2 / 7
再会は空席とともに
しおりを挟む
卒業式の朝、僕らの中心にいたはずの席は、最初から空席だったかのように整然としていた
女遊びの激しい彼は言う。
「あいつは、俺の空っぽを笑わなかった」
画家の息子は言う。
「彼は、誰にも染まらない色をしていた」
小説家は言う。
「あの人は、僕の物語に意味をくれた」
教師を目指す彼は言う。
「あの子は、誰よりも人を見ていた」
帰国子女の彼は言う。
「その人は、俺をよそ者にしなかった」
誰もが、自分だけの「太陽」を定義する。救い、理解者、愛、光、あるいは守るべき対象。
けれど。
中心にいた太陽は僕らをどう思っただろうか。
僕達に、どんな言葉を残しただろうか。
太陽は言う。
「 」
記憶の中の彼は、いつも笑っている。
けれど、その唇が形作る最後の言葉だけが、どうしても思い出せない。
僕らは二十歳になった。
成人式の式典を終え、駅前の大きな居酒屋は二十歳の熱気で溢れかえっていた。貸し切られたフロアもあちこちで、ジョッキの触れ合う音と、二年前よりも少し大人びたスーツ姿の同級生たちの声が交差する。
「遥斗」「遥斗くん、幹事ありがとね」
「久しぶり、みんな相変わらずだね」
居酒屋の入口で受付を回していた、端田遥斗だ。
僕の記憶では二年生の前半まで、彼は「女遊びの激しい男」として有名だった。二年の後半、太陽とつるみ始めてからは憑き物が落ちたように落ち着いていたはずだ。
今は、またもとに戻ってしまったんだろうか。
女子の肩に馴れ馴れしく手を置く彼の笑顔は、どこか空虚に見えた。
「水輝じゃん、変わらないな」「次の個展いつなの」
「そろそろ、開きたいと思ってるよ」
少し離れた場所で、場違いなほど静かな空気をまとっているのは栄川水輝だ。
父が著名な画家で自身も「若き天才」としてメディアに取り沙汰されることも多い。高校の頃、その美しさと家柄ゆえに「貴公子」だの「女みたい」だのと揶揄されていた。
「お。内薗だ」「小説読んだよ、すごかったな」
「ほんと?ありがとう」
そして僕、内薗隼人。
高校三年の頃、太陽に背中を押されて新人賞に応募した。今はそこそこ名のしれた小説家という肩書を得たけれど、心の何処かではまだ納得の行く物語が書けないでいる。
「お、レオじゃん」「久しぶり」
「やっほー、みんな元気してた?」
居酒屋の雰囲気を更に明るくしたのは、阿多レオだった。3年生の頃に転校してきた帰国子女だ。父がアメリカ、母が日本人のハーフで、日本語は完璧だが迷いのないスキンシップの多さはやはりこの国のリズムとはどこか違う。英会話講師のバイトをしているという彼は、誰にでも平等な光を振りまく。
「お、魚崎だ」「魚崎先生!」
「久しぶり、先生とか呼ぶなよ。まだ卵なんだから」
照れくさそうに笑うのは、教員を目指している魚崎大輔だ。真面目で、頭も良くて、けれど堅苦しくない。クラスの父親みたいな存在だった。あの頃と一番変わらないのはおそらく彼だろう。彼が先生になったら、きっと生徒たちの孤独に寄り添うんだろう、そう思わせる安心感がある。
クラスのみんなが揃った。
予約されたテーブルには、あとひとつ、席が余っている。
女遊びの激しい彼は言う。
「あいつは、俺の空っぽを笑わなかった」
画家の息子は言う。
「彼は、誰にも染まらない色をしていた」
小説家は言う。
「あの人は、僕の物語に意味をくれた」
教師を目指す彼は言う。
「あの子は、誰よりも人を見ていた」
帰国子女の彼は言う。
「その人は、俺をよそ者にしなかった」
誰もが、自分だけの「太陽」を定義する。救い、理解者、愛、光、あるいは守るべき対象。
けれど。
中心にいた太陽は僕らをどう思っただろうか。
僕達に、どんな言葉を残しただろうか。
太陽は言う。
「 」
記憶の中の彼は、いつも笑っている。
けれど、その唇が形作る最後の言葉だけが、どうしても思い出せない。
僕らは二十歳になった。
成人式の式典を終え、駅前の大きな居酒屋は二十歳の熱気で溢れかえっていた。貸し切られたフロアもあちこちで、ジョッキの触れ合う音と、二年前よりも少し大人びたスーツ姿の同級生たちの声が交差する。
「遥斗」「遥斗くん、幹事ありがとね」
「久しぶり、みんな相変わらずだね」
居酒屋の入口で受付を回していた、端田遥斗だ。
僕の記憶では二年生の前半まで、彼は「女遊びの激しい男」として有名だった。二年の後半、太陽とつるみ始めてからは憑き物が落ちたように落ち着いていたはずだ。
今は、またもとに戻ってしまったんだろうか。
女子の肩に馴れ馴れしく手を置く彼の笑顔は、どこか空虚に見えた。
「水輝じゃん、変わらないな」「次の個展いつなの」
「そろそろ、開きたいと思ってるよ」
少し離れた場所で、場違いなほど静かな空気をまとっているのは栄川水輝だ。
父が著名な画家で自身も「若き天才」としてメディアに取り沙汰されることも多い。高校の頃、その美しさと家柄ゆえに「貴公子」だの「女みたい」だのと揶揄されていた。
「お。内薗だ」「小説読んだよ、すごかったな」
「ほんと?ありがとう」
そして僕、内薗隼人。
高校三年の頃、太陽に背中を押されて新人賞に応募した。今はそこそこ名のしれた小説家という肩書を得たけれど、心の何処かではまだ納得の行く物語が書けないでいる。
「お、レオじゃん」「久しぶり」
「やっほー、みんな元気してた?」
居酒屋の雰囲気を更に明るくしたのは、阿多レオだった。3年生の頃に転校してきた帰国子女だ。父がアメリカ、母が日本人のハーフで、日本語は完璧だが迷いのないスキンシップの多さはやはりこの国のリズムとはどこか違う。英会話講師のバイトをしているという彼は、誰にでも平等な光を振りまく。
「お、魚崎だ」「魚崎先生!」
「久しぶり、先生とか呼ぶなよ。まだ卵なんだから」
照れくさそうに笑うのは、教員を目指している魚崎大輔だ。真面目で、頭も良くて、けれど堅苦しくない。クラスの父親みたいな存在だった。あの頃と一番変わらないのはおそらく彼だろう。彼が先生になったら、きっと生徒たちの孤独に寄り添うんだろう、そう思わせる安心感がある。
クラスのみんなが揃った。
予約されたテーブルには、あとひとつ、席が余っている。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる