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最終章
最終話 全ての悪を根絶やしに
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神歴1012年、6月13日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。
午前9時55分――ラドン村、宿屋前の広場。
「これだけ誘っても、首を縦に振らないとはな。さすがに少し傷つくぞ」
両頬をほんのわずかに膨らませ、ナミが言う。
と、すぐさま、オッドアイの少女が分かりやすくそれに続いた。
「ぐなあーっ、ナミ様を傷つけたーっ、謝れーっ! なんで一緒にガルメシアに来ないんだー! ナミ様、こんな一生懸命誘ってるのにー!」
「いや、ンこと言われてもなぁ……。もう目的は全部果たしたし、これ以上、旅を続ける理由は……」
「オイラは別に、ガルメシアに行ってもいいよー。ナミとは久しぶりに会ったし、もっと一緒にいたい気持ちある」
「レプも、もっとナミやリリーとお喋りしたい! 二人とお喋りするのは楽しい!」
「あたしもー! それにナミ様のお菓子美味しいし、もっといっぱい食べたいー!」
「そうか、おまえはなかなか見所があるな。良い味覚を持っている」
アリスの言葉に、ナミが秒で反応する。
ものすごく、もうどこからどう見ても完全無欠に嬉しそうである。
どうやら手作り料理を褒められるのが、彼女にとって一番の喜びポイントらしい。
ブレナは、やれやれとかぶりを振った。
そのまま、問答無用に言い切る。
「ダメだ。おまえは親御さんのもとに返す。レプもチロも、わがままを言うな。ナギたちと同じ船でギルティスに戻る。これは決定事項だ」
「なあ、横暴だー! ブレナさんは横暴だー!」
「そうだそうだー! ブレナは横暴だー! オイラは断固として抗議するー!」
がこんっ。
ガツン!
ブレナは、二人の頭に立て続けにゲンコを落とした。
言う。
「帰るぞ。三度は言わない」
「……ぅぅ、分かったよー。わがまま言わずに帰るー」
「……ぅぅ、オイラもー。てゆーか、オイラに対するゲンコだけ明らかに会心の一撃だったんだけど? たまたま……?」
たまたまだ。
とまれ、納得した二人に代わり、今度はルナが前に出る。
「リリーちゃん、あのときは本当に助かりました。改めてお礼です」
「お礼なんていらないよー。師匠を殺さないでいてくれて、ボクッちのほうこそ感謝感激雨あられだよー」
リリーがお礼を言った理由が、思わぬタイミングで判明した。心底、どうでもいいことではあったが。
ブレナは、ナミの前へと再度歩み出た。
「じゃあな、ナミ。またいつか、チロと一緒に会いに行くよ」
「二年以内に来い。チロだけじゃなく、ここにいる全員を引き連れてな。そのときは、おまえたちに昨夜の話の続きをしてやろう」
「ホントに!? 楽しみー!」
「ブレナさんの秘密、第二弾ですね」
「……ちょっと待て。おまえ昨日、こいつらに何話したんだ?」
「何? 別にたいした話はしていない。ガールズトークの延長線上で、二人が聞きたそうにしていたことを話してやっただけだ」
「いやだからそれが何かを聞いてんだよ!」
「それは内緒だ」
「ないしょー」
「内緒ですね」
「…………ッ」
女子特有の(この中で女子っぽい女子などアリスくらいなものだが)謎の結束感に、ブレナはグッと奥歯を噛みしめた。
いつのまにこんなに親しくなったのか。
お互い、昨日までは『敵同士』という位置づけだったはずだが――ブレナにはおよそ理解のできない距離の縮まり方だった。
(……まあ、二人の反応を見るかぎり、たいしたことは話してないだろう。口止めしとくべきだったのかもしれないが――正直、そんなことに思考を割いていられるほどの精神的なゆとりはなかったしな……)
いずれ、全ては今さらだ。
