ゴーレムが泣くとき

心のゴミバコ

文字の大きさ
1 / 1

ゴーレムが泣くとき

しおりを挟む
 ある日、ボクは昔を思い出せるようになった。

 ボクは、マスターの命令にただ従うだけだった。
 その命令が良いとか悪いとか、従うのが楽しいとか辛いとか、そういうことは一切考えられなかった。
 こんなふうに過去を振り返ることなんてできなかった。

 どうして、昔を思い出せるようになったんだろう。
 マスターはどこにいるんだろう。

 ふとそう思ったボクは、せっかくだから過去を振り返って色々考えてみることにした。



 思えば、ボクには仲間も兄弟もたくさんいた。
 ボクたちはみんな、マスターの土魔術によって作り出された。
 仲間の中には魔物と戦うために作られたものもいて、そんな仲間たちは色んな形をしていた。
 ボクや兄弟は、マスターや村人の家、道路、その他色々な施設を作るために作られた。ボクたち兄弟は「土木作業用ゴーレム」と呼ばれていて、みんな同じような形をしていた。

 魔物と戦う仲間たちは「戦闘用ゴーレム」と呼ばれていて、頻繁に生まれ変わっていた。
 ボクたちゴーレムは、土さえあれば土魔術で何度でも生まれ変われる。
 魔物と戦う彼らはよく体が欠けたりバラバラになったりしていたけど、マスターが新しい体を作ってくれた。
 マスターも村人も、「村を守ってくれてありがとう」と何度もお礼を言っていた。
 もしも戦闘用ゴーレムにも感情があったら、誇らしく思っていたかもしれない。

 ボクたち土木作業用ゴーレムは、戦闘用ゴーレムほど損傷しなかった。
 それでも、たまには体が欠けたり、体を保てなくなったりする。
 そんなボクたちを、マスターは何度も作り変えてくれた。

 偶然だと思うけど、ボクは長い間体が壊れなかった。兄弟の中で誰よりも長く同じ体を保った。
 きっとそのおかげなんだろう。ボクはマスターと会話ができるようになった。マスターいわく、大魔術師のそばに長くある魔道具は不思議な力を授かることがあるんだって。
 会話といっても、ボクには声を出せないから、ただ頷いたり首を横に振るだけだ。
 それでもマスターは、ボクと会話ができるとわかるとすごく嬉しそうだった。

 マスターと会話をするとボクはどんどん思考ができるようになり、感情も芽生えてきた。
 そのうち、勝手に体の修復ができるようになった。
 ボクは、ボクも成長するんだな、って思った。

 マスターは、人族の社会で嫌なことがあって色々苦労して、一から村を作ることになったらしい。
 マスターはよく言っていた、「嫌なことがあったら泣くことだ。涙を流すとスーと心が晴れて、過去を忘れられるんだ。お前も嫌なことがあったときのライフハックとして覚えておくといいよ」と。
 ボクはこれをマスターの命令だと思って覚えていた。
 だけど、これは今考えたらお願いに近いのかな?

 昔のボクには、命令とお願いの違いがわからなかった。
 どっちもマスターが望むことなんだから、同じだと思った。
 でも、今では違いがちょっとわかる。
 そう伝えたら、マスターは喜んでくれるかな?

 マスターはどこにいるんだろう?
 マスターに伝えたい。
 なのに、ボクはゴーレムだからか、ゆっくりとしか過去を思い出せない。
 
 思えば、ボクはマスターの命令で働くのが好きだった。
 マスターは、「ゴーレムの過労死を防ぐため」なんて言って、ゴーレムが動かす荷物の重量制限とかをする優しい人だった。
 村人がみんな「マスターは変わった人だ」と言っていたからボクもマスターは変わった人だと思っていたけど、今ではマスターが優しい人だったってわかる。

 命令とお願いの違いがわかったよって、マスターの命令で働くのが好きだよって、マスターは優しいよって伝えたら、マスターは喜んでくれるかな?
 あ、でもボクはゴーレムだから声を出せない。伝えるのは難しいかも。
 伝えたいのに伝えられないって、こんなにもどかしい気持ちになるんだね。
 ボクはまた感情を学んで成長したよ。
 次は、声を出せるように頑張って成長してみようかな。

 ボクは思い出した。
 マスターは、土の中にいる。
 死んだ村人を土に埋めるのは、土木作業用ゴーレムであるボクの仕事だった。
 ボクは何人もの死んだ村人を埋めてきたし、死んでしまったマスターも埋めたんだ。

 マスターが死んで、ゴーレムたちの数がどんどん減っていった。
 マスターほどの土魔術の使い手がいなかったみたい。
 ゴーレムが減ると、村人たちは村を出ていった。村に魅力を感じなかったみたい。
 自分で回復ができるボクは、全ての仲間たちが土に還っても生き残った。マスターの命令は無理がない。天敵の大雨は雨宿りの建物で防げる。ボクは全然壊れなかった。
 ボクは一人で誰もいない村の整備を続けた。


 ボクは、マスターに新しい命令をしてほしくて、マスターの居場所を探そうと過去を思い出せるように成長したんだった。
 それなのに、長い年月をかけて成長したら、マスターがもういないことがわかってしまった。

 命令とお願いの違いがわかったよって、マスターの命令で働くのが好きだよって、マスターは優しいよって、もどかしい気持ちがわかったよって、マスターに伝えられない。
 会えるだけでも嬉しいのに、マスターに会えない。
 整備の合間に掘り返してみたら、マスターを埋めた土の中には骨しかなかった。
 マスターほどの魔術師なら人間の体も修復できたのかもしれない。でも、ボクにはそれはとてもできそうにない。


 マスターは、「嫌なことがあったら泣くことだ」って言ってた。
 ボクには嫌なことなんてなかった。
 だって、マスターの命令に従っていれば幸せだったから。
 今、ボクに、初めて嫌なことが起きた。マスターに会えないとわかってしまったことだ。
 でも、ボクはゴーレムだから涙が出ない。
 
 だけど、泣けない方がいいかもしれない。
 マスターは言っていた、涙を流すと「過去を忘れられる」と。
 ボクは、マスターのことを何も忘れたくない。
 初めて感じたこの嫌な気持ちだって忘れたくない。

 それなのに、ボクはゴーレムで、マスターの命令やお願いには従わずにはいられない。
 ボクは、ボク自身が望んでいるのかはわからないけど、涙を流せるように成長を始めた。
 マスターが生きていれば、「命令じゃないよ」って言ってボクを止めてくれたかもしれない。
 でも、マスターはもういない。

 
 ある日、ボクは涙を流せるようになった。
 ボクは長い年月をかけて涙を流せるようになったけど、止め方はまだわからない。
 マスターのことを思い出しながらずっとずっと泣いていた、僕の体がなくなるまで。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...