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第二章 【西の王国】
2-98 警備兵見習い
しおりを挟むボーキンの家に戻ると、見知らぬコボルドがいた。
このコボルドは、精霊の力を経由してこちらからの言葉は理解しているようだが、話すことはできなかった。
だが、あのコボルドの長に命令されているため、ハルナたちには協力的な姿勢を見せてくれた。
ソルベティは戻ってきたシュクルスたちに、今日の成果を確認した。
「どう、何か変わったことはあった?」
「いえ、特には。王選が始まっているのに、町はとても落ち着いた感じでした。ですが……」
「――?」
シュクルスは剣を受け取った時と路地裏で感じた違和感を相談したかったが、うまく伝えることができそうにない。
一旦諦め、また別な機会に相談しようと決めた。
「どうしたの、何か言い掛けて黙るなんて。気持ち悪いじゃないの……」
シュクルスは話している途中で忘れてしまったことにして素直に謝り、また思い出したら話すことを約束した。
「すみません……また、思い出しましたらお話しします」
その言葉を聞き、ソルベティは借りている別の部屋へと向かっていった。
翌日、王からの急な呼びかけでニーナは一足先に王宮まで戻ることになった。
その際にボーキンとアーリスは城内で合流することになったが、もう一名同伴が許された。
エルメトは昨日の失踪事件の処理で手が離せず、ボーキンやニーナのお願いでシュクルスが行くことになった。
シュクルスは警備兵見習いとして、王宮内の見学も兼ねて連れて行くことになった。
当初は、警備面でアルベルトやアリルビートの名前が挙ったが、新人っぽい人物の方が怪しまれずに済むとのことでシュクルスで落ち着いた。
「それでは、行って参ります!」
王宮から豪華な王宮専用馬車が到着し、三人は乗り込んだ。
シュクルスの背中には、預かった剣を背負っている。
両手持ちの長剣のため、腰に付けると引きずってしまうためこのように装備することにした。
警備兵見習いの身分でこの剣の持ち方が良くないのではというシュクルスは意見をするが、王宮内では舐められてはいけないとこのスタイルで落ち着いた。
ボーキン曰く、”王宮内でその剣を抜くような騒ぎにはなりませんから”とのことだった。
万が一何か起きた際にも、王宮警備兵も常駐しているためシュクルスの身の安全は確保すると約束してくれた。
だが、シュクルスはそこまで弱く守られている自分がなさけない気持ちになる。最低でも自分の身は自分で守るようにしようと、一人心の中で誓った。
馬車は、城の敷地内へと入っていく。
入り口の左右には警備兵が整列し、馬車を出迎えてくれる。
そのまま進んで行き、馬車は城のエントランスに止まる。
執事が馬車の扉を開け、挨拶をする。
「ようこそ、ボーキン様。ニーナ様がお待ちでございます」
「お出迎え、有難うございます」
ボーキンは執事五礼を言い、アーリスたちに降りてくるように指示をする。
三人は執事の後を追い、ニーナの部屋に案内をしてもらう。
――コンコン
「ニーナ様、ボーキン様がご到着でございます」
中から入室を許可する声が聞こえ、執事は扉を開けてボーキンたちは中に入るように促す。
「ボーキン、それにアーリスも!よく来てくれました。さ、こちらに来てお座りください」
シュクルスは、警備兵見習いとして入っているため席には座らずにボーキンの後ろで立っていた。
「シュクルス様も、どうぞ。こちらへ」
「え。わ……私は今日は見習いとして……」
シュクルスは吃りながら答える。
ニーナの姿が昨日までと異なり、王女らしいドレスと宝石で着飾り、その美しさにシュクルスは見とれてしまっていた。
「それは城に入るための建前でしょ?どうぞこちらへ、遠慮なさらすに」
丸いテーブルでニーナの隣の椅子を勧められ、緊張しながら席に着いた。
「それで、今日はどのような?」
ボーキンが、話しを切り出した。
「今日は、王の前で王選の開催を宣言する正式な儀式を行うそうです。そして、お互い参加の意思の確認と、それぞれを支持する者が法律に則り王選を戦い抜くことを宣言をする場となるようです」
アーリスは、ニーナに頼まれて人数分のお茶を淹れていた。
そして、それぞれの前に紅茶の良い香りのするカップが置かれていく。
「その支持者は、王国内で役職についている者でなければなりませんので、今回ボーキンさんにお願いしようと」
「わかりました。して、王子側は誰が?フェルノール殿は、役職についておられなかったようですが」
「相手は、ゴーフ殿です。昨夜私と話しをしてこの儀式が終わると、こちら側についてくれることも話をしてくれています。相手側にも、承諾は得られたようです」
「……相手側は、随分と余裕な態度ですな」
「場所は、玉座の間で行われます。中に入れるのは、私とボーキンさんだけです。アーリスとシュクルスさんは、申し訳ありませんが外の控えの部屋で待っていただくことになります」
「わかりました、ニーナ様」
アーリスが、返答する。
「その場には、フェルノールも一緒になる可能性がありますので、ご注意くださいね。あの方は、何か企んでいる気がしてなりません……」
「お城の中で、戦いになったりは……しないですよね?」
シュクルスはおどおどと、質問する。
「その可能性は無いので、心配しなくてもよいですよ。部屋の外にも中にも警備兵が付いていますからご安心を」
とはいえ、シュクルスは悪い予感がしている。
そして、耳の中まで聞こえてくる強い鼓動は、緊張なのかニーナの姿を見てなのか。
シュクルスはどちらのせいか、わからなくなっていた。
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