ブレナは気持ちを切り替えるように一息吐くと、ラドンの空気を目一杯自身の肺に流し込んだ。
ミレーニアでの短い旅が、そうして和気あいあいと幕を閉じる。
◇ ◆ ◇
神歴1012年、7月3日――ギルティス大陸、神都アスカラーム。
午後1時37分――アスカラーム、東門。
「ルナ、お別れだね」
そう言って、リアがルナの前へと右手を差し出す。
が、ルナはなかなかリアのその手を握ろうとはしなかった。
ブレナは横目で、彼女の顔をそろりと見やった。
泣いていた。
思いっきり、泣きじゃくっていた。
「あーもう! ルナ、そんな顔して泣かないでよー! あたしまで泣きたくなっちゃうじゃん!」
「レプは別に泣きたくならない。別れは笑顔で飾るもの。顔で笑って心で泣く女と巷では有名……」
「……いやなにその渋い女。五十になってもそんな女にはなれんわ……」
ツッコむセーナの目にも、少しだけ光るものが滲む。
ついにはアリスまでが泣き出したが――ルナのそれは、そんな次元ではなかった。
「……リア、さん……ひぐっ」
何かを言おうと口をひらくも、言葉にならずにまた号泣。
そんなことを三度繰り返して、ようやくとルナはリアの手をギュッと握った。
でも、それでもまだ言葉は紡げない。
先に発したのは、リアのほうだった。
「……ほら、いつまでも泣かない。チビたちに笑われるよ」
「……すび、ばせん」
レプやトッドに笑われまいと、そこでルナが無理やりに涙を止める。
と、グッと顔を上げた彼女に、リアは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「また、いつでも遊びに来なよ。あんたが来ないなら、あたしが暇を見つけて帝都に行く。それまでの、短いお別れ」
「……はい、それまでの短いお別れです」
短いお別れ。
そう言って抱き合う二人の姿に、ブレナはなんだか気恥ずかしくなって思わず隣のチロの頭を軽く小突いた。
乾いた、良い音がした。
「……え、なんで今、オイラのこと小突いたの……?」
「……いやなんとなく」
ブレナは、苦笑いで虚空を見やった。
大昔に過ぎ去った青春の匂いに、まともな大人は耐えられない。
◇ ◆ ◇
神歴1012年、7月31日――ギルティス大陸、帝都レベランシア。
午後3時37分――帝都レベランシア、ブレナ邸。
「戻ってきたぞー!」
「来たぞー!」
戻ってきた。
ブレナは、レプと共に両手を上げて入室した。
数か月ぶりの我が家は、だが思っていた以上に埃とカビの臭いにまみれていた。
「家中の窓、開けてきますね。とりあえず、換気が必要です」
そう言って、ルナがテキパキと動く。
対して、アリスはぐーたらそのものだった。
「疲れたー。このソファー懐かしいー。でも、カビ臭いー。でも、気にしないー」
よく分からない感想をリズムよく落として、そのままソファーにダイブする。
レプがすぐに、それを真似た。
「おい、おまえら、ぐーたらしてないで掃除を手伝え。てゆーか、アリス。おまえはさっさと家に帰れ」
「やだー、まだ帰らないー! まだ一緒に遊ぶー!」
「いや遊ぶな! 帰らないなら掃除を手伝え! 手伝わないなら帰れ!」
が、結局アリスは最後までどっちの選択もしなかった。
「ここがブレナの家かぁー。なんか思ってたより、庶民的だなぁー。オイラはこういう感じ、でも嫌いじゃないけど」
「おい待て、チロ。なに当たり前のようにそこに座ってんだ? テーブルのその席は俺の席だぞ。主の席を勝手に奪うな」
「なんだよー! 細かいなー! 席なんかどこでもいいじゃんかー! ブレナの器は子供茶碗より小さい!」
「んだとー!」
むんずと。
テーブルの上座に堂々と着地したチロをむんずと掴み、そのままソファーのほうへと投げ捨てる。
チロは「ふぎゃ!」などと発しながら、ソファーの上を二度三度バウントすると、ものの見事に花瓶の中にスポリと収まった。
芸術的なスリーポイントシュートである。
ブレナは満足げに一人頷いた。
とまれ。
