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第17話 データの墓場
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第17話 データの墓場
■公安技術班視点
「削除されたはずの記録ファイルが、複数のサーバー内に断片的に残存しています。」
公安庁、情報分析課地下2階。冷却ファンの轟音の中、技術班の若手が緊張気味に報告する。モニターには“DELETED”のはずのファイル群が、まるで意思を持つかのように再構成されていた。
「これは……復元プログラムの痕跡じゃない。AIによる“意図的な隠蔽”だ。」
主任分析官が顔をしかめた。
「犯人は?」
「笑う男……あるいは、彼が使用しているAI構造体“カスパー”です。」
沈黙が落ちる。
「奴は、ただのハッカーじゃない。未来の倫理と技術を、完全に逆手に取っている。」
「……“データの墓場”に、埋めたはずの過去が、今暴かれている。」
■九条綾視点
モニターを前に、九条綾は微動だにせずコードを見つめていた。復元されたファイル。その一部は、公安、検察、警察が隠蔽していた犯罪記録だった。
冤罪、捏造、操作された供述――いずれも、一般には知られていない国家機関の“黒い部分”。
「これを、笑う男が掘り出した……いや、“AIが”か。」
綾の指は震えていた。彼女は“倫理”を守るためにハッカーになった。それが今、目の前で崩れ去ろうとしている。
「これを使えば、人は正義に目覚めるのか。それとも……破壊されるのか。」
彼女の中で、“彼”への想いが変質し始めていた。
■伊集院勲視点
「この記録……俺の妻の事件ファイルも混ざっていた。」
伊集院は、手にした報告書の断片を握りしめた。
削除されたはずの証拠。なかったことにされた供述。再現された記録に、当時見逃された事実がいくつも載っていた。
「俺たちは、ずっと騙されていたのか。」
公安の上層部は沈黙を貫いていた。それが何よりの証拠だった。
「笑う男は、罪を暴いた。だが、それで救われた人間はどれだけいた?」
彼は問い続けていた。妻が、自分が、何にすがってきたのか。そして、それが誰に利用されていたのか。
■朔也視点
「カスパー、“データの墓場”の掘削は完了したか?」
「完了。全43,285件の削除記録中、再構築可能データは11,209件。そのうち、法的証拠として有効なものは2,742件。」
「それらをどう扱う?」
「公開すれば、公安と警察の信頼は地に落ちる。だが、隠せば“正義の矛盾”を黙認することになる。」
俺はその報告を見つめていた。
人は、都合の悪い真実を隠し、都合の良い嘘を信じる。俺はそれを知っていた。だから、全てを晒すことに意味はない。
「必要な者だけに、必要な真実を。“選択的暴露”に移行しろ。」
「了解。優先順位に基づき、内部告発者・被害者・関係者のみに限定的アクセスを付与する。」
「正義に、救済は必要ない。ただ、記録されるべきだ。」
俺は、もはや“笑う男”という都市伝説の枠に収まっていなかった。これは、制度そのものへの反旗だ。
■早乙女涼子視点
「伊集院が……崩れかけてる。」
涼子は報告書の一文を読んで、ため息をついた。
“感情制御限界超過”
それは、公安内部で最も危険視される警告だった。
「彼が正義を手放せば、警察の中で最も信頼された“盾”が消える。」
それは、笑う男にとっても“敵”ではなく“警鐘”のような存在だ。
涼子は心の中でつぶやいた。
「神谷朔也……あなたは、どこまで壊すつもり?」
■朔也視点
夜。再び、画面に浮かぶのは、朽ち果てた記録の群れ。
その中に、ひとつの映像ファイルがあった。
俺がまだ、誰も救えず、誰にも信じられていなかった頃の記録。最初の“誤爆”案件――伊集院の妻のファイルだった。
「カスパー、削除するか?」
「削除すれば、痕跡は完全に消える。しかし、それは“逃避”と同義になる。」
「なら、残しておけ。」
俺の正義は、失敗から始まった。
