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第三章 【王国史】
3-19 新たな門出
しおりを挟む「ちょっとマーホンさん!どんだけ荷物を持っていくつもりなの!?」
「え?長旅ですよ?これくらいは必要ではないかと……」
モレドーネに向かうと決まった翌日から、ハルナたちは早速出発のための準備に取り掛かる。
従者に大がかりな指示を出すマーホンに嫌な予感がしたステイビルは、事前に持ち込む荷物を確認することにした。
その結果が、これだった。
その用意された荷物はざっと見ても、優に馬車にして四台分もの荷物が積み上げられている。
マーホンは”長旅の途中でハルナに不便を掛けさせないために”と、このくらいの量の荷物が必要であることを必死になって説明をする。
だが、ステイビルはそんなマーホンに途中で襲われたりした場合に機動力が下がってしまうことや、その分の馬の餌や御者の食料も運搬する手間などから荷物と人が乗る二台で行動することを提案した。
さらには、御者は自分たちだけで行うようにしようとも。
その意見に、不安を口にしたのは馬を操ったことがないハルナ、エレーナ、マーホンの三人だった。
ソフィーネ、アルベルトとステイビルは問題ないなかったが、三人は馬を操る練習からしなければならなかった。
協議の結果、先生役はアルベルトが行うことになり、三人は必死になって馬車の扱いを出発までの数日間練習をする。
その結果、三人にはひたすら真っすぐに進む道の場合のみ担当することになった。
ハルナ、エレーナ、マーホンの馬車には人が乗り、アルベルトが何か起きた時に対処できるようにした。
重要な食料などの馬車は、ステイビルとソフィーネが乗り込むことになった。
ようやく準備の期間が終わり、ハルナたちは出発の時を迎える。
「それでは、出発しますよ」
アルベルトは、後ろの馬車に乗るステイビルに声を掛ける。
「いつでもいいぞ!」
ステイビルは片手を挙げて、アルベルトに応えた。
「「行ってらっしゃいませ、皆さま道中お気をつけて!」」
最初この施設に来た時には、強張った表情で接していた従者たちは自然な笑顔で接してくれるようになった。
今では管理者のマーホンにも相談事や、冗談まで話す従者まで出てきた。
マーホンも以前は近寄りがたい雰囲気を持っていたが、ハルナと出会ってからはすっかり親しみやすくなっていた。
今回の管理者変更の件も、マーホンが皆を助けた形になっていることもあった。
アルベルトが手綱で合図すると、馬は反応を見せてゆっくりと動き始める。
その中に乗っているハルナたちも、小さな窓から手を振って応えていた。
施設の敷地内を出て、王国の賑やかな町中を荷台の馬車が並んで走る。
ハルナたちは、またここに戻る時には状況がまた先に進んでいると信じて窓の外の景色を眺めていた。
関所を通過し、馬車はいよいよ城下町を出る。
まずは、モイスティアに向かって進むことにした。
「そろそろ、交代の時間だな」
車内で楽しく会話をしていた、エレーナとハルナが固まる。
「で、次はどちらが手綱を持たれますか?」
「ちょ……待って」
「ねぇ。この前教えてもらった、”アレ”で決めてみない?」
「それは良い案ですわ……」
エレーナからの提案に、懐かしさを感じるハルナ。
あちらの世界では、ほとんどの決め事はこれで解決できる文句なしの真剣勝負。
『――ジャンケン』
こちらの世界ではカードやボードゲームのような勝ち負けの決め方はあるが、道具を利用せずに短時間で勝敗を決するものがなかった。
ハルナは自信満々に、エレーナにジャンケンを伝えた。
ルールが単純だったため、二人の周りにあっという間に広がることとなった。
「それじゃあ……いくわよ」
三人の中に緊張した空気が走る。
この中で、一人だけが敗者となる。
「「「じゃん、けん……ポン!!」」」
勝負は一発だった。
二対一でハルナの出した”チョキ”は、二人の出した”グー”の前に敗北を喫した。
「あぁー!!」
向かい合って勝利を喜び合うエレーナとマーホンを横に、ハルナは項垂れた。
「はい、交代。いっていって!」
「もう……どうなっても知らないからね!?」
「わ……私、ずっと隣に座っていましょうか!?」
操縦に集中したいこともあって、ハルナはマーホンからの申し出は丁重にお断りした。
次は先頭をハルナ、後方をソフィーネが担当することになった。
そして一時間近く乗っていると、感覚が分かってくるようになってきた。
「あ。何かわかった気がする、馬と仲良くなれた気がする!」
「本当に上手ですね、ハルナ様。筋が良いですよ、乗っていて安心していられます」
そうやって、アルベルトは褒めて伸ばそうとする気持ちもあるが、実際に安定感が増しているのは乗っている他のエレーナもマーホンも感じていた。
「教え方が私と全然違うじゃないのよ、アル!?私だって褒められて伸ばされたいんだけど!!」
アルベルトに対して怒りをぶつけるエレーナだが、いつものこととそっと放置しておくのがここは最も適した選択だった。
「……ん?」
ハルナは遠方に何か落ちているものを発見した。
「フーちゃん、ちょっと見てきて」
『はい!』
フウカは馬車を飛び出し、その物体を確認する。
そして、急いでハルナの元に戻ってきてその見てきたものを報告する。
『――ハル姉ちゃんー、ヒトだ、人が倒れてるよ!!』
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