ようやく帰ってきた。
長いようで短かった旅から、ようやくと我が家に戻ってきた。
ブレナは、グイっと上半身を伸ばした。
心地の良い感覚。
と、二階から戻ってきたルナが気の利いたことを言ってくる。
「全窓開放終わりました。コーヒー、淹れますね。レプはオレンジジュース、アリスさんは紅茶でいいですか?」
「おお、オレンジジュース!」
「うん、紅茶でいいー」
「了解しました。チロさんは……花瓶の中の水を飲んだので大丈夫ですね」
「大丈夫なわけないじゃん! オイラもオレンジジュース飲むー!」
そこでどっと笑いが起きる。
ブレナも、珍しく笑った。
と、そのタイミングで、ルナが唐突に言う。
「明日から、新生ブレナ自警団活動再開ですね」
「……ああ、そうか。そうだったな。地道な悪党退治を、また始めないとな。三大組織の残党狩りにメドがついたら、今度は帝都近郊にも足を伸ばすか」
「いいですね。その勢いでそのまま、ヴェサーニア全土から悪党どもを一掃しましょう」
「……いや全土って。いくらなんでもそれは……」
「できますよ」
確信に満ちた語調。
ルナはこちらの言葉を遮るようにそう発すると、
「できますよ、わたしたちとブレナさんなら」
そう続けて、おもむろに意味ありげな視線をアリスへと送った。
気づいたアリスが、同様の眼差しで彼女を見返す。
と、彼女たちは示し合わせたように同時に口を切った。
「だって」
「だって」
だって。
それだけ言って、だが二人が再び見つめ合う。
数秒の沈黙。
それを経て、再度こちらを向いた彼女たちの顔は、これ以上ないほどの最高の笑顔に彩られていた。
その笑顔のまま。
その笑顔のまま、ルナとアリスは声を揃えていたずらっぽく言った。
「だってブレナさんは、わたし(あたし)たちの世界の『神様』なんだから」
「…………ッ」
世界に蔓延る悪党を根絶やしにする――。
壮大な目標を掲げて。
新生ブレナ自警団の、新たな門出がそうして始まる。
――了
※ ※ ※
今回の投稿分を持ちまして、本編完結となります。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました。うれしいです。
この場を借りて、深く御礼申し上げます。
もしかしたら、各キャラにスポットライトを当てたサイドストーリーや外伝などを書くかもしれませんが、そのときはまたお目を通して頂けると幸いです。
午前9時55分――ラドン村、宿屋前の広場。
「これだけ誘っても、首を縦に振らないとはな。さすがに少し傷つくぞ」
両頬をほんのわずかに膨らませ、ナミが言う。
と、すぐさま、オッドアイの少女が分かりやすくそれに続いた。
「ぐなあーっ、ナミ様を傷つけたーっ、謝れーっ! なんで一緒にガルメシアに来ないんだー! ナミ様、こんな一生懸命誘ってるのにー!」
「いや、ンこと言われてもなぁ……。もう目的は全部果たしたし、これ以上、旅を続ける理由は……」
「オイラは別に、ガルメシアに行ってもいいよー。ナミとは久しぶりに会ったし、もっと一緒にいたい気持ちある」
「レプも、もっとナミやリリーとお喋りしたい! 二人とお喋りするのは楽しい!」
「あたしもー! それにナミ様のお菓子美味しいし、もっといっぱい食べたいー!」
「そうか、おまえはなかなか見所があるな。良い味覚を持っている」
アリスの言葉に、ナミが秒で反応する。
ものすごく、もうどこからどう見ても完全無欠に嬉しそうである。
どうやら手作り料理を褒められるのが、彼女にとって一番の喜びポイントらしい。
ブレナは、やれやれとかぶりを振った。
そのまま、問答無用に言い切る。
「ダメだ。おまえは親御さんのもとに返す。レプもチロも、わがままを言うな。ナギたちと同じ船でギルティスに戻る。これは決定事項だ」
「なあ、横暴だー! ブレナさんは横暴だー!」
「そうだそうだー! ブレナは横暴だー! オイラは断固として抗議するー!」
がこんっ。
ガツン!
ブレナは、二人の頭に立て続けにゲンコを落とした。
言う。
「帰るぞ。三度は言わない」
「……ぅぅ、分かったよー。わがまま言わずに帰るー」
「……ぅぅ、オイラもー。てゆーか、オイラに対するゲンコだけ明らかに会心の一撃だったんだけど? たまたま……?」
たまたまだ。
とまれ、納得した二人に代わり、今度はルナが前に出る。
「リリーちゃん、あのときは本当に助かりました。改めてお礼です」
「お礼なんていらないよー。師匠を殺さないでいてくれて、ボクッちのほうこそ感謝感激雨あられだよー」
リリーがお礼を言った理由が、思わぬタイミングで判明した。心底、どうでもいいことではあったが。
ブレナは、ナミの前へと再度歩み出た。
「じゃあな、ナミ。またいつか、チロと一緒に会いに行くよ」
「二年以内に来い。チロだけじゃなく、ここにいる全員を引き連れてな。そのときは、おまえたちに昨夜の話の続きをしてやろう」
「ホントに!? 楽しみー!」
「ブレナさんの秘密、第二弾ですね」
「……ちょっと待て。おまえ昨日、こいつらに何話したんだ?」
「何? 別にたいした話はしていない。ガールズトークの延長線上で、二人が聞きたそうにしていたことを話してやっただけだ」
「いやだからそれが何かを聞いてんだよ!」
「それは内緒だ」
「ないしょー」
「内緒ですね」
「…………ッ」
女子特有の(この中で女子っぽい女子などアリスくらいなものだが)謎の結束感に、ブレナはグッと奥歯を噛みしめた。
いつのまにこんなに親しくなったのか。
お互い、昨日までは『敵同士』という位置づけだったはずだが――ブレナにはおよそ理解のできない距離の縮まり方だった。
(……まあ、二人の反応を見るかぎり、たいしたことは話してないだろう。口止めしとくべきだったのかもしれないが――正直、そんなことに思考を割いていられるほどの精神的なゆとりはなかったしな……)
いずれ、全ては今さらだ。
ブレナは気持ちを切り替えるように一息吐くと、ラドンの空気を目一杯自身の肺に流し込んだ。
ミレーニアでの短い旅が、そうして和気あいあいと幕を閉じる。
◇ ◆ ◇
神歴1012年、7月3日――ギルティス大陸、神都アスカラーム。
午後1時37分――アスカラーム、東門。
「ルナ、お別れだね」
そう言って、リアがルナの前へと右手を差し出す。
が、ルナはなかなかリアのその手を握ろうとはしなかった。
ブレナは横目で、彼女の顔をそろりと見やった。
泣いていた。
思いっきり、泣きじゃくっていた。
「あーもう! ルナ、そんな顔して泣かないでよー! あたしまで泣きたくなっちゃうじゃん!」
「レプは別に泣きたくならない。別れは笑顔で飾るもの。顔で笑って心で泣く女と巷では有名……」
「……いやなにその渋い女。五十になってもそんな女にはなれんわ……」
ツッコむセーナの目にも、少しだけ光るものが滲む。
ついにはアリスまでが泣き出したが――ルナのそれは、そんな次元ではなかった。
「……リア、さん……ひぐっ」
何かを言おうと口をひらくも、言葉にならずにまた号泣。
そんなことを三度繰り返して、ようやくとルナはリアの手をギュッと握った。
でも、それでもまだ言葉は紡げない。
先に発したのは、リアのほうだった。
「……ほら、いつまでも泣かない。チビたちに笑われるよ」
「……すび、ばせん」
レプやトッドに笑われまいと、そこでルナが無理やりに涙を止める。
と、グッと顔を上げた彼女に、リアは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「また、いつでも遊びに来なよ。あんたが来ないなら、あたしが暇を見つけて帝都に行く。それまでの、短いお別れ」
「……はい、それまでの短いお別れです」
短いお別れ。
そう言って抱き合う二人の姿に、ブレナはなんだか気恥ずかしくなって思わず隣のチロの頭を軽く小突いた。
乾いた、良い音がした。
「……え、なんで今、オイラのこと小突いたの……?」
「……いやなんとなく」
ブレナは、苦笑いで虚空を見やった。
大昔に過ぎ去った青春の匂いに、まともな大人は耐えられない。
◇ ◆ ◇
神歴1012年、7月31日――ギルティス大陸、帝都レベランシア。
