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13話 たまたま…

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 重なった手が温かいから…

重なった手を離すことなんて出来なかった。

   陽向が、動き出すまでこのままでいよう

もう少し、このままでいたいと思ったのに…



『ひなたさ~ん!!ドライヤー貸してください!!』

ドアの向こうから、隼の大きな声が聞こえて

陽向は、飛び起きる様に慌てて起き上がり、荷物の中からドライヤーを持ってドアの方へ歩いていった。



ドアを開けると、こちらを覗き込んでいる隼の姿が見えた。

『氷雨さんっ!おはようございます。』


その視線を遮る様に、


『早く準備しないと、集合時間に遅れちゃうぞ!!』
陽向は声をかけた。


『はい。後で返しに来ますね。ありがとうございます。』

隼はドライヤーを受け取って、去っていった。


俺に視線を向けたかと思うと…


『ひーくん…』


その視線にドキっと胸の音がうるさくなる。


『…なっ…何?ん?』

少し、戸惑いながら答えた。


『…………、…………、』


しばらく沈黙が続いたけど…


それでも、陽向の視線は俺から外れることはなくて…

痛いくらいに熱い視線を向けられて


動けなくなる



『……やっぱり…いいや。準備、しないと遅れちゃうよ。』


そう言って、テキパキと支度を始めた。


肩の力が抜けて、ふぅっと息を吐いた。

今…何言おうとした?

鼓動が速くなる


俺は、一瞬…

陽向がまるで俺を<好き>って言うんじゃないかって思ってしまった。


それくらい、俺を熱を帯びた瞳で俺を見てたから。


熱くて、真っ直ぐな視線にドキドキが止まらない…。


そんな自分を誤魔化すように、パッと起き上がり支度を始めた。

けれど、そのドキドキは治まらなくて、仕事が始まってもずっと気になって仕方がなかった。


いつもは、仕事モードに入ってしまえば気にならなくなるのに、今日はなんだか切り替えられなくて…。


何を言おうとした?

お前はどんなつもりで俺を抱きしめて眠った?

たまたま、近くで寝ていたから抱きしめた?

…それとも、少しでも俺を?



なんて、考えてしまう。


ぎゅっと、目を瞑って頭の中の都合のいい妄想をかき消す。

 俺、仕事ちゃんとしろよ!!



ライブが始まって、やっと俺の頭の中は仕事モードに切り替わった。

それでも…

やっぱり、隣で、歌って踊る陽向は眩しくて…。

 <好き>って思ってしまう


それから、陽向と同じ部屋になることは無かった。

7人もいれば、そう同じ部屋になることはない。


偶然同じ部屋になってしまっただけ。


たまたま、同じ部屋になって

たまたま、ジュースが零れて

たまたま、シーツの替えがなくて

たまたま、同じベッドに寝て

たまたま、俺を抱きしめた


それだけの事…


そう、偶然。


陽向にそんな気は全くない…。

そんな気は…きっと…ない…。



だから…苦しい…。


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