27 / 57
第一章 魔女の森。
素直な気持ちと、本当の気持ち。
しおりを挟む
──人間の血を引く魔女の子の笑顔を見たい。
そんなピクシーさんの言葉はこの場所に更なる混乱を生み出す種、きっかけとなってしまいます。一層どよめきの声が増す中、ざわつく周囲の反応をよそに彼女は話を続けます。
「私は別に人間が好きでもなければ、魔女が好きな訳でもない。でもね、この子を放って置こうって思う事も出来ない。不思議よね……どうでも良いって思う一方で、どうでも良くないって思ってる私が私の中にはいるんだから……だから、考えたの。この気持ちはなんなのかって、どこから生まれて来たものなのかって……」
その言葉に次第に周囲のどよめきは小さくなって。モンスターさん達はピクシーさんの話に耳を傾け始めます。
「──それで、わかったの。ああ、これは憐れみでもなければ同情でもない、ただ単純に真っ直ぐな想いなんだって。種族とか、言い伝えとか、そういうしがらみの『もっと手前にあった』あたりまえに誰かを思う想いだって……」
そしてピクシーさんは真っ直ぐしろうさぎさんの目を見つめると言います。
「そんな風に私が思えるようになったのは……いつからかこの森に不思議な本を持ってやって来た一匹の動物、うさぎ、あんたに出会えたから。あんたと出会って、この森が、この森のモンスター達が変わっていくのをこの目で見て来たから。私自身があんたに救われたから、だからそれに気づけた」
正直に自身の想いを伝えるピクシーさん。
そんな彼女の言葉にモンスターさん達は皆、それぞれに思いを巡らせます。
何が正しい答えなのか?
それをそれぞれの心の中で模索します。
そんな中、目の前に居るしろうさぎさんは今にも泣き出しそうな顔で言いました。
「ピクシーさん……わ、私……私は、この森の主だから……少しでも不安がそこにあるのなら、それは取り除きたいと、思ってる。森のみんなを守るのが森の主の務め、だから……」
「ええ、そうね」
「ピクシーさんの言動がその不安を呼び込むものなら、それを見て見ぬふりは、やっぱり出来ない……」
「……ええ、それで良い。当然の、ことよ」
それはしろうさぎさんの素直な気持ち。
森の主としての自覚と責任を背負った者の抱く素直な気持ちでした。
ですが、その言葉に続けて彼女は言います。
「で、でもね……こんな事、本当は言っちゃいけないって、わかってはいるけど……私も、本当はその子の笑顔が見たいって思ってる。……何とかしてあげたいって思ってるよ……」
「……うさぎ……あんた……」
それはしろうさぎさんの本当の気持ち。
森の主としてではなく。
一匹の動物、しろうさぎさんとしての本当の気持ちなのでした。
「……だけど、やっぱりね……それは出来ない。……選べないよ」
ポロポロと溢れる涙に目を真っ赤に染めるしろうさぎさん。
そこにあったのは素直な気持ちと、本当の気持ち。
相反する二つの想い。
そのどちらも取れたらどんなに楽なのに……
だけどそれは決して叶わぬ事で。
何かをするという事は、何かを選択する事で。
天秤にかけられた想いのどちらか一つは、考えるまでもなくその重さで下に沈むのでした。
それでも。
頭ではわかっているのに体がそれを拒絶すると。
しろうさぎさんはその手に答えを取ることが出来ません。
二つの想いの狭間で苦悩するしろうさぎさん。
そんな彼女にピクシーさんは言いました。
「──ねぇ、うさぎ……例えば、その二つを一つに出来たらって言ったらどう思う?」
「……え?」
一人では到底辿り着くことの出来ないようなその答えに、しろうさぎさんはピクシーさんの顔を見つめます。
「うさぎ、あんたの気持ちは痛いほどよくわかるわ。森の主として、森の案内人さんとして……私も一匹で考えてる時はそうだった。それで、だから、リリパットやスライムにお願いして、相談して、それで、一つの結論に辿り着いた。あんたの今抱えてる問題ね、森の不安とこの子の笑顔、あんただったらそのどっちも取れるかもって私は思ってる」
「……どういう、こと?」
「……あんたの持ってる何かを変える力。その力を使えば、変えられると思う。言い伝えも、この子の未来も、まとめて全部救える可能性がそこにはあると私は思うの。だからさ……」
そしてピクシーさんはしろうさぎさんではなく森のモンスターさん達に目を向けます。
「ねぇ!! アンタ達もそうは思わない!? 私達は実際にこの目で見て来たでしょ!? スライムが、リリパットが、ゴブリンが、この森が変わっていく瞬間を!! アンタ達に嘘をつくみたいに隠しごとをしていたのは反省してる。それで余計に混乱させる結果になったのも謝る、ごめん!! でもさ、こんな話をいきなりしたところでアンタ達全員聞く耳持たなかったでしょ? でも、今は違う、ちゃんと聞いてくれてる。だから、考えて欲しい……一緒に考えて欲しい!! 新しい未来を私達の手で、この森から始めてみない!?」
そして、この日。
一匹のピクシーさんのこの言葉をきっかけに。
この世界の物語は大きくうねりを上げて動き出します。
それはまるで。
世界のあたりまえ、常識を疑い壊すような選択への問いかけで。
それはつまり。
何かが変わるということを意味しているもので。
彼女はまだ見ぬ未知なる未来の希望へとその手を伸ばしたのでした。
そんなピクシーさんの言葉はこの場所に更なる混乱を生み出す種、きっかけとなってしまいます。一層どよめきの声が増す中、ざわつく周囲の反応をよそに彼女は話を続けます。
「私は別に人間が好きでもなければ、魔女が好きな訳でもない。でもね、この子を放って置こうって思う事も出来ない。不思議よね……どうでも良いって思う一方で、どうでも良くないって思ってる私が私の中にはいるんだから……だから、考えたの。この気持ちはなんなのかって、どこから生まれて来たものなのかって……」
その言葉に次第に周囲のどよめきは小さくなって。モンスターさん達はピクシーさんの話に耳を傾け始めます。
「──それで、わかったの。ああ、これは憐れみでもなければ同情でもない、ただ単純に真っ直ぐな想いなんだって。種族とか、言い伝えとか、そういうしがらみの『もっと手前にあった』あたりまえに誰かを思う想いだって……」
そしてピクシーさんは真っ直ぐしろうさぎさんの目を見つめると言います。
「そんな風に私が思えるようになったのは……いつからかこの森に不思議な本を持ってやって来た一匹の動物、うさぎ、あんたに出会えたから。あんたと出会って、この森が、この森のモンスター達が変わっていくのをこの目で見て来たから。私自身があんたに救われたから、だからそれに気づけた」
正直に自身の想いを伝えるピクシーさん。
そんな彼女の言葉にモンスターさん達は皆、それぞれに思いを巡らせます。
何が正しい答えなのか?