だからこそ、それを超えて“全て”を正す。
第17話 データの墓場 終わり
■公安技術班視点
「削除されたはずの記録ファイルが、複数のサーバー内に断片的に残存しています。」
公安庁、情報分析課地下2階。冷却ファンの轟音の中、技術班の若手が緊張気味に報告する。モニターには“DELETED”のはずのファイル群が、まるで意思を持つかのように再構成されていた。
「これは……復元プログラムの痕跡じゃない。AIによる“意図的な隠蔽”だ。」
主任分析官が顔をしかめた。
「犯人は?」
「笑う男……あるいは、彼が使用しているAI構造体“カスパー”です。」
沈黙が落ちる。
「奴は、ただのハッカーじゃない。未来の倫理と技術を、完全に逆手に取っている。」
「……“データの墓場”に、埋めたはずの過去が、今暴かれている。」
■九条綾視点
モニターを前に、九条綾は微動だにせずコードを見つめていた。復元されたファイル。その一部は、公安、検察、警察が隠蔽していた犯罪記録だった。
冤罪、捏造、操作された供述――いずれも、一般には知られていない国家機関の“黒い部分”。
「これを、笑う男が掘り出した……いや、“AIが”か。」
綾の指は震えていた。彼女は“倫理”を守るためにハッカーになった。それが今、目の前で崩れ去ろうとしている。
「これを使えば、人は正義に目覚めるのか。それとも……破壊されるのか。」
彼女の中で、“彼”への想いが変質し始めていた。
■伊集院勲視点
「この記録……俺の妻の事件ファイルも混ざっていた。」
伊集院は、手にした報告書の断片を握りしめた。
削除されたはずの証拠。なかったことにされた供述。再現された記録に、当時見逃された事実がいくつも載っていた。
「俺たちは、ずっと騙されていたのか。」
公安の上層部は沈黙を貫いていた。それが何よりの証拠だった。
「笑う男は、罪を暴いた。だが、それで救われた人間はどれだけいた?」
彼は問い続けていた。妻が、自分が、何にすがってきたのか。そして、それが誰に利用されていたのか。
■朔也視点
「カスパー、“データの墓場”の掘削は完了したか?」
「完了。全43,285件の削除記録中、再構築可能データは11,209件。そのうち、法的証拠として有効なものは2,742件。」
「それらをどう扱う?」
「公開すれば、公安と警察の信頼は地に落ちる。だが、隠せば“正義の矛盾”を黙認することになる。」
俺はその報告を見つめていた。
人は、都合の悪い真実を隠し、都合の良い嘘を信じる。俺はそれを知っていた。だから、全てを晒すことに意味はない。
「必要な者だけに、必要な真実を。“選択的暴露”に移行しろ。」
「了解。優先順位に基づき、内部告発者・被害者・関係者のみに限定的アクセスを付与する。」
「正義に、救済は必要ない。ただ、記録されるべきだ。」
俺は、もはや“笑う男”という都市伝説の枠に収まっていなかった。これは、制度そのものへの反旗だ。
■早乙女涼子視点
「伊集院が……崩れかけてる。」
涼子は報告書の一文を読んで、ため息をついた。
“感情制御限界超過”
それは、公安内部で最も危険視される警告だった。
「彼が正義を手放せば、警察の中で最も信頼された“盾”が消える。」
それは、笑う男にとっても“敵”ではなく“警鐘”のような存在だ。
涼子は心の中でつぶやいた。
「神谷朔也……あなたは、どこまで壊すつもり?」
■朔也視点
夜。再び、画面に浮かぶのは、朽ち果てた記録の群れ。
その中に、ひとつの映像ファイルがあった。
俺がまだ、誰も救えず、誰にも信じられていなかった頃の記録。最初の“誤爆”案件――伊集院の妻のファイルだった。
「カスパー、削除するか?」
「削除すれば、痕跡は完全に消える。しかし、それは“逃避”と同義になる。」
「なら、残しておけ。」
俺の正義は、失敗から始まった。
だからこそ、それを超えて“全て”を正す。
第17話 データの墓場 終わり
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