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第2章 「やりたいこと」を探して
第6話 新たな出会い
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教室には新入生特有の期待と不安が入り混じった空気が充満し、それぞれの生徒に重石となってのしかかる。それぞれが誰と話せばいいのかわからず、妙に静かな教室は居心地悪い。
幸いにもここは大きな市のど真ん中にある、俗に言うマンモス校であるため様々な学校から生徒が来る。お互いが初対面であり、最初から仲良しグループができていないのが救いだ。私は自分の席を黒板に貼られた表で確認すると、二列目の中程の席に座った。
朝のチャイムが鳴ると同時にガラガラと教師が入ってきた。
「新入生の皆さんおはようございます。このクラスの担任の和田健二と言います。担当教科は国語です。宜しくお願いします。」
和田先生は黒板に大きく自分の名前を書き、笑顔を一切見せることなく最低限の自己紹介をした。
黒縁のメガネにスーツをきっちりと着込んだ50代くらいの見た目からも、無駄が嫌いそうな喋り方からもわかる。この人は多分とても厳しい人だ。「誠実」「真面目」といえば聞こえはいいが、そのような人間は大概、「愛想がない」「融通がきかない」という生徒に嫌われる要素を後生大事に抱えている。生徒と先生の相性が悪いと行事ごとの時クラスが荒れるので、少しでも優しそうな先生に当たりたかったと思う……と言ってもまだ始まってすらいないので全て推測の範囲でしかないが。
私がどうでもいいことを考えている間も先生の話は続く。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから皆さんは体育館に移動し、入学式に出ます。その後この教室に戻ってHRを行い、一斉下校となります。では時間までにトイレや水分補給などを各自済ませておいてください」
先生はそう言うと教員用の椅子に腰かけた。
周りの人がバラバラと席を立つ。教室に残っている人たちからも少しずつ話し声が聞こえ始めた。私もトイレに行こうかと思い教室を出る。教室を出てすぐ右向いにトイレがある……が他のクラスの人もいてなかなかに混み合っている。私は列の最後尾に並んだ……と不意に後ろから声がかかる。
「えっと……同じクラスの子だよね?」
そこには小柄で可愛らしいミディアムヘアの女の子が立っていた。確かこの子は……
「私の左横の席にいた……」
すると少女は嬉しそうに
「 うん!新見青葉って言うの。宜しくね!」
と言って満面の笑みを見せる。
「私は笹倉玲。これから宜しくね、新見さん」
私も笑って自己紹介をした。
「トイレの待ち時間に自己紹介ってなんだかおかしいね」
新見さんはそう言ってクスクスと笑う。私もつられて笑った。
話しているうちにいつのまにか列の一番前まできていた。ガチャリとトイレのドアが開いたので、私は振り返って
「また教室で」
と声をかけた。
なんだか新見さんのおかげで少し緊張が解けたような気がする。
教室に戻ると、まだ体育館に向かう時間までは猶予があった。自分の席に着きあたりを見る。クラスの机は二つずつくっつけられているタイプではなく、一人一人の席が独立しているので、隣の人と若干距離がある。私はこの方がパーソナルスペースがあって安心できるのだが。
右の席を横目で見る。真っ黒な髪にメガネをかけた、いかにも勉強ができそうな少年が本を読んでいる……と、不意に本から顔を上げた少年と目があう。相手は読書中だし話しかけるなら後でもできるので、私はひとまず小さく頭を下げる。向こうも同じように頭を下げて再び本の方へと視線を戻した。
「男女別に名前の順に並んでください」
先生が言うと生徒がぞろぞろと動き始める。座席は名前の順で決まっているので並ぶのは先生の指示がなくてもできる。一列目から順に男女別で列が組まれて行く。私の苗字は名前の順では早い方で割と前の方になった。
「移動中は喋らないようにしてください」
先生はそう言って生徒たちの前を歩き始めた。
「あの先生、すっごく怖いらしいよ」
後ろから小声で新見さんに言われる。
「だよね。もうこの時点で怖いし……」
私も小声で答える。
階段を降りて一階の廊下を奥へと突き進む。職員室、理科室、保健室をそれぞれ通り過ぎると、体育館の入り口へつながる渡り廊下まで来た。
「一番前の人は、中から「新入生入場」と聞こえたら体育館に入ってください。レッドカーペットが引かれた場所を通って一番前まで行き、右の椅子に奥から順に座ってください。」
先生の細かな指示に一番前の人が不安そうに頷く。
「開会の辞────」
「新入生入場」
中に入るとやはり大きな学校なだけあって体育館もとても大きい。やたらと高い人口密度のせいで恐ろしいほど空気が悪い。体育館中の窓を開け放って換気したいほどである。ぞろぞろとレッドカーペットの上を歩く列。私もそれに続いていき、パイプ椅子に腰掛ける。
「入学許可宣言────」
「来賓祝辞─────」
「来賓紹介、祝電披露────」
入学式は淡々と進んで行く。卒業式と違って入学式は意外と淡白なものだ。
「皆さんお疲れ様でした。式が早く終わったのでこれから20分休憩にします」
教室に帰ると和田先生は皆にそう声をかける。
私はそれを聞き、自分の席に着く。不意に前の席にハーフアップの大人しそうな女の子が座ろうとしていたので緊張しながらも話しかける。
「後ろの席の笹倉玲です。一年間宜しくね」
女の子は一瞬びっくりしたような顔をしたが、
「倉田亜里沙です。宜しくお願いします」
とさらに緊張した顔で返された。これでとりあえず左と前の席の人には話しかけることができた。右の席の男の子とは目配せしかしていないが、いずれ話せるだろうと言う予測的観測によって処理をした。
「意外と早く終わったね」
そう言って新見さんはぐっと伸びをする。私は「長引かなくてよかった」と返す。
「あ、全然話違うんだけど笹倉さんって部活入る?」
新見さんはキラキラした目でこちらを見てくる。
「うーん、入ろうとは思ってるんだけど迷ってて……」
私が言うと、
「部活紹介の資料、職員室前の長机に置いてあるからとってみるのもいいかも」
と教えてくれた。
「新見さんは何入るか決めてるの?」
私が聞くと新見さんは
「うん!バレー部にするって決めてるの!」
とワクワクを抑えきれない顔で言った。たしかに新見さんにはなんとなく集団スポーツが向いているイメージだ。
「倉田さんは何入るか決めてる?」
新見さんはさりげなく倉田さんに聞く。それまで自分の席に一人でいた彼女はこちらに振り返り
「え、えっと……私もまだ決めてなくて……」
とおずおずと口にした。
「……もしよかったら体験入部の時一緒に回る?」
私もまだ決めてないしと付け加えて、思い切って誘ってみる。
「ご一緒してもいいんですか?」
私が頷くと倉田さんは嬉しそうに笑った。
幸いにもここは大きな市のど真ん中にある、俗に言うマンモス校であるため様々な学校から生徒が来る。お互いが初対面であり、最初から仲良しグループができていないのが救いだ。私は自分の席を黒板に貼られた表で確認すると、二列目の中程の席に座った。
朝のチャイムが鳴ると同時にガラガラと教師が入ってきた。
「新入生の皆さんおはようございます。このクラスの担任の和田健二と言います。担当教科は国語です。宜しくお願いします。」
和田先生は黒板に大きく自分の名前を書き、笑顔を一切見せることなく最低限の自己紹介をした。
黒縁のメガネにスーツをきっちりと着込んだ50代くらいの見た目からも、無駄が嫌いそうな喋り方からもわかる。この人は多分とても厳しい人だ。「誠実」「真面目」といえば聞こえはいいが、そのような人間は大概、「愛想がない」「融通がきかない」という生徒に嫌われる要素を後生大事に抱えている。生徒と先生の相性が悪いと行事ごとの時クラスが荒れるので、少しでも優しそうな先生に当たりたかったと思う……と言ってもまだ始まってすらいないので全て推測の範囲でしかないが。
私がどうでもいいことを考えている間も先生の話は続く。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから皆さんは体育館に移動し、入学式に出ます。その後この教室に戻ってHRを行い、一斉下校となります。では時間までにトイレや水分補給などを各自済ませておいてください」
先生はそう言うと教員用の椅子に腰かけた。
周りの人がバラバラと席を立つ。教室に残っている人たちからも少しずつ話し声が聞こえ始めた。私もトイレに行こうかと思い教室を出る。教室を出てすぐ右向いにトイレがある……が他のクラスの人もいてなかなかに混み合っている。私は列の最後尾に並んだ……と不意に後ろから声がかかる。
「えっと……同じクラスの子だよね?」
そこには小柄で可愛らしいミディアムヘアの女の子が立っていた。確かこの子は……
「私の左横の席にいた……」
すると少女は嬉しそうに
