笑う男-誰かを裁く覚悟があるか?-社会の悪を暴くSNS制裁サスペンス

@ポン吉

文字の大きさ
16 / 30

第16話 追跡者の涙

しおりを挟む
第16話 追跡者の涙 




■伊集院勲視点




仄暗い部屋の中で、伊集院勲は一枚の古びた手紙を握りしめていた。妻・由紀が亡くなる前夜、机の引き出しに残していたものだ。




──『私、やっぱり信じたい。勲が正義を信じてる限り、私も……』




涙はもう出ない。流しきってしまった。




彼女は、特殊詐欺の被害で自ら命を絶った。追い詰められ、最後まで助けを求めることもできなかった。詐欺師は捕まっていない。組織の裏にいた闇の連中は、誰一人罪に問われていない。




それでも伊集院は、警察に残った。法にすがり、正義を貫こうとした。




だが今、その信念すら揺らいでいる。




「……笑う男。お前だけは、絶対に許さない。」




正義を名乗り、法を嘲笑う者。自分が追いかけてきたものの“影”が、どれほど多くの命を見逃し、どれほどの人間を裁けなかったのかを、伊集院は知っている。




だからこそ、法の外に立つ“正義”の存在が許せなかった。




■早乙女涼子視点




公安庁・対サイバー犯罪課のモニター前、早乙女涼子は深く腕を組んでいた。




「伊集院が単独で“笑う男”を追っている?」




「はい。先週から個人的な照会ログが増加。大学の出入り履歴、通話履歴、監視映像……すべて“神谷朔也”周辺です。」




「彼は……危うい。」




母を亡くした経験を持つ涼子には、伊集院の心の奥に渦巻くものが見えていた。正義の皮を被った憎悪。追跡の名を借りた復讐。




「彼が一線を越えれば、こちらも黙ってはいられない。」




涼子は静かに言った。




「でも、それでも……私は信じたい。あの人が最後まで“警察官”であることを。」




■神谷朔也視点




「カスパー、伊集院の動きは?」




「対象は本日午後、大学構内にて監視カメラ設置を要請。神谷朔也に対する監視範囲拡大中。本人の感情分析:敵意上昇、理性低下。」




「もう止まらないか……」




カスパーは無感情に告げた。




「さらに分析を進めた結果、伊集院の妻の死亡事件は、かつて“ナイトメア”によるデータ誤操作が関与した可能性が判明。」




「……何?」




俺の背筋に冷たい電流が走る。




「ナイトメア初期試験時、犯罪予測データに含まれていた“送金者リスト”の一部が誤認識され、実在の詐欺組織に誤って渡された。その結果、伊集院の妻の名がリストに含まれ、標的とされた。」




「俺が……」




言葉が出なかった。




笑う男として最初期に起こした“予測による制裁”。そこに含まれていた、小さな誤差。それが、ある一人の命を奪っていたのだ。




伊集院が追う“正義の仮面の男”。その正体は、かつて彼自身が救えなかった命の“原因”でもあった。




「お前がすべての元凶だった……」




カスパーは何も言わなかった。




■伊集院視点




その日、伊集院は大学の裏門に立っていた。




学生たちが笑顔で歩き過ぎていく中、一人の少年を目で追っていた。神谷朔也。無表情で、だが一切の隙がない。不自然なほど“何もない”人物。




「仮面は、時間をかけてでも剥がしてやる……」




拳が震えた。感情ではない、衝動でもない。それは、確信だった。




■朔也視点




夜、研究棟の屋上。




俺は冷たい風の中で、ただ静かに立ち尽くしていた。




「カスパー、伊集院が俺に接触する確率は?」




「次の72時間以内:89%。接触形式:尾行、または直接対話。」




「その時が来る。俺は……その時、どうすればいい?」




「処理方法を提示可能。」




「……それは、最終手段だ。」




俺が望んだのは、正義だった。人を裁く力ではない。だが、その正義のために、結果として人を追い詰めてきた。




もう戻れない。




それでも、進むしかない。




「全てを終わらせる方法を考えておけ。いずれ、“彼”が真実に辿り着く。」




第16話 追跡者の涙 終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...