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第一章 魔女の森。
【最終話】 魔女の森。
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──魔女の手記。
それを読んだしろうさぎさんは翌日早朝、この森で一番高い木の下に全てのモンスターさん達を集めます。ただ一人、小さな魔女の魔女子さんを除いて。
「──皆さん、今日は朝早くから集まっていただき本当にありがとうございます。今日は皆さんにとても大事なお話があります。そして、そのお話を聞いた上でどうか私の相談に乗って欲しいんです……」
いつになく真剣な表情を浮かべて話すしろうさぎさんを見てその場には緊張が走ります。自然と静まり返るモンスターさん達を目の前にしろうさぎさんは一枚の紙を取り出し言いました。
「ここにある一枚の紙。これは先日大カラスさんが持って来てくれた『人間の書物』の内の一つです。そしてこの書物こそが私達が探し求めていた『魔女』についての真実が記されていた紙。魔女の手によって書かれた魔女の手記です」
その言葉に一同は驚きを露わにしますが、しろうさぎさんはそのままお話を続けます。
「そこには生きた魔女の言葉が記されていました。それを今から皆さんにもお聞かせしますので、どうかそのありのままを感じて受け取ってください」
──そうして、しろうさぎさんは魔女の手記を読み上げます。
魔女の手記。
それは今まで触れることの出来なかった真実。
言葉を繋ぐしろうさぎさんだからこそ見つけられた真実。
魔女とは人の憂懼が生み出した異端の呼び名。
人間の醜い心の形そのものだったのでした。
「──そして、それ以外にも私は魔女について調べる中でわかった事が幾つかあります。普段冒険者さん達と一緒に行動を共にしている魔法を使う人間は魔女ではなく『魔法使い』と呼ばれているということ。私達に伝えられて来た言い伝えはその意味を何処かの時点で誤り、魔女という存在が人間とモンスター側両方に不幸をもたらした元凶のようになってしまったということ。……つまり、魔女とは不幸の象徴なんかじゃなくて、人間とモンスター側どちら側からもの被害者でしかなかったんです」
その他にもしろうさぎさんは今では魔女狩りの儀式も風化した過去の遺物だということ。
それに合わせて髪色に対する偏見も殆どなくなって来たという事を伝えます。
それはモンスターさん達にとって紡がれ受け継がれて来た常識が崩れさるような瞬間でした。
困惑するモンスターさん達一同。
そんなモンスターさん達に向かいしろうさぎさんは問いかけます。
「……皆さん……皆さんはこの魔女の手記に記された言葉を本当の言葉だと信じますか?」
それは一つの大きな選択をする為に出された問いかけ。
魔女の手によって書かれたこの魔女の手記は言い換えればただの人間の手によって書かれた手記。
その内容が本当に真実だと言い切れるだけの確かな材料など何処にもない魔女の言葉。
何が真実で偽りなのか、何を真実とし偽りとするのか。
それを今、しろうさぎさんは自分達で決めなければいけないと思っていたのでした。
その問いかけにモンスターさん達は答えます。
「この手記は……きっと、本当だと俺は思います」
「わ、私も!!」
「私もです!!」
次から次へと上がるこれは真実だと言う声。その声は瞬く間にモンスターさん達の間に広がって行きます。その理由は、それが一番腑に落ちるからという論理的なものから、この言葉から嘘は感じられないという感覚的なものまで様々でした。そこにただの一つもそれを否定する声はありません。その光景を見たしろうさぎさんは最後にもう一度自分自身にも問いかけます。
本当に自分達は曇りなき目でこの自体に向き合えているのだろうか?
自分達は魔女子さんを救いたいという気持ちに引っ張られているだけではないのだろうか?