午後3時37分――帝都レベランシア、ブレナ邸。
「戻ってきたぞー!」
「来たぞー!」
戻ってきた。
ブレナは、レプと共に両手を上げて入室した。
数か月ぶりの我が家は、だが思っていた以上に埃とカビの臭いにまみれていた。
「家中の窓、開けてきますね。とりあえず、換気が必要です」
そう言って、ルナがテキパキと動く。
対して、アリスはぐーたらそのものだった。
「疲れたー。このソファー懐かしいー。でも、カビ臭いー。でも、気にしないー」
よく分からない感想をリズムよく落として、そのままソファーにダイブする。
レプがすぐに、それを真似た。
「おい、おまえら、ぐーたらしてないで掃除を手伝え。てゆーか、アリス。おまえはさっさと家に帰れ」
「やだー、まだ帰らないー! まだ一緒に遊ぶー!」
「いや遊ぶな! 帰らないなら掃除を手伝え! 手伝わないなら帰れ!」
が、結局アリスは最後までどっちの選択もしなかった。
「ここがブレナの家かぁー。なんか思ってたより、庶民的だなぁー。オイラはこういう感じ、でも嫌いじゃないけど」
「おい待て、チロ。なに当たり前のようにそこに座ってんだ? テーブルのその席は俺の席だぞ。主の席を勝手に奪うな」
「なんだよー! 細かいなー! 席なんかどこでもいいじゃんかー! ブレナの器は子供茶碗より小さい!」
「んだとー!」
むんずと。
テーブルの上座に堂々と着地したチロをむんずと掴み、そのままソファーのほうへと投げ捨てる。
チロは「ふぎゃ!」などと発しながら、ソファーの上を二度三度バウントすると、ものの見事に花瓶の中にスポリと収まった。
芸術的なスリーポイントシュートである。
ブレナは満足げに一人頷いた。
とまれ。
ようやく帰ってきた。
長いようで短かった旅から、ようやくと我が家に戻ってきた。
ブレナは、グイっと上半身を伸ばした。
心地の良い感覚。
と、二階から戻ってきたルナが気の利いたことを言ってくる。
「全窓開放終わりました。コーヒー、淹れますね。レプはオレンジジュース、アリスさんは紅茶でいいですか?」
「おお、オレンジジュース!」
「うん、紅茶でいいー」
「了解しました。チロさんは……花瓶の中の水を飲んだので大丈夫ですね」
「大丈夫なわけないじゃん! オイラもオレンジジュース飲むー!」
そこでどっと笑いが起きる。
ブレナも、珍しく笑った。
と、そのタイミングで、ルナが唐突に言う。
「明日から、新生ブレナ自警団活動再開ですね」
「……ああ、そうか。そうだったな。地道な悪党退治を、また始めないとな。三大組織の残党狩りにメドがついたら、今度は帝都近郊にも足を伸ばすか」
「いいですね。その勢いでそのまま、ヴェサーニア全土から悪党どもを一掃しましょう」
「……いや全土って。いくらなんでもそれは……」
「できますよ」
確信に満ちた語調。
ルナはこちらの言葉を遮るようにそう発すると、
「できますよ、わたしたちとブレナさんなら」
そう続けて、おもむろに意味ありげな視線をアリスへと送った。
気づいたアリスが、同様の眼差しで彼女を見返す。
と、彼女たちは示し合わせたように同時に口を切った。
「だって」
「だって」
だって。
それだけ言って、だが二人が再び見つめ合う。
数秒の沈黙。
それを経て、再度こちらを向いた彼女たちの顔は、これ以上ないほどの最高の笑顔に彩られていた。
その笑顔のまま。
その笑顔のまま、ルナとアリスは声を揃えていたずらっぽく言った。
「だってブレナさんは、わたし(あたし)たちの世界の『神様』なんだから」
「…………ッ」
世界に蔓延る悪党を根絶やしにする――。
壮大な目標を掲げて。
新生ブレナ自警団の、新たな門出がそうして始まる。
――了
※ ※ ※
今回の投稿分を持ちまして、本編完結となります。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました。うれしいです。
この場を借りて、深く御礼申し上げます。
もしかしたら、各キャラにスポットライトを当てたサイドストーリーや外伝などを書くかもしれませんが、そのときはまたお目を通して頂けると幸いです。
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