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第1話はじまり
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■朔也視点
四月の風はまだ冷たく、桜の花びらがキャンパスの空を漂っていた。人々の胸に希望が満ちる季節。だが、俺――神谷朔也には、それが少しばかり滑稽に思えた。未来から戻ってきたAI研究者にとって、この大学生活は“役割”でしかない。笑顔を浮かべる新入生たちの中で、俺はただ静かに自分の居場所を確認していた。
「初日だ。油断するな、朔也。異常反応検知済み。キャンパス南東、購買エリア。」
脳内に響く機械的な声。俺の相棒、カスパーだ。2070年の最先端人工知能が俺の記憶と一体化している。世界の全てを監視できる目。嘘を見抜き、犯罪を予測し、必要なら“処理”する能力を持つ存在。
俺は人混みの中を抜け、さりげなく購買エリアへ向かった。誰にも気付かれないように──ただ、日常の一部として。
「映像を再現。連続窃盗発生地点一致。」
脳内に3Dマップが広がり、過去三日間の購買内映像が重なる。若い男の姿が映し出される。時間差で商品をポケットに忍ばせ、何食わぬ顔で立ち去る様子が複数回。レジ横の死角を巧みに利用している。
「顔認証、学籍情報照合完了。相原拓斗、法学部一年。」
新入生か……。入学式の時、壇上で「夢は弁護士です」と語っていたあの顔を思い出す。立派なことを言っておいて、やっていることはこれか。
「どうする、朔也?通報するか?それとも──」
「少し遊ぼうか。大学という社会の縮図で、正義がどこまで届くのか試してみたい。」
俺はスマートグラスを指先で微かにタップした。視界に浮かぶのは、複数のカメラ映像、通行人の表情解析、そしてターゲットの行動予測。
その夜、自室の暗がりの中で俺は映像を再編集していた。相原が商品を盗む瞬間だけを切り出し、学籍番号と共にモザイク入りで構成する。万引き現場の証拠動画として、匿名で大学に送るだけでは甘い。俺の“正義”はそこでは終わらない。
「SNS上で匿名アカウント作成。“学内正義執行委員会”とでも名乗るか?」
「名前はダサいな。だが目的には適してる。軽犯罪者の情報を、社会に少しだけ晒してやるんだ。」
この世に軽い罪など存在しない。盗みは誰かの努力を踏みにじる行為であり、社会を蝕む細菌だ。それが蔓延る原因は、処罰の緩さと人々の無関心。
翌日、相原は学内で異変に気付くことになる。学食で席に座ろうとしたとき、隣の女子学生が小さな声で言った。
「あれって……昨日SNSに出てた人じゃない?」
「え、まじ?この大学、そういうの拡散されるんだ……」
顔を伏せ、逃げるように立ち去る相原。その姿を遠目で眺めながら、俺は一口だけ微笑んだ。
カスパーが言う。
「満足か?」
「まだ始まったばかりさ。俺の正義がどこまで通じるか、世界がどれだけ歪んでいるか……試してみたい。」
カスパーは沈黙する。だがその反応は、俺の中に一つの確信をもたらした。この力を使えば、正義は現実にできる。欺瞞の社会から犯罪者を排除し、本当に“安全な世界”を作ることができる。
俺の手で。
夜が深まる。窓の外には静寂なキャンパスが広がり、誰も知らない都市伝説の種が、今、芽吹こうとしていた。
第1話終わり
四月の風はまだ冷たく、桜の花びらがキャンパスの空を漂っていた。人々の胸に希望が満ちる季節。だが、俺――神谷朔也には、それが少しばかり滑稽に思えた。未来から戻ってきたAI研究者にとって、この大学生活は“役割”でしかない。笑顔を浮かべる新入生たちの中で、俺はただ静かに自分の居場所を確認していた。
「初日だ。油断するな、朔也。異常反応検知済み。キャンパス南東、購買エリア。」
脳内に響く機械的な声。俺の相棒、カスパーだ。2070年の最先端人工知能が俺の記憶と一体化している。世界の全てを監視できる目。嘘を見抜き、犯罪を予測し、必要なら“処理”する能力を持つ存在。
俺は人混みの中を抜け、さりげなく購買エリアへ向かった。誰にも気付かれないように──ただ、日常の一部として。
「映像を再現。連続窃盗発生地点一致。」
脳内に3Dマップが広がり、過去三日間の購買内映像が重なる。若い男の姿が映し出される。時間差で商品をポケットに忍ばせ、何食わぬ顔で立ち去る様子が複数回。レジ横の死角を巧みに利用している。
「顔認証、学籍情報照合完了。相原拓斗、法学部一年。」
新入生か……。入学式の時、壇上で「夢は弁護士です」と語っていたあの顔を思い出す。立派なことを言っておいて、やっていることはこれか。
「どうする、朔也?通報するか?それとも──」
「少し遊ぼうか。大学という社会の縮図で、正義がどこまで届くのか試してみたい。」
俺はスマートグラスを指先で微かにタップした。視界に浮かぶのは、複数のカメラ映像、通行人の表情解析、そしてターゲットの行動予測。
その夜、自室の暗がりの中で俺は映像を再編集していた。相原が商品を盗む瞬間だけを切り出し、学籍番号と共にモザイク入りで構成する。万引き現場の証拠動画として、匿名で大学に送るだけでは甘い。俺の“正義”はそこでは終わらない。
「SNS上で匿名アカウント作成。“学内正義執行委員会”とでも名乗るか?」
「名前はダサいな。だが目的には適してる。軽犯罪者の情報を、社会に少しだけ晒してやるんだ。」
この世に軽い罪など存在しない。盗みは誰かの努力を踏みにじる行為であり、社会を蝕む細菌だ。それが蔓延る原因は、処罰の緩さと人々の無関心。
翌日、相原は学内で異変に気付くことになる。学食で席に座ろうとしたとき、隣の女子学生が小さな声で言った。
「あれって……昨日SNSに出てた人じゃない?」
「え、まじ?この大学、そういうの拡散されるんだ……」
顔を伏せ、逃げるように立ち去る相原。その姿を遠目で眺めながら、俺は一口だけ微笑んだ。
カスパーが言う。
「満足か?」
「まだ始まったばかりさ。俺の正義がどこまで通じるか、世界がどれだけ歪んでいるか……試してみたい。」
カスパーは沈黙する。だがその反応は、俺の中に一つの確信をもたらした。この力を使えば、正義は現実にできる。欺瞞の社会から犯罪者を排除し、本当に“安全な世界”を作ることができる。
俺の手で。
夜が深まる。窓の外には静寂なキャンパスが広がり、誰も知らない都市伝説の種が、今、芽吹こうとしていた。
第1話終わり
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