叩いた(本当は千年前のように頭を撫でてやりたい気分だったが、すごい剣幕で反発されるだろうことが予想できたので肩を叩くに留めた)。

「……礼などいらん。前のときの借りを返しただけだ。それに、。この程度、恩に感じる必要さえない」

 ナミのその言葉に。

 ブレナはようやくと、そこで視線を『その人物』に向けた。

 ハイン・セラフォント。

 全身黒こげ状態で、大の字になって倒れている。

 その傍らには、ナギの姿もあった。

 ブレナは、ゆるりとその場所へと移動した。

「死んでいるとは思いますが、トドメを刺しますか?」

「……ああ、刺すよ。確実に息の根を止める」

 ナギの言葉に短く応じ。

 ブレナは、刀身モードに切り替えた『グロリアス』を頭上高く掲げた。

 そのまま、迷いなくいかづちの一刀を振り下ろす。

 が。

 ヒュッ。

 

 ターゲットの――ハイン・セラフォントの身体が、目の前から突と消える。

 まさか?

 だが次の瞬間、その『まさか』の事態が疑いようのないほど判然とブレナの前に示される。

 視線の先、数メートル。

 全身黒焦げになりながらも、
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