転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
111 / 112
最終章

第109話 戦いのあと

しおりを挟む

 トッドは、淋しかった。

 ずっとずっと、淋しかった。

 淋しくて淋しくて、淋しかった。

 目が覚めたら、知らない場所にいて、周りには知らない人しかいない。

 お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、お姉ちゃんも、少し前に知り合った優しそうな女神のお姉ちゃんも――誰もいない世界で目覚めて、トッドは淋しくてたまらなかった。

 淋しくてたまらない日々を、そうして彼は何日も何日も何日も過ごした。

 やがて、彼の意識はプツリと途切れる。

 そこから先は、ずっと長い夢を見ているような感覚だった。

 夢の中で、トッドは怪獣になって暴れていた。

 怪獣はかっこよくて、強くて、一緒になって暴れるのは楽しかったが、悪いこともたくさんしていたので悲しいと思うときも多かった。

 でも、怪獣になっていないときは、ずっと淋しいだけの夢なので、トッドは怪獣になっているときの夢のほうが好きだった。

 怪獣になっているあいだは、淋しい気持ちを忘れることができたから。

 でも。

 でも。

 でも、今は怪獣になっていないときの夢のほうが楽しい。

 リアお姉ちゃんが、いつも一緒に遊んでくれるから。

 リアお姉ちゃんが、いつも一緒にお休みしてくれるから。

 リアお姉ちゃんが、ずっとずっと一緒にいてくれるから。

 だから。

 だから。

 だから今はまた、早くあの夢に戻りたい……。

 
      ◇ ◆ ◇


 神歴1012年6月10日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。

 午前11時37分――ラドン村、宿屋2階の客室。

「……リア、おねーちゃん……?」

 目が覚めて、最初に見えたのは『大好き』な顔だった。

 その顔が、言う。

 そっけなくも優しい、いつもの眼差しで、こちらの顔を覗き込むようにして。

「おはよう。お寝坊さん」

「リアおねーちゃん!」

 トッドは、その顔――リアの身体に飛びつくように抱きついた。

 リアだ。

 リアお姉ちゃんだ。

 なんだか久しぶりに会ったような気分である。

 トッドはたまらなく嬉しかった。

 彼は自分が寝ているベッドの隣をパンパンと左手で叩いて、

「いっしょにねんね! ねんね!」

「……もうお昼なんだけど?」

「おひるね! いっしょにおひるね!」

「……甘えんぼ」

 あきれたようにそう言って、でもリアがクスッと笑う。

 彼女はトッドの要望通りに、彼と一緒のベッドに横になると、

「どっか痛いとか、ない?」

「ない! どこもいたくない!」

「……そう、なんだ」

 リアの目が、ほんの少しだけ愁いを帯びる。

 彼女はその瞳のまま、トッドの身体を優しく抱き寄せると、

「……ごめんね、ほったらかしにしてて。これからは、ずっと一緒だからね」

「……うん、ずっといっしょ」

 ずっと一緒。

 安心と安らぎが、身体中を駆け巡る。

 トッドはまた眠たくなった。

 彼は甘えるようにリアの身体にしがみつくと、

「……はやく、おうちにかえりたい」

「……うん、おうち帰ろうね。一緒に、帰ろう……」

「……うん、いっしょかえる」

 おうむ返しにつぶやき。

 トッドは再び、眠りに落ちた。

 穏やかな夢の中で見る、楽しい夢がそうして始まる。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午前11時39分――ラドン村、宿屋2階の客室前。

「トッドは不死身です。不老不死の存在。どれだけのダメージを負おうが、一時間もすれば元の状態まで完全回復する。何も飲まなくても、何も食べなくてもおそらくは半永久的に生きていける」

 ドアの隙間から二人の(リアとトッド)様子を見ながら、ナギが言う。

 ブレナは、怪訝に聞いた。

「……?」

「そんな目で見るのはやめてください。理解不能な生命体を理解不能なままにしておくのはリスクが高すぎる。いろいろとリサーチするのは当然でしょう?」

「…………」

「それに、トッドは聖堂騎士団を計三千人以上も殺している。当人にその間の記憶がなかったとしても、許される行為ではない。個人的な感情のみで話せば、不死の存在でなければこの手で八つ裂きにしたいと今でも思っていますよ」

「…………」

 ブレナは、黙った。

 見方を変えれば、トッドは確かにただの大量殺人鬼だ。

 今回こそ犠牲は出なかったが、前回までは官民合わせて(民の部分はそれほどの数ではないとナギは言っていたが、それはナギたち聖堂騎士団の命がけの働きあってのものなのだろうと考えると酌量の余地は少ない)相当数の死傷者を出していたに相違ない。

 多くの部下を失ったナギからすれば、不倶戴天の敵以外の何物でもないだろう。

「無論、それを利用してミレーニアを落とそうと考えた私が言える義理ではないことは重々理解していますが。ですが、個人の感情を語るのは自由でしょう?」

「……いや、悪かったよ。余計なことを言った。おまえの立場からすれば、非道な行いでもなんでもない。当然の行為だ」

 一方の立場に寄りすぎては、正否を見失う。

 軽々に言えることではなかったと、ブレナは反省した。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後12時3分――ラドン村、宿屋1階の食堂。

 四人掛けの丸テーブルを囲むようにして、ブレナたちはランチを取っていた。

 ほかにいるのは、ルナ、アリス、レプのいつもの四人である(あ、チロもいた)。

 ブレナはタマゴサンドを右手につまみながら、

「ていうか、おまえなんで元気に登場できたんだ? 最高のタイミングで来てくれて助かったけどよ。ハインの奴に半殺し状態にされて、その辺に捨て置かれてたんじゃないのか?」

「……捨て置かれてました。でもリリーちゃんがやってきて、回復魔法で癒してくれたんです。理由は分かりませんが、なぜかお礼も言われました。ほんの十数分前まで敵として戦っていたんですけど……」

「……なんだそれ? 意味分からん。まあ、意味分からなそうな奴には見えたけど」

「おそらく黒マントの男、ハインでしたっけ? その男が裏切者だと分かって、急遽立場を変えたんでしょうけど……。お礼を言われた理由は皆目見当もつきません」

「……まあ、何かしらの意味はあるんだろう。本人の中では。いちいち――」

「なあーっ、話についていけないーっ! あたしたちを置いてくなーっ!」

 と、会話の途中で突然とアリスが割って入る。

 彼女はいつものように、両手を頭の上にバッと振り上げると、

「二人だけで盛り上がるの禁止ーっ! つまんないーっ!」

「いえ、別に盛り上がってはまったくないです」

 盛り上がってはまったくない。

 ブレナは短く嘆息すると、視線をレプとチロの二人に向けた。

 二人とも、こちらの会話などまるでおかまいなしに、目の前の昼食を競い合うように腹へと詰め込んでいる。

 ブレナは連続で、今度は深く長い息を吐いた。

 激しい戦いの終わりは、いつも決まって締まらない。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後12時15分――ラドン村、村はずれの小高い丘。

 墓と呼べるようなものでは到底ない。

 ただ遺体を埋め、その上に申し訳程度の十字を立てただけ。

 セーナはその墓の前で、でも真摯に両手を合わせていた。

「いまだに信じられん。まさか、ディルスが……」

 背後に立つジャックが、ぼそりとそう吐き落とす。

 すぐさま反応したギルバードの言葉は、実に彼らしいシンプルなそれだった。

「奴よりも強い敵がいた。それだけの話だ。満足して逝ったと、私は思っている」

 セーナも、そう思う。

 戦いの中で、自分よりも強い者に殺される。

 それはディルスが望んでいた、最高の『最期』だったに相違ない。

 でも――。

(……早すぎでしょ? もっとおじいちゃんとかになってから、その理想の最期迎えなさいよ。心の準備とか、できてないっての……)
 
 彼らしいといえば、彼らしいのだが。

 セーナは、両目を開けて空を見上げた。

 雲ひとつない晴れ間から、しずくが一滴頬を伝う。

 彼女はもう一度、目を閉じて祈った。

 これ以上、涙が流れてしまわぬように――。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後12時37分――ラドン村、宿屋前の広場。

「一年前に、聖堂騎士団の隊長各二人を殺ったのは、奴だったのだろうな」

 ナギは、言った。

 隣には、かつての半身――邪王ナミが立っている。

 自分とよく似た、けれども何もかもをが違う甘ったれな片割れ。

 その片割れが、相変わらずのピントがズレた言葉を吐き落とす。

「それに気づけなかったわたしの責任でもある。気にしてはいない」

「気にする? 何を勘違いしている。私は別に謝っているわけではないぞ?」

「…………ッ」

 ナミの両頬に、ほんの少しだけ赤みが差す。

 早とちりを恥ずかしいと思ったのか、あるいはたんに腹が立ったのか――どちらかは分からないが、彼女はそのまま、こちらからぷいっと顔を背けた。

 やれやれと、ナギは鼻息を落とした。

 細かな部分は、千年前から何も変わっていない。

 千年前――空に浮かぶ、永久不滅のあの島で、共に暮らしていたあのときから。

 ナギはもう一度、今度は口から鉛の息を落とした。

 そうして、最後に言う。

 それは数百年ぶりに放った、短くも特別な二文字だった。

「そのすぐにヘソを曲げる癖は、いいかげん改めるんだな。

 たまにはそう呼んでやるのも、悪くはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...