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嫌われ者の僕が牢屋に入ることになった理由
⑥
僕がノルド様の生誕パーティで薬をわざと周りに分かるように飲んだのは、伯爵の罪を暴くためだけではなかった。
ワードマン公爵家に呼ばれ、訪れる度に見せつけられる家族の愛情。
どこに行っても向けられる痛い視線。
本当は大好きな婚約者には想い人がいて、彼が僕を好きになってくれることはない。
まるで四方八方に地雷を埋め込まれているかのような現実をもう終わりにしたかった。
もう…幸せな家族に恋焦がれる自分に疲弊していた。
だから、何の情報もない牢屋の中に入ることを選んだ。
だけど、大きな罪悪感を抱いた元婚約者に牢の外に出されてしまった。
どうやら彼は自身の罪悪感を埋めるために、僕を生涯養うつもりらしい…まぁ、2、3年もしたら「もういいだろ」って僕を煩わしく思うだろうし、そうしたら…また地獄のような現実を生きなきゃいけない。
それは…すごく嫌だなぁ
嫌だけど、僕への罪悪感でいっぱいのノルド様は僕を少しでも喜ばそうと頑張っているから付き合うしかなかった。
1年が経って、まだノルド様は僕を甘やかしまくっている。
僕は長期的なストレスでベッドから起き上がれないくらいの頭痛と倦怠感に悩まされている。
ストレスのひとつがノルド様なのだけど、それは口が滑っても言えない。
身体的な痛みは日常から消えたけど、精神的な疲労は今もまだ続いている。
2年経って、現状に慣れたらしい身体は動くようになった。
なのでノルド様と話し合うことにした。
だってノルド様がまだ僕の世話をやこうとしているから…僕の方からもういいでしょ?と言わないと、ノルド様の懺悔人生が終わりそうにない。
「ノルド様。もう良いのではないでしょうか」
「…何がだ」
少しの間がノルド様が僕の言葉の意図を理解していながら惚けているのだと示している。
2年も一緒にいればノルド様がどんな方なのか、婚約者時代よりもよく分かった。
「僕からご自身を解放されてはどうですか?もう十分に尽くしてくださいました」
「…ユティ、君は信じないと思う。この2年間でユティが私の事をよく理解したように私もユティのことをよく理解することが出来たと思う。そして私は君を愛おしいと、守りたいと思った」
「…は?」
思わず零れた声に慌てて掌で口を抑える。
そんな僕の様子にノルド様はクスリと笑った。
その顔は驚くほどに穏やかだ。
「つまり私は君と家族になりたいという願望を抱いている」
「なぜ?」
あまりに予想外な言葉に漏れ出た言葉にノルド様はにが苦笑いを浮かべて、僕の対面の椅子から僕の座る前に来て、その場で片膝をついた。
「何も難しいことはない。私は罪悪感からユティの傍に居たいのではなく、ユティを好いているから傍に居たいんだ」
「それは…それは気のせいです。ノルド様は僕のせいで暫く社交界にも出席していないし、人との関わりも最低限になっているから…だから僕のことを好きだと勘違いをされているのです」
「ユティ…こう言う時ばかり饒舌になるところも、自分のことを誰よりも愛せていないところも私は好きだよ。勘違いじゃない。勘違いの感情で夜中に寝ている君を無理矢理ものにしてやろうかなどとは思わない。夢の中で何度もユティを抱いたりしない」
ノルド様からの言葉に反論しようとして、ぐっと息を止めた。
なんか、今ノルド様から発せられたとは思えない言葉が聞こえてきた気がする。
ゆるりと恐る恐る視線をノルド様の瞳に向けると、目が合ったノルド様は爽やかに微笑んだ。
「母上はユティを私から引き離そうと企み、何度も失敗に終わっている。母上曰く、『まさか息子がこんなにヤバい人間になっているなんて!ユティ様が危ない!』だそうだよ。そう言われてしまうくらいに私はユティを愛してる」
ニコニコと笑うノルド様は爽やかなのに、口から出てくる言葉が不穏すぎた。
「ユティ。私はもうユティをひとりぼっちになんてさせないよ」
不穏すぎたけど
その言葉は何よりも僕の心を震わせた。
Fin
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