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第陸話
しおりを挟むこれは、ガチ過ぎて人に話すか悩んだ話。
他人の経験談だけど、ある意味僕の経験談でもある。
何となくあるよね?
たまり場になる家って。
駅から近いとか、お母さんが優しいとか、長居し易い雰囲気の家が。
学生時代、いや高校生時代に、僕にもそういう家があった。
【暗い家】
その家は、今どき珍しい平屋で、正直綺麗とは言い難い家だった。
でも庭も広く、その平屋の家も広かった。
友人の部屋は玄関のすぐ脇で、門から入って庭に回ると、友人の部屋に直接入れるので、何となく集まる頻度が上がっていた。
しかもおばさんが寛大過ぎる人で、高校生が集まってもとやかく言わない人だった。
偶に「お菓子食べる?」と、クッキーの大袋やポテチの大袋を差し入れてくれた。
皿に綺麗に盛り付けたりせず、特売の値段シールも貼ったまま渡してくるのだ。
皆、口には出さなかったけど、そんなおばさんを慕っていた。
ただその家には問題があり、家の裏が墓地なのだ。
友人の部屋は墓地から1番離れているから、普段は全然気にならない。
だが、どうしても玄関から出入りしなければいけない時に、その事を思い出す。
玄関から家の奥に続く廊下が、とにかく暗いのだ。
物理的な暗さでは無い。
廊下に電気は灯いているし、他の部屋から漏れる光も廊下を照らしている。
でも、暗いのだ。
それは僕だけではなく、他の人も感じていて、何なら住んでいる友人も感じていた。
やはり墓地に近い部屋には何かあるのか?と、当時は思っていた。
高校2年生の終わり頃、例の友人宅が建て替えをする事になった。
2階建てになり、友人の部屋は2階に移るそうだ。
「その間は狭いアパート暮らしだよ」
そういう友人の顔は、嬉しそうだった。
3年生になり、その友人とはクラスが離れてしまった。
家が建築中な事もあり、何となく疎遠になっていった。
「家が出来たんだ。遊びに来る?」
終業式の日、昇降口で偶然会った友人に新築の家に誘われた。
一緒に居たのが前の家に溜まっていた友人の一人だったので、二人で新築の家にお邪魔する事にした。
学校帰りだったし、当時は高校生だったから、勿論手土産なんて持って行かない。
まして新築祝いなんて、学校帰りに急に誘われたのだから当然持っていなかった。
白い新築の家は、とにかく綺麗だった。
「お邪魔します」
玄関から入り、階段を登る。
綺麗過ぎるからだろうか、なぜか居心地が悪い。
それでもすぐに帰る訳にはいかず、友人の部屋で話していた。
ノックの音がして、おばさんが入ってきた。
手には皿に盛られたクッキーやチョコ。そしてカップに入れられた紅茶。
それらを載せたお盆。
今までだったら特売の袋ごとのクッキーと、ペットボトルのお茶だった。
「余ったら持って帰れるし、アンタ達にはそれで充分!」
そう言う豪快なおばさんが好きだったのにな……その時は、そんな事くらいしか思わなかった。
「せっかくお家が綺麗になったから、また遊びに来てね」
おばさんはお盆を置いていく時、そう言って笑っていた。
何となく気まずくなった僕達は、早々に帰る事にした。
そのまま夏休みに突入したので、その友人とはそのまま疎遠になった。
3年生で受験があったせいもある。
そのまま高校を卒業し、完全に縁が切れてしまった。
「そういえばさ、溜まり場にしてた家あるじゃん?建て替えした」
高校のクラス会で、あの家に溜まっていた友人達が久しぶりに顔を合わせた時、一人が急に話し出した。
高校3年生の時のクラス会なので、その家に住む友人はこの場に居ない。
「おばさん、亡くなったって」
は?
あの家は、建て替えてからなぜか長居したくない雰囲気になり、ここに居る誰も行かなくなっていた。
それどころか、その家に住んでいる友人……もう知人だな……と連絡を取り合っている者もいなかった。
まだ家を建て替えて4年?5年?
それくらいしか経っていないのに、大分状況は変わったようである。
あの暗い家は、1部暗かったけど、居心地は良かった。
触れてはいけないものは、意外と近くにあるようだ。
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