そして今日も、押入れから推しに会いに行く

ツルカ

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サースティールート

宿題を手伝ってもらったの日

 昼休み。ほんまものの女子高生をしています。
 机に突っ伏して宿題を消化していると、隣の席の鈴木くんが珍しいものを見るような顔をして言った。

「成田って、学校で勉強するようなやつだったっけ……?」
「学校は勉強をしにくるところですよ、鈴木くん?」

 何を言っているのかと真面目に答えたら、怪訝な顔をされてしまった。

 最近勉学が疎かになっている自覚があって、というか普通に宿題が間に合わなかった。
 8時に帰ってくれば全然勉強する時間くらい取れるはずなんだけど。
 どうして寝てしまうのだろう。まるで勉強したくないようだ。





 帰宅後、今日は宿題のプリントも鞄に詰めて出かける。
 いつどこでもやりたくないなら、サースと同じ部屋の空気を吸いながらやれば気持ちも和らぐかとひらめいたのだけれど、煩悩と勉学は相性が悪そうな気がする。
 だって煩悩には最初から全面降伏しているのだから。 

 早く帰ってきたので4時過ぎに研究室に着いてしまったら、扉は閉まっていて、鍵も掛かっていた。
 きっとまだ来ていないんだろうなって思いながら、私は中庭に戻るとベンチに座って宿題をやり出す。
 数学のプリントがどうしても引っかかってしまって、解けない問題を飛ばしながら次に進んでいた。
 集中して宿題をして30分くらいした頃、声が掛けられた。

「……数学か」

 驚いて見上げると、サースが長い髪を垂らしながら、私の手元を覗き込んでいた。

(この世界にも数学あるの?あるのかも。二つの世界はよく似ているって言っていた気がする)

「サース様……!この問題解けますか?」

 サースを見上げて頼み込むと「様は付けなくていいと言っただろう」と笑いながら、彼はベンチの隣に座り込んだ。
 あっ。近い。良い匂いが……。体温が。髪の毛がサラサラしてる。触りたい。

「貸してみろ」

 私の煩悩に気付かないサースはそう言うと、手元からプリントと下敷きにしていたノートと、ペンを奪い取った。
 さらさらとペンを走らせる。真面目な表情で問題に向き合うサースはとてもカッコイイ。
 あっという間に空欄にしてあった箇所を解いて返してくれた。
 ふおぉぉぉ。凄い。さすがラーバンダー王国が誇る英知の結晶!

「……この範囲は学校で教えていないと思うが」

 ぎくり、としてサースを見上げると、サースは探るような瞳を私に向けている。
 異世界設定って言っていいんだっけ?
 と思ったけれど、言っても信じてもらえない気がした。

「別の場所でも勉強をしていまして……」

 嘘ではない。むしろ本当のことだった。
 私の言葉を受けて、サースは少し考えるようにしてから、ふっと笑った。

「お前は、普通じゃないところが多いな」

 とても穏やかな口調で、優しく私に微笑んで言ってくれたから、彼がこのことを追求する気がないことが伝わって来た。
 その微笑みはとても綺麗で、私はドキドキしていた。

「研究室に行ってるぞ」
「私も行きます。ありがとう、サース」

 数学の宿題は終わったので、後は家に帰ってから英語のプリントやれば大丈夫だろう。
 研究室に入ると、私は上機嫌でスケッチブックを出しサースを描き出した。

「……機嫌がいいな」
「サースのおかげです」

 制服の上に白衣を着る動作をするサースの、伸ばした腕とか、なびく長い黒髪とか、そんな全部が色っぽくて私は見惚れていた。

「なんだ?」

 なんだもなにも被写体が良すぎて困ります。

「……今日もいい日ですね」
「なんだそれは」

 サースが笑い出す。本当に良く笑う人だと思う。

 いつものように静かな時間が流れる。暗くなった頃サースが灯りを点けた。
 私はずっと彼を描いていた。集中すると時間も分からなくなる。程よい時間になるとサースが声を掛けてくれたので私たちは寮へと向かった。歩きながらなんでもないことを話した。

「昨日のビーフシチューは美味しかったですね」
「そうだな」
「サースは好きな食べ物はありますか?」
「なんでも食べられるが……あまり考えたことがないな」
「じゃあ好きなもの思い付いたら教えてくださいね」
「なんだそれは。まぁ、考えておくが」

 だって目を離したら食事を抜いてしまいそうなサースに作ってあげたいじゃないですか。

「お前は?」

 意外なことに質問を返された。

「えっと、私の主食は米ですね。分かりますか?」
「ああ」
「お米大丈夫でしたら、今度持ち込みますよ。お米を握って携帯食にして食べる文化がありまして」
「ほう」
「今度、作って来ますね」
「負担にならなければ」

 もう、サースは私が研究室に通うこともご飯を持ち込むことも反対しないんだなって。
 こんな会話からそれが伝わってきて、私は心からほっとしていた。

「でも寮の食堂にも通いたいですし、次の休みの日に持ち込みましょうか?」
「次の休日か……何か予定があったような」

 その一言で思い出す。五月の休日に起こるサースイベントと言えば。
 サースが実家に帰るのだ。母親の誕生日の祝いの会に顔を出すのだけれど、実家の家族に疎まれている彼はその場でも心無い言葉をあびせられ、孤独の心を深めていくのだ。 

「ああ、たいした用事じゃなかったな、飯を一緒にするくらい、出来るが」

 え、何言ってるの!?たいしたことあるよ!?

「……どうするんだ。ランチか?別に研究室じゃなくてもいいが」
「……え?」
「学校でなくても、構わないと思うが」

 え、っと?
 サースが実家に帰らないとどうなるんだ。イベントが起こらない?

「……出かけてもいいの?」
「ああ」

 でもどこに?

「か、考えておきます」
「ああ」

 そんなこんなで頭をぐるぐるとさせていたら、食堂に着いてしまい、私たちは食事を頼むと聖女テーブル(?)に向かった。

「サリーナ様本日は授業にいらっしゃいませんでしたね」

 ピンク髪ヒロインのローザ様がニコニコと話しかけてくれた。メアリー様は訳知り顔で微笑んでいる。

「昼間は用事がありまして……」

 そういう私に、サースが視線を向けてじっと見ている。そうだよねぇ、学校に行ってなかったのに魔法研究室にだけ通っているのがバレた訳ですし。

「ギアン様とご一緒出来て昨日はわたくしたち大変楽しかったですのよ」

 メアリー様が話題を変えるように言ってくれた。

「普通科の方たちと日頃話せる機会もないですから。これからもご一緒してくださいね」
「……変わっているな、聖女たちは皆そうなのか」
「そういう訳ではありませんが、良く笑ってくださる方がいらっしゃると、わたくしもとても楽しくなれますもの」

 その言葉に、サースは驚いたような表情をしてから、なぜか隣に座る私を見つめた。

「……笑っているのか?」
「はい……」

 とってもよく。
 私の返事に、さっと顔を赤らめるようにしてから、サースは黙り込む。
 その様子を見ながらも、私たちはそのことには触れずに食事をはじめた。
 ローザ様とメアリー様は一瞬顔を見合わせていたけれど、二人で微笑んでいた。

 その日は、穏やかに食事をして、一日が終わった。



(帰ってからは英語の宿題を終わらせて寝ることが出来たとっても平和な一日でした。次の休日……二人で出かける……?この夢は神様のご褒美なんだろうか。いつ覚めるのだろうか。死後の妄想なんだろうかってベッドの中で思った日)

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