信じるではなく、信じたいという気持ちがそうさせているとしたら……
だけど……それでも、自分自身の心は皆んなと同じようにそれを真実だと言っていて。
いずれにせよ裏付けるものがそのどちらにもないのなら。
たとえそれが間違いであっても私達にとってはそれが真実であって良い……
そして、しろうさぎさんは一つの結論に至ると静かに頷きます。
「──わかりました。では、この森では今後魔女という存在を今までの言い伝えではなく、この魔女の手記を元にその言葉を真実としてとらえる事とします。魔女は不幸の象徴ではなく、人の手によって作られただけのただの概念。人間に捨てられたただの人間、です。それで宜しいですか!?」
モンスターさん達は各々叫び声を上げると拍手と笑顔でその決定に理解を示します。ですが、緊張が解けたのもほんの束の間、再びしろうさぎさんがその表情をくもらせるとそれを察したモンスターさん達は困惑します。一つの問題が解決した事で生まれてしまった新たな問題、それがここにある事をしろうさぎさんは伝えます。
「……皆さん……これから私が話す事をどうか落ち着いて聞いてください。……私達が今ここでした選択……それによって、新たにここに大きな問題が生まれてしまったという事を私は伝えなければいけません……そして、それはとても困難で難解な問題、私にとっての大きな『悩みごと』です……」
しろうさぎさんの言う新たな大きな問題。
それはそのどちらの答えを選んだとしても。
そのどちらも正しくて。
そのどちらも辛いような。
しろうさぎさんにとっての初めての大きな悩みごとだったのでした。
それを読んだしろうさぎさんは翌日早朝、この森で一番高い木の下に全てのモンスターさん達を集めます。ただ一人、小さな魔女の魔女子さんを除いて。
「──皆さん、今日は朝早くから集まっていただき本当にありがとうございます。今日は皆さんにとても大事なお話があります。そして、そのお話を聞いた上でどうか私の相談に乗って欲しいんです……」
いつになく真剣な表情を浮かべて話すしろうさぎさんを見てその場には緊張が走ります。自然と静まり返るモンスターさん達を目の前にしろうさぎさんは一枚の紙を取り出し言いました。
「ここにある一枚の紙。これは先日大カラスさんが持って来てくれた『人間の書物』の内の一つです。そしてこの書物こそが私達が探し求めていた『魔女』についての真実が記されていた紙。魔女の手によって書かれた魔女の手記です」
その言葉に一同は驚きを露わにしますが、しろうさぎさんはそのままお話を続けます。
「そこには生きた魔女の言葉が記されていました。それを今から皆さんにもお聞かせしますので、どうかそのありのままを感じて受け取ってください」
──そうして、しろうさぎさんは魔女の手記を読み上げます。
魔女の手記。
それは今まで触れることの出来なかった真実。
言葉を繋ぐしろうさぎさんだからこそ見つけられた真実。
魔女とは人の憂懼が生み出した異端の呼び名。
人間の醜い心の形そのものだったのでした。
「──そして、それ以外にも私は魔女について調べる中でわかった事が幾つかあります。普段冒険者さん達と一緒に行動を共にしている魔法を使う人間は魔女ではなく『魔法使い』と呼ばれているということ。私達に伝えられて来た言い伝えはその意味を何処かの時点で誤り、魔女という存在が人間とモンスター側両方に不幸をもたらした元凶のようになってしまったということ。……つまり、魔女とは不幸の象徴なんかじゃなくて、人間とモンスター側どちら側からもの被害者でしかなかったんです」
その他にもしろうさぎさんは今では魔女狩りの儀式も風化した過去の遺物だということ。
それに合わせて髪色に対する偏見も殆どなくなって来たという事を伝えます。
それはモンスターさん達にとって紡がれ受け継がれて来た常識が崩れさるような瞬間でした。
困惑するモンスターさん達一同。
そんなモンスターさん達に向かいしろうさぎさんは問いかけます。
「……皆さん……皆さんはこの魔女の手記に記された言葉を本当の言葉だと信じますか?」
それは一つの大きな選択をする為に出された問いかけ。
魔女の手によって書かれたこの魔女の手記は言い換えればただの人間の手によって書かれた手記。
その内容が本当に真実だと言い切れるだけの確かな材料など何処にもない魔女の言葉。
何が真実で偽りなのか、何を真実とし偽りとするのか。
それを今、しろうさぎさんは自分達で決めなければいけないと思っていたのでした。
その問いかけにモンスターさん達は答えます。
「この手記は……きっと、本当だと俺は思います」
「わ、私も!!」
「私もです!!」
次から次へと上がるこれは真実だと言う声。その声は瞬く間にモンスターさん達の間に広がって行きます。その理由は、それが一番腑に落ちるからという論理的なものから、この言葉から嘘は感じられないという感覚的なものまで様々でした。そこにただの一つもそれを否定する声はありません。その光景を見たしろうさぎさんは最後にもう一度自分自身にも問いかけます。
本当に自分達は曇りなき目でこの自体に向き合えているのだろうか?
自分達は魔女子さんを救いたいという気持ちに引っ張られているだけではないのだろうか?
信じるではなく、信じたいという気持ちがそうさせているとしたら……
だけど……それでも、自分自身の心は皆んなと同じようにそれを真実だと言っていて。
いずれにせよ裏付けるものがそのどちらにもないのなら。
たとえそれが間違いであっても私達にとってはそれが真実であって良い……
そして、しろうさぎさんは一つの結論に至ると静かに頷きます。
「──わかりました。では、この森では今後魔女という存在を今までの言い伝えではなく、この魔女の手記を元にその言葉を真実としてとらえる事とします。魔女は不幸の象徴ではなく、人の手によって作られただけのただの概念。人間に捨てられたただの人間、です。それで宜しいですか!?」
モンスターさん達は各々叫び声を上げると拍手と笑顔でその決定に理解を示します。ですが、緊張が解けたのもほんの束の間、再びしろうさぎさんがその表情をくもらせるとそれを察したモンスターさん達は困惑します。一つの問題が解決した事で生まれてしまった新たな問題、それがここにある事をしろうさぎさんは伝えます。
「……皆さん……これから私が話す事をどうか落ち着いて聞いてください。……私達が今ここでした選択……それによって、新たにここに大きな問題が生まれてしまったという事を私は伝えなければいけません……そして、それはとても困難で難解な問題、私にとっての大きな『悩みごと』です……」
しろうさぎさんの言う新たな大きな問題。
それはそのどちらの答えを選んだとしても。
そのどちらも正しくて。
そのどちらも辛いような。
しろうさぎさんにとっての初めての大きな悩みごとだったのでした。
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