異世界2.0。このご時世、モンスターだって悩みを抱える時代です。

兎禾

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プロローグ。

新しい進歩には怖さあり。

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 そうして三匹が見守る中、戦闘が終わる頃にはゴブリンさん達は見事に全滅。駆け出し冒険者さん達は喜びの声を上げると森の奥へと消えて行きます。それから暫くして、駆け出し冒険者さん達の姿が完全に見えなくなるとゴブリンさん達はムクッとその場に立ち上がります。

「よし。次、行こう」
「おーー」

 そう言ってゾロゾロと歩き始めたゴブリンさん達でしたがその前に両手を広げて通せん坊をして立ち塞がったのはしろうさぎさん。その姿を見てピクシーさんとリリパットちゃんは驚きの声をあげます。

「ちょ、ちょっと、うさぎ、何してんのあんた!?」
「し、しろうさぎさん!?」

 続いてゴブリンさん達もしろうさぎさんに言います。

「あれ? しろうさぎさん、どいて」
「いえ。どきません」
「え? なんで?」
「それは、このまま次へ行ってもゴブリンさん達はまた返り討ちにあってしまうからです」

「そう、なの?」
「はい。そうです」

 そんなしろうさぎさんにゴブリンさんは言います。

「でも……スライムさんはみんなで向かって行ったら勝てたって言ってた」
「はい。それは、本当です。私がスライムさんにそう言いましたから」
「やっぱり! だったらボク達もみんなで向かえば勝てるんだ!!」
「はい、そうですね。勝てます。だけど……やっぱり勝てません」

「え? どういうこと? 勝てるのに勝てないの?」
「はい。勝てません」
「なんで?」

「そう。それですよ。ゴブリンさん、、とっても重要なんです」
「ん、んんん?」

 それから一旦行進を取りやめたゴブリンさん達を集めると、そこでしろうさぎさんの口から語られたのは疑問を持つ事の重要性についてでした。

「──ですので、疑問を持たない。つまりは、どこまでもポジティブで悩みごとが無いというのがゴブリンさん達にとっての最大の悩みごとにあたると私は思うんです」
「悩みごとが、無いが、悩みごと?」
「そうです。だから、同じやり方しかしないし、同じ失敗を繰り返して、夢中になっている内にいつの間にか自滅して負けちゃうんです」

 その話を聞いていたリリパットちゃんとピクシーさんが答えます。

「あ、だから、私と同じで、ゴブリンさん達にはゴブリンさん達の何か違うやり方があるって事ですね!!」
「ふぅん、なるほどねぇ。で、うさぎ、今回は何を作るの?」

 ──ちょん……ぷるんぷるん……

「いえ……今回は特にこれといって何も作りません」

「はぁ? それじゃあ一体どうするのよ? 今と何も変わらないじゃない」
「そうですよ、現にゴブリンさん達はさっきも全員で向かって行ったのに、その、全滅でしたし……」

「はい。ですので、みんなで向かうという方法は同じなんですけど、ほんの少しだけ手段を変えます。良いですか、ゴブリンさんの皆さん。その為にもこれから逃げる事の大切さを先ずは体で覚えてもらいます。そして、今度もし駆け出し冒険者さん達と出会ったら大声で叫びながら森の奥へ逃げて来て下さい。それで、そしたら次は──」

 そうしてしろうさぎさんがゴブリンさん達にやり方を伝えるとゴブリンさん達はその目を輝かせます。

「……これが、ボク達のやり方……」
「はい。そうです。これがゴブリンさん達の、ゴブリンさん達の為の、ゴブリンさん達だけのやり方です」
「あ、あは、あはは、ボク達のやり方、作戦、作戦、名前、ボク達の作戦の名前、なに?」
「え? な、名前……? ですか? そ、それは……」

 しろうさぎさんが悩みながら無意識に本を捲ると開いたページ。不意に視界に飛び込んできたその文字を見ると彼女はその言葉を口にします。

「……新しい進歩には怖さあり」
「おおぉお、新しい進歩には怖さあり。それがボク達の作戦名!!」

「え? あ、ちょっと待……」
「やるぞーー。ボク達の新しい進歩には怖さありだ!!」
「おおーー!!」

 その一言にゴブリンさん達は士気を高めるとピクシーさん指導の元早速みんなで練習を始めます。そして時間は流れ陽は落ちて辺りもすっかり夜に包まれた頃、遂にその時はやって来たのでした──。
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