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06:婚約者として

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 部屋に戻ったローズは、翌日の授業の準備をしていた。
 婚約が決定したのならば、フェデリーコが朝迎えに来るかもしれない。
 自然と顔が笑顔になった。

 アンソニーとローズは、婚約者なのにもかかわらず、一度も一緒に登校した事が無かった。
 フェデリーコはリリーを迎えに来ていたが、アンソニーが迎えに来ないならローズも一緒にと親切心で提案した瞬間、「もう迎えに来なくて良いです」とリリーが拒否した。

 ローズが遠慮して辞退しても、フェデリーコが『ローズも一緒に』と提案した事自体が気に喰わなかったようで、リリーはそれ以降絶対にフェデリーコと一緒に登校する事は無かった。



 翌日、予想通りにフェデリーコはローズを迎えに来た。
「おはようございます。アムネシア伯爵、マーガレット伯爵夫人」
 エントランスまで見送りに来ていた伯爵夫妻に、フェデリーコは挨拶をする。
 そしてその隣に立っているローズに、笑顔で挨拶をした。

「おはよう、ローズ」
「おはよう、フェデリーコ」
 フェデリーコが差し出した右手に、ローズが右手を添える。
 そのまま誘導されるままに、ローズの右手はフェデリーコの左腕に添えられた。

「学園に行くだけなのに、まるでパーティーにでも行くようなエスコートだな」
 伯爵の揶揄からかいの言葉に、ローズとフェデリーコは顔を見合わせてから頬を染め、それを見たマーガレットに更に温かい目で見つめられてしまった。
 幸せな空気が流れる。


 その幸せな空間を壊す声が階段の上から響いてきた。
 リリーである。


「フェデリーコ!迎えに来てくれたのね!もう怒ってないわよ、大丈夫!一緒に行きましょう?」
 学園に行くのには不釣り合いに飾り付けたリリーが階段を駆け降りて来た。
 髪にはアンソニーに貰った、アンソニーの瞳の色の緑の宝石が付いた蝶。
 耳には、アンソニーに貰った、アンソニーの髪と同じ銀色の地金に緑の宝石が付いた蝶のイヤリング。
 蝶をかたどった派手なアクセサリーは、勿論アンソニーの趣味である。

 ちなみにフェデリーコの髪色はプラチナブロンドで、瞳の色は青だ。
 リリーはフェデリーコに貰った、リリーの髪色の金に瞳の色と同じオレンジの宝石が付いたアクセサリーを、身に着ける気はないようだ。

 アンソニーから貰ったアンソニー色のアクセサリーを身に着けておきながら、フェデリーコに媚を売る滑稽さに本人だけが気付いていない。


「さぁ行きましょう!」
 いきなり許可も取らずに、フェデリーコの右腕に抱き着くように腕を回したリリー。
 その腕を、フェデリーコは自分の右腕を勢い良く高く上げる事で振り払った。

「私はに、婚約者以外を馬車に乗せるなど不誠実だとなじられた事があるので、たとえ婚約者の妹でも馬車に乗せる事は出来ません」
 貼り付けたような笑顔のフェデリーコを見て、リリーはただ茫然と立ち尽くした。



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