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23:ドリアーヌ・マルリアーヴ

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「アンタが男だったら、私は悠々自適に暮らせたのに!」
 ドリーは幼い頃から、そう言われて育ってきた。
 母親は「私は伯爵家で働いていたのよ」と自慢するだけの、気位ばかりが高い女だった。
 伯爵のお手付きになる程度には美人だったが、愛妾になれるほどの器量は無かった。

 裕福な商家の愛人となり、ドリーを貴族が多く通う学園に通わせたのは、ドリーの父親のマルリアーヴ伯爵への意趣返しだったのかもしれない。
 常に「伯爵以上の男と結婚しなさい」とドリーに言っていた。
 ドリーも自分の可愛さを理解していたので、高位貴族の第二夫人以降を狙ってはいた。
 ただし、その場合は母親は見捨てて行く気満々だったが。


 ドリーがジョナタンを籠絡し、ジョフロワ公爵が見えてきた頃、それは起こった。
「アンタを旦那様に売ったから」
 母親が自分の荷物だけを纏めながらドリーに言う。
「は?」
 ドリーが問うが、荷物を纏める手は止めず、顔を向ける事すらしない。

「無一文で二人追い出されるか、大金を手にしてアタシだけ出て行くかって言われたのよ」
 美人だった母親も、寄る年波には勝てなかったようだ。
 衰える母親に、成長して女になっていく娘。
 金持ちの狒々ヒヒジジイが考える事など、火を見るより明らかだった。


 自分勝手な母親を突き飛ばし、動かなくなった体を狭い庭に埋めた。


 翌日、学園に行くとティファニーは登校して来なかった。
 ジョナタンにも、何日も会えなかった。
 やっと会えたジョナタンは、シャーロットとの婚約が自分有責で破棄になったと告げてきた。
 ジョフロワ公爵の予定が狂ってしまう。

 学園を卒業すれば、平民でも貴族の第二夫人になる事は可能だ。
 しかし正妻にはなれない。
 今まで通り、シャーロットにはジョナタンの正妻に居てもらわねば困るのだ。

 結婚前から愛人の居るジョナタンを、盲信的に愛しているシャーロット。
 相手にされていないのに、娼婦のように誘惑しようとする哀れな女。

 ドリーの存在が有っても、今までは別れる様子も見せなかったのに、なぜ。
 やっと登校してきたティファニーも、婚約破棄の話を認めた。
 何か様子がおかしいが、他人の事より自分の事だったので、深く追及はしなかった。


 シャーロットの元に、ドリーが婚約破棄の撤回を求めに行くと、意外な事を言われてしまう。

「ワタクシからティファニーに、婚約者が変更になっただけですわ」

 ティファニーは姉を嫌っていたからドリーに協力してくれただけで、自分が婚約者になったら、間違い無くドリーを排除しようとするだろう。


 公爵家に嫁げなければ、ドリーに残されているのは狒々爺の愛人の道だけだ。
 公爵家でなくても良い。
 最近、婚約者と一緒に居る所を見かけなくなった第二王子でも良い。
 婚約者が側に居ないのならば、隙が出来て付け入りやすくなる。
 そうだ。ジョナタンを利用して、第二王子へ近付こう。

 しかし、そう上手く事は運ばないものである。
 シャーロットが第三王子に囲われたのだ。
 そこからドリーの悪口を、第二王子に吹き込まれているに違いない。


 ドリーは、マルリアーヴ伯爵家へと向かった。
「貴族になれば、ジョフロワ公爵家の正妻になれるでしょう?私とジョンの関係は、調べて貰えば判るわ」
 そう、伯爵に取引を持ち掛けたのだ。
 無論ドリーの最終目的はジョナタンでは無い。
 第二王子その人だった。


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