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第六章 【二つの世界】
6-266 エレーナとの夜1
しおりを挟む「よい……しょっと」
「あ、エレーナ」
ハルナはエレーナに”眠らなくていいのか?”と問いかけようとしたが、次の登板であるエレーナが睡眠を削ってまでここに来た意図を組んで黙っておいた。
その片手にはコップが二つ、その反対には酒瓶……アルコール度数は食事の時に飲んでいたものよりも低いが、ジュースのような感覚で口にすることができ、ハルナも好んでた飲み物だった。
しかし、アルコールではあるため、飲み過ぎてしまえば翌日に残ることもある。
エレーナは、木製の栓を開けてコップに注いでいく。
二人分を用意し、その一つをハルナに差し出した。
その時、近くにテントから誰かが出てくる気配がしたが、二人はこの時間を大切にしたかったため、意識的にその気配には気付かないふりをする。
その気配は、誰かに連れていかれるようにして、遠くへと消えていった。
ハルナはエレーナから差し出されたコップを受け取り、たき火の中に新しい木の枝を数本投げ入れた。
少し熱かったのか、ハルナはたき火の炎の熱量を少し下げる。
「ふーん……改めて見ると、本当に四つの属性が扱えているのね」
「うん、ラファエルさんたちに特訓してもらったからね」
「私も特訓すればできるようになるのかなぁ……?」
「エレーナならできるよ、きっと。私より扱いが上手じゃない。初めて森の中でオオカミに襲われた時のこと……あれは今でも、忘れていないわよ?」
始まりの場所から、ハルナをラヴィーネに連れて行く時。突然襲われたオオカミに対する攻撃は、かなり精度の高い技が見られた。
ハルナは、いくらやっても咄嗟の緊急時にあのようなことはできないと悟った。
「でも、ハルナには大き過ぎるほどの元素があるじゃない?あれだって普通、できるものでもないのよ?あの竜巻が起きた時、何事かと思ったわよ!?」
確かに空気中に元素は存在しており、周囲にあるだけの元素を精霊使いは取り込むことはできる。
だが、その量は多少の個人差はあるものの、ハルナほどに大量に扱える者は人間の中では見たことがない。
通常の精霊使いたちの元素の扱える量がゴム製のホースだとすれば、ハルナが取り込める量は土管くらいの大きさの違いがある。
エレーナにとっては、それはまさに神々の領域の存在だった。
「あの時はねぇ……私もよくわかってなかったし。でもあの訓練である程度コントロールできるようになったし、ソルベティやオリーブとも一緒に練習できたしね」
「……本当。思い返せば、いろんなことがあったわね」
「……うん、そうだね」
そういうと二人は、コップの中の飲み物をそれぞれ口に運び、ゆっくりと数回に分けて飲み込んでいった。飲み込んだ後、二人の会話は途切れて、この場にはたき火の音だけがパチパチと不定期に聞こえてくる。
「ねぇ」
「ねぇ」
少し言葉が途切れた後、二人は同時に声を発した。
「え?ハルナから言ってよ」
「いや、エレーナからどうぞ?」
今までもこういう場面は何度かあり、その時もエレーナが同じようなことを考えており、自分よりも深く考えていることの方が多かった。
そのため、ハルナはこういう場面では常にエレーナに譲っていた。
エレーナもいつもの流れと判断し、ハルナから譲られたタイミングで自分が伝えようとしていたことを口にした。
「ねぇ……私たち、大丈夫だよね?」
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