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08:本当の醜聞は誰のものか
しおりを挟む姉の婚約者と不貞を働いて婚約破棄になった令嬢が、また姉の婚約者を取ろうとしている。
しかもその婚約者は、自分が蔑ろにした元婚約者。
横取りしてまで手に入れた男は、手に入った途端に飽きて捨てたらしい。
捨てられた方の男は、絶望して部屋に引きこもっているそうだ。
たった1日でここまでの噂が広がったのは、リリーが級友に話した妄想のせいだろう。
朝のローズとフェデリーコの様子を見ている生徒達は、リリーの思い通りには動かなかった。
それどころか、逆にリリーの悪評が広がっていく。
アンソニーが謹慎しており、婚約破棄宣言以降、学園に居なかったのも悪評を加速させた。
アンソニーは、才色兼備な婚約者と伯爵家後継の夫という地位を捨ててまで選んだリリーに、たった数日で捨てられた哀れな男だと皆の中で確定していた。
「あれだけ仲睦まじいローズ様とハープネル侯爵子息に対して、姉が婚約者を横取りしようとしていると言っていたそうよ」
「まぁ!婚約者を横取りしたのは自分じゃないの」
「それにあれだけホッパード侯爵子息の色を纏っておいて、ハープネル侯爵子息が自分を好きだ、姉に邪魔されて可哀想って……ねぇ?」
「姉の婚約は壊しておいて、自分は元婚約者と元サヤ?悪女と言うか、既に娼婦ね」
「聞いたか?姉の婚約者を奪っておいて、捨てた元婚約者が姉と婚約したら、今度はそっちを奪いに行ったそうだぞ」
「アンソニーも馬鹿だよな。ローズ様の何が不満だったんだ?」
「伯爵家への婿入りを捨てるくらい、あの女が良かったんだろう」
リリーの奇行は、生徒からその親へとその日のうちに語られ、翌日には社交界へ娯楽性の高い話題として広がった。
次は何をしてくれるのか。
アンソニーとリリーはいつ社交界へ出て来るのか。
ローズとリリーの元には、山程の招待状が届くようになった。
ローズへは好意的な、心から新しい婚約を祝う内容で。
リリーへは好奇心を隠そうともしない、見世物にしようとしているのが透けて見える内容で。
勿論、同じような内容の招待状がアンソニーとフェデリーコの元にも届いていた。
『ぜひ婚約者の方とご一緒に』という一文が添えられて。
「全てを断るわけにはいきませんわよね」
招待状を手に溜め息を吐いているのは、ローズだ。
婚約の経緯を話すとなると、どうしてもリリーの醜聞に触れる事になる。
好意的な夜会やお茶会であっても、伯爵家の恥を晒すのは憚られた。
「お茶会は、私と一緒に行けるものだけにしましょう」
マーガレットがローズに微笑みかける。
「夜会の招待状は、フェデリーコと相談して決めると良いわ。あちらにもそれなりの量が届いているはずよ」
マーガレットの言葉にローズは、フェデリーコに会えるのが嬉しい反面、色々面倒だと思ってしまった。
そんな事を考えるのもまた幸せなのだと、アンソニーが婚約者の時とは違うのだと気付き、そっと頬を染めるローズを、リリーが憎々しげに睨んでいた。
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