リライト・ザ・ブルー

潮海璃月

文字の大きさ
65 / 119
Re:04 Recognize

12

しおりを挟む
「……俺の母さんがいなくなったのはさ、まあ、不幸な事故なわけで、別に母さんが俺を捨てたわけじゃない。じいちゃんが死んだのだってそう。父さんの単身赴任だって、俺がヤダって言ってこっちに残った。でも侑生は――」

「……病院の後継ぎだから」

「そ。……侑生の母さんは侑生も連れて出て行こうとしてたけど、侑生の父さんが長男で、侑生も長男だから、雲雀病院の跡取りを連れて行かせるもんかってめちゃくちゃ揉めたらしいよ。裁判するかって話にもなって……。詳しい話は知らないけど……侑生は、母親は自分を捨てて出てったんだって言ってた。母親にとっての自分はその程度だったんだって」


 侑生は、長期休みの度に、お母さんと妹さんのいる岡山へ行っていた。私は漠然と、家族に会いに行っている程度にしか思っていなかった。

 離婚事件は、数えるほどとはいえ経験したことがある。両親がどちらも親権を主張する場合は少なくないけれど、この点はお上の古い考えがあるせいか、特別な事情がない限り母親に親権が認められる。特に、侑生のお母さんは女医だ。経済的に自立しているし、調停・裁判になったとしても間違いなく侑生の親権を獲得していただろう。

 でも、侑生のお母さんはそれをしなかった。そこまでして争わず、侑生の親権を元夫に譲った。

 その母親に対して、侑生はどんな感情を抱いていて、そして会いに行っていたのか。

 当時の私は、そんな簡単なことを、考えたことがなかった。


「……だから、侑生が英凜と付き合い始めたの見て……」


 なにを口にしようとしたのか、昴夜は一度閉口して悩んで、もう一度口を開く。


「……元気になったなって思ってた。侑生、あんまり寂しそうじゃないなって」


 本当に? 本当に、侑生は、寂しくなかったのだろうか?

 付き合っている私が、侑生でなく昴夜を好きだと、ずっと知っていたのに?

 昴夜はもう一度、マフラーに顔を埋めなおす。私の視線から逃れるように、目も閉じた。


「だから……侑生は一人で平気な顔してるけど、本当は寂しがりだから、侑生のこと、よろしくね」


 なんて答えればいいのか分からなかった。それは、昴夜にそんなことを言われたからではなかった。

 言葉を失った私の隣で、それっきり昴夜も口を閉ざしてしまった。

 電車の外は、しんしんと雪が降っていた。すっかり暗くなってしまった窓の向こう側で、白い結晶が落ち続けている。ガタンガタンと揺れながら、北海道の森の中を、電車が走る。それを見ていると、たまに、窓に映る自分も見える。右肩には侑生の頭が載っていて、左側では昴夜がじっと縮こまるようにして座っている。

 結局、運河の前で写真は撮らなかったし、お揃いのストラップも買わなかった。

 侑生は、それでよかったのだろうか。

 札幌駅に着いた後、侑生を起こしているうちに、昴夜は友達と行ってしまった。終点なのをいいことにゆっくりと起きた侑生は、吹き曝しのホームで背伸びをした後「寒」とすぐに縮こまる。


「……晩ご飯のお店、地下から歩いて行けるよね。行こう」

「ん。昴夜らはどうしたの」

「すすきのでラーメン食べるんだって、行っちゃったよ」


 過去の侑生は、狸寝入りだった。電車の中で、じっと目を閉じたまま、でも私と昴夜の会話を聞いていた。

 でも、いまの侑生はどうなのだろう。あのときとは話した内容も全然違うし、聞いていたとして侑生の行動は全く変わってしまうだろうけれど。


「腹減った、早く行こう。寒いし」

「……そうだね」


 少なくとも、いまの侑生は、口を滑らせることはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

私はバーで強くなる

いりん
ライト文芸
33歳、佐々木ゆり。仕事に全力を注いできた……つもりだったのに。 プロジェクトは課長の愛人である後輩に取られ、親友は結婚、母からは元カレの話題が飛んできて、心はボロボロ。 やけ酒気分でふらりと入ったのは、知らないバー。 そこで出会ったのは、ハッキリ言うバーテンダーと、心にしみる一杯のカクテル。 私、ここからまた立ち上がる! 一杯ずつ、自分を取り戻していく。 人生の味を変える、ほろ酔いリスタートストーリー。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...