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第伍話

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 これは、珍しく僕が感動したお話。
 感動……では無いか。
 切なくなった。

「若くして亡くなった同僚がいるの」

 僕にそう言ったのは、久し振りに会った従姉だ。
 再従姉だったか?まぁ、そこは良いか。
 僕よりも大分上の彼女は、結婚はせずに趣味に給料を注ぎ込む独身貴族だ。

 既に自分名義のマンションも買っている。
「ローンがなきゃ働かないのに!」といつも酔う度に愚痴る。

 そんな彼女が、今回は愚痴では無く、不思議な話をしてくれた。


【誕生日プレゼント】


「彼女は私よりちょっと上でね。離婚歴はあるけど、それを笑い話に出来る明るい人だったの」
 かなり仲が良かったらしく、何年か前にお土産をくれた沖縄旅行も、その同僚と一緒に行ったものだったそうだ。

 前の職場の同僚だったが、職種が変わっても仲良くしていた。
 かなりの酒好きの従姉と変わらぬ酒好きで、漫画好きなところも同じだったらしい。

「朝まで飲んで、彼女の家に漫画を読みに行くのが定番だったわ」
 猫好きも同じで、従姉もその彼女も多頭飼いするほどの猫好きだったのだとか。


「彼女の方に彼氏が出来ちゃって、2年位メールのやり取りだけだったのよ」
 従姉の持ったグラスの中で、氷がカランと音をたてる。
「久し振りに来たメールが『くも膜下出血で死にかけました』だったわ」
 えぇえぇぇえ!?
 ん?でも亡くなってないじゃん。

 僕の表情に気付いたのだろう。
 従姉は苦笑する。

「それから彼女は2年生きたわ。検査入院から『明日、念の為に手術しま~す』って軽い連絡が来て、そのまま亡くなったの」
 は?
 葬儀でもね、彼女の妹が「絶対に医療事故だ」って言い張ってたらしい。
 危険のほぼ無い手術だと聞かされていたそうだ。


 殆どの友人が、何も、それこそ最後の挨拶も出来ずにお別れになった。
 従姉も実感が湧かなかったそうだ。

 それから3ヶ月後。
 従姉の誕生日の日に、夢に彼女が出て来たのだ。
 歌うように『いつものように、いつもの別れ、いつもと同じようにさよならを』と言っていたそうだ。

「号泣しながら起きたの初めてよ」
 と従姉は笑った。


 それから翌年も、誕生日に彼女が夢に出て来たそうだ。
 一緒に買い物に行っていて、好きな物を選べと言われたらしい。
 沖縄のお菓子を選んだら「誕生日おめでとう」と言われて、目が覚めたそうだ。


 次の年は、なぜか倉庫で一緒に働いていていたらしい。
「こんな事してて良いのかな」
 従姉が彼女に愚痴ると、彼女に職場のビル内を引っ張り回され、階段を何度も上り下りしたのだそうだ。

「どこか良い所あった?好きな所へ移ると良いよ」
 彼女にそう言われ、目が覚めた。
 当時、従姉は職場の人間関係に悩んでおり、転職を考えていた。
 彼女の夢を切っ掛けに、今の職場へ移ったそうで、仕事の愚痴はあるけれど、楽しく働いている。

「それ以来、誕生日に彼女が来なくなっちゃった。3年経ったからなのか、私が当時の彼女と同い年になって、姉を卒業されちゃったのか、どっちかな?」

 笑った従姉の目元が潤んでいたのは、酒のせいだと思っておいた。


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