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第六章 【二つの世界】
6-135 侵略2
しおりを挟むキャスメルから命令をされた男は、指示を告げる場所まで自らの足で向かっていく。
その足取りは、雨が降った後の粘着性の高い土地を進んでいくかのような重さが感じられた。
部屋の周囲で待機していた警備兵が、命令を言い渡されるはずが隊長自らが進んでいくことにいつもと違うものを感じ、その後を付いていこうとした。
男はその行動を制し、そこから背後には自分を追跡する気配を感じず、一人で目的の場所まで進んでいった。
そこには、今の状況と自分の感情の整理をしたいという思いもあった、一つ気になることが男の心を苦しめている。
それは、キャスメルの兄弟であるステイビルの存在。
事前の情報によると、亜人を含めたこの村を仕切っているのはステイビルだという。
それは、戦線布告に王都へやってきた、あの水の大竜神もそう告げていた。
相手が反撃してこない意図はわからないが、ステイビルの性格を考えれば理解できるところもある。
しかし、そうすれば主戦力となっている自分に味方をしてくれている亜人たちの命も炎の中に散っていってしまう。
そういう結果を、”あの”ステイビルが選択するとは思えない。そうすれば、あの方の知識によって組み立てられた作戦によって、部下たちの生命が危ぶまれることになる。
ステイビルが元か、今現在のどちらの配下の心配をしているのか……
それによって、この作戦の成否が決まると男は考えていた。それほどこの男は、ステイビルの知力と能力に対して評価を与えていた。
男は数度か、”この王国がステイビルが収めていたならば……”という、今となっては実現できない別な世界のことを思い描いたこともある。
さらに言えば、ステイビルは今、亜人を配下にし大竜神も味方につけている。
キャスメルは全ての神々に加護を受けてはいるが、そのうちの一つが敵に回ったいま、他の神々の判断が気になるところでもある。
「……くそ!?どうしてこんな状況に!!」
男はそんな思いを巡らせながら、この村を取り囲んでいる前線に到達してしまった。
自分の部下が、村に向かって大声で投降を呼びかけているが、何の反応がないことは先ほどの報告から変化はみられていなかった。
男は大声で呼び枯れる者の後ろに立ち、その肩の上に手を置いた。
「……もうよい。充分だ」
「はっ!」
村の中に声をかけていた者は隊長の指示に従い、掴まれた肩を後ろに引かれそれに背くことなく後ろに下がっていった。
男は村の様子を眺める……一見、何の変哲もない村だが、ここでは今まで争っていた亜人同士が手を取り合っており、水の大竜神という大きな存在もいる。
ステイビルという人物が、中心となって全て成しえた結果だと考える。
(本当に争う必要があるのか?)
男はすぐに頭を振って、深層心理から浮かび上がってきた不敬な考えを消した。
ゆっくりと息を吸い込み……王に命令された号令を出すために丹田に力を込めて叫ぶ。
「……火を放て!!!この村の全て焼き払うのだ!!!」
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