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第五章 【魔神】
5-7 散策
しおりを挟むオーサは、一人で町の中を歩いて行く。
町の中に流れる一本の水路、その出所を探すように上流に向かって歩いて行く。
行きかう中で、自分の姿を見ても誰一人毛嫌いする様子はない。
工事や町の環境造りに、ドワーフとエルフと人間がともに協力し合っている姿が目に入る。
いや、オーサはその様子を目で無意識に追っていた。
ゆっくりと坂を上がり、浅い水が溜まる中心部から水が湧き出ている広場に出た。
そこには子供の姿があり、そこでも三種族の子供が一緒なって水の中に入ったり、ドワーフのお手製の玩具を手にして夢中で遊んでいた。
二組に分かれた子供たちが、陣地を取り合う遊びをしている。
エルフもドワーフも人間の子供も、それぞれが助け合い手を取り合う姿をオーサはただ黙ってみていた。
ある一人の人間の子供が、この辺りにいない種族の姿を見つけ、遊びの途中でもじっとオーサのことを見つめていることに気付いた。
そんなに子供に見られることに慣れていないオーサは、何も返すことなくただその視線を受けていた。
そして遊びの輪から抜け出し、ゆっくりと近付いてくる。
人型とはいえ、コボルトは顔が犬の形状をしているのでフードを被っても人型に近い亜人に比べれば異形である。
近付いてくる子供に危険は感じないが、いつの間にかこの広場で遊んでいた子供の声は消え、近付いてくる子供とその先に視線が集まっている。
「……」
子供の顔には笑顔はないが、怖がっている感じもない。
それが逆に、相手の心情が読めずに不安にさせる。
オーサは逃げ出したい気持ちにもなったが、”子供相手に何を怯えることがあるか”と、怯えで丸まりそうになる尾に力を込める。
いよいよ子供は、オーサの数メートルの距離まで近づいてきた。
オーサの鼻には子供特有の酸っぱい臭いに加え、太陽と水の元素を含んだものに嗅覚は刺激される。
子供は、ぬいぐるみを前に抱えたまま、初めてみるコボルトを見つめる。
(むぅっ……)
オーサは、毛で覆われた頭部の皮膚から汗が流れていくのを感じる。
この場から黙って離れてしまえば、不審者として覚えられてしまう。
そうすれば、この町にきた目的が達成し辛くなってしまうだろうとオーサは考える。
外を歩く際に、シュクルスが一緒についていくと言ってくれていたが、この町での人間以外の者たちがどのように関わっているのかを調べるには一人で行動したかった。
今考えれば、一人じゃなくシュクルスとでも一緒に調べることはできたはず。
余計なプライドが邪魔をし、このような状況になってしまったのは誰のせいでもなく自分が招いた結果だった。
オーサは迷った、"次の行動をどうするべき"かを。
そして、自分の愚かさを恨んだ。
人間の生活様式についてもっと調べておくべきだったことを……
キャスメルたちと行動を共にして、人間の生活を間近で体験してきた。
その中でオーサは、人間の行動には無駄なことが多いと思っていた。
言いたい事をはっきりと言わず、例えにしてみたり我慢して伝えなかったり。
その裏には、相手を傷つけないためという気遣いがあるとクリエから教えてもらった。
しかし、悪い人間にはハッキリと告げて、力でねじ伏せることもしてきた。
その違いについて聞いたこともある。
だが、オーサが納得する答えが返ってきたことはない。
※ルーシーがいうには、人間だってわからないままいるから、気にする必要はないと言う。
しかし、今相手に対しかける言葉が出て来ないのは、その疑問の結論を先送りにしたせいだと痛感する。
「……こんにちは」
子供から話しかけてくれた。
オーサは、こうなれば次に返す言葉は理解できる。
「あぁ、こんにちは」
オーサは、今までに何度もキャスメルたちとやりとりした言葉を自信満々に答えた。
と同時に、不思議な点もあった。
この子は、コボルトに対して恐怖はないのかという思いだった。
もともとコボルトは、人に対して害をなす生物だと思われており、オーサ自身も今では人間側の味方だとしても、その認識は間違っていないと思っている。
自分たちのコボルトが、一般的な種族の中でも異例だと認識していた。
こんな子供が別なコボルトに迂闊に近付いてしまい、その親が悲しい思いをしていまう可能性があることを頭の片隅に置いておくことにした。
それと同時に、オーサの苦悩を知らずに子供は気軽に言葉を投げかけてきた。
「おじさん……ハルナ姉さんたちのお友達?」
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