「 うん!新見青葉って言うの。宜しくね!」
と言って満面の笑みを見せる。
「私は笹倉玲。これから宜しくね、新見さん」
私も笑って自己紹介をした。
「トイレの待ち時間に自己紹介ってなんだかおかしいね」
新見さんはそう言ってクスクスと笑う。私もつられて笑った。
話しているうちにいつのまにか列の一番前まできていた。ガチャリとトイレのドアが開いたので、私は振り返って
「また教室で」
と声をかけた。
なんだか新見さんのおかげで少し緊張が解けたような気がする。
教室に戻ると、まだ体育館に向かう時間までは猶予があった。自分の席に着きあたりを見る。クラスの机は二つずつくっつけられているタイプではなく、一人一人の席が独立しているので、隣の人と若干距離がある。私はこの方がパーソナルスペースがあって安心できるのだが。
右の席を横目で見る。真っ黒な髪にメガネをかけた、いかにも勉強ができそうな少年が本を読んでいる……と、不意に本から顔を上げた少年と目があう。相手は読書中だし話しかけるなら後でもできるので、私はひとまず小さく頭を下げる。向こうも同じように頭を下げて再び本の方へと視線を戻した。
「男女別に名前の順に並んでください」
先生が言うと生徒がぞろぞろと動き始める。座席は名前の順で決まっているので並ぶのは先生の指示がなくてもできる。一列目から順に男女別で列が組まれて行く。私の苗字は名前の順では早い方で割と前の方になった。
「移動中は喋らないようにしてください」
先生はそう言って生徒たちの前を歩き始めた。
「あの先生、すっごく怖いらしいよ」
後ろから小声で新見さんに言われる。
「だよね。もうこの時点で怖いし……」
私も小声で答える。
階段を降りて一階の廊下を奥へと突き進む。職員室、理科室、保健室をそれぞれ通り過ぎると、体育館の入り口へつながる渡り廊下まで来た。
「一番前の人は、中から「新入生入場」と聞こえたら体育館に入ってください。レッドカーペットが引かれた場所を通って一番前まで行き、右の椅子に奥から順に座ってください。」
先生の細かな指示に一番前の人が不安そうに頷く。
「開会の辞────」
「新入生入場」
中に入るとやはり大きな学校なだけあって体育館もとても大きい。やたらと高い人口密度のせいで恐ろしいほど空気が悪い。体育館中の窓を開け放って換気したいほどである。ぞろぞろとレッドカーペットの上を歩く列。私もそれに続いていき、パイプ椅子に腰掛ける。
「入学許可宣言────」
「来賓祝辞─────」
「来賓紹介、祝電披露────」
入学式は淡々と進んで行く。卒業式と違って入学式は意外と淡白なものだ。
「皆さんお疲れ様でした。式が早く終わったのでこれから20分休憩にします」
教室に帰ると和田先生は皆にそう声をかける。
私はそれを聞き、自分の席に着く。不意に前の席にハーフアップの大人しそうな女の子が座ろうとしていたので緊張しながらも話しかける。
「後ろの席の笹倉玲です。一年間宜しくね」
女の子は一瞬びっくりしたような顔をしたが、
「倉田亜里沙です。宜しくお願いします」
とさらに緊張した顔で返された。これでとりあえず左と前の席の人には話しかけることができた。右の席の男の子とは目配せしかしていないが、いずれ話せるだろうと言う予測的観測によって処理をした。
「意外と早く終わったね」
そう言って新見さんはぐっと伸びをする。私は「長引かなくてよかった」と返す。
「あ、全然話違うんだけど笹倉さんって部活入る?」
新見さんはキラキラした目でこちらを見てくる。
「うーん、入ろうとは思ってるんだけど迷ってて……」
私が言うと、
「部活紹介の資料、職員室前の長机に置いてあるからとってみるのもいいかも」
と教えてくれた。
「新見さんは何入るか決めてるの?」
私が聞くと新見さんは
「うん!バレー部にするって決めてるの!」
とワクワクを抑えきれない顔で言った。たしかに新見さんにはなんとなく集団スポーツが向いているイメージだ。
「倉田さんは何入るか決めてる?」
新見さんはさりげなく倉田さんに聞く。それまで自分の席に一人でいた彼女はこちらに振り返り
「え、えっと……私もまだ決めてなくて……」
とおずおずと口にした。
「……もしよかったら体験入部の時一緒に回る?」
私もまだ決めてないしと付け加えて、思い切って誘ってみる。
「ご一緒してもいいんですか?」
私が頷くと倉田さんは嬉しそうに笑った。
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