それをそれぞれの心の中で模索します。
そんな中、目の前に居るしろうさぎさんは今にも泣き出しそうな顔で言いました。
「ピクシーさん……わ、私……私は、この森の主だから……少しでも不安がそこにあるのなら、それは取り除きたいと、思ってる。森のみんなを守るのが森の主の務め、だから……」
「ええ、そうね」
「ピクシーさんの言動がその不安を呼び込むものなら、それを見て見ぬふりは、やっぱり出来ない……」
「……ええ、それで良い。当然の、ことよ」
それはしろうさぎさんの素直な気持ち。
森の主としての自覚と責任を背負った者の抱く素直な気持ちでした。
ですが、その言葉に続けて彼女は言います。
「で、でもね……こんな事、本当は言っちゃいけないって、わかってはいるけど……私も、本当はその子の笑顔が見たいって思ってる。……何とかしてあげたいって思ってるよ……」
「……うさぎ……あんた……」
それはしろうさぎさんの本当の気持ち。
森の主としてではなく。
一匹の動物、しろうさぎさんとしての本当の気持ちなのでした。
「……だけど、やっぱりね……それは出来ない。……選べないよ」
ポロポロと溢れる涙に目を真っ赤に染めるしろうさぎさん。
そこにあったのは素直な気持ちと、本当の気持ち。
相反する二つの想い。
そのどちらも取れたらどんなに楽なのに……
だけどそれは決して叶わぬ事で。
何かをするという事は、何かを選択する事で。
天秤にかけられた想いのどちらか一つは、考えるまでもなくその重さで下に沈むのでした。
それでも。
頭ではわかっているのに体がそれを拒絶すると。
しろうさぎさんはその手に答えを取ることが出来ません。
二つの想いの狭間で苦悩するしろうさぎさん。
そんな彼女にピクシーさんは言いました。
「──ねぇ、うさぎ……例えば、その二つを一つに出来たらって言ったらどう思う?」
「……え?」
一人では到底辿り着くことの出来ないようなその答えに、しろうさぎさんはピクシーさんの顔を見つめます。
「うさぎ、あんたの気持ちは痛いほどよくわかるわ。森の主として、森の案内人さんとして……私も一匹で考えてる時はそうだった。それで、だから、リリパットやスライムにお願いして、相談して、それで、一つの結論に辿り着いた。あんたの今抱えてる問題ね、森の不安とこの子の笑顔、あんただったらそのどっちも取れるかもって私は思ってる」
「……どういう、こと?」
「……あんたの持ってる何かを変える力。その力を使えば、変えられると思う。言い伝えも、この子の未来も、まとめて全部救える可能性がそこにはあると私は思うの。だからさ……」
そしてピクシーさんはしろうさぎさんではなく森のモンスターさん達に目を向けます。
「ねぇ!! アンタ達もそうは思わない!? 私達は実際にこの目で見て来たでしょ!? スライムが、リリパットが、ゴブリンが、この森が変わっていく瞬間を!! アンタ達に嘘をつくみたいに隠しごとをしていたのは反省してる。それで余計に混乱させる結果になったのも謝る、ごめん!! でもさ、こんな話をいきなりしたところでアンタ達全員聞く耳持たなかったでしょ? でも、今は違う、ちゃんと聞いてくれてる。だから、考えて欲しい……一緒に考えて欲しい!! 新しい未来を私達の手で、この森から始めてみない!?」
そして、この日。
一匹のピクシーさんのこの言葉をきっかけに。
この世界の物語は大きくうねりを上げて動き出します。
それはまるで。
世界のあたりまえ、常識を疑い壊すような選択への問いかけで。
それはつまり。
何かが変わるということを意味しているもので。
彼女はまだ見ぬ未知なる未来の希望へとその手を伸ばしたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。
黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた!
「この力があれば、家族を、この村を救える!」
俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。
「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」
孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。
二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。
優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる