脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ

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 亀谷かめや日翔にちか。25歳。身長は169cm。MBTIはISFJ。幼い頃からK-POPアイドルを目指し渡韓。韓国の事務所に所属していたがデビューメンバーに選ばれず四年後に退所。その後は日本の中小事務所へ所属しオーディション番組へ挑戦するものの、デビュー歴は無し。趣味はコーヒーを飲むこと。特技は利きコーヒー。
 
 そして現在は、小さなカフェで働くただの男だ。
 
 夢を追い続けたが、いつも最後の最後で打ち破られる。事務所のデビューメンバーの候補として頑張っていたが選ばれず、オーディション番組に出演し最終発表までは残るけれども脱落。
 流石に俺の心は折れた。それにもう俺は25歳になった。今からデビューは相当厳しい。諦めざるを得なかった。

 今回参加したオーディション番組は日本で開催され、年齢や経験などの制限もなく色々な国から練習生が集められて大きな話題を呼んだ。俺でさえ最初はツウィッターのトレンドに乗るほど、影響力のある番組だった。
 最初こそは今まで出てきたオーディション番組で応援してくれたファンのお陰でデビュー圏内に入れた。番組内でも俺のことが取り上げられて、自分でも今回こそはデビューできるんじゃないかと思っていた。
 
 年齢的にも精神的にも今回のオーディションが、最後のチャンス。
 そう考えていたからこそ希望が見えて胸が高鳴ったが、冒頭の通り俺は落ちた。
 
 まあそうだ。俺は視聴者から見たら面白くないのだ。顔はパッとしないし身長もアイドルにしては低い。歌やダンスは長年練習してきたこともあり上手いが、成長は感じられず飽きられる。
 それに比べ、新しく参加してきた子たちは華がある顔立ちの子やユーモアのある子、歌やダンスは苦手だけど回を重ねる毎に成長する子、色んな魅力的な子たちがいる。俺だって視聴者だったらわざわざ俺に貴重な一票を入れようとは思わないだろう。
 
 そして夢を諦めたが、その後の将来の道は全く決まっていなかった。なにしろ俺は中学卒業後すぐに韓国の事務所に入って練習生として活動していた。つまり中卒。25にもなって日本での職歴はほとんど無い。
 
 今までの夢を諦め特に目指すものもなく、日雇いバイトをこなす日々を繰り返している時、オーディションを開催した事務所の役員から声をかけられた。
 
「急に呼び出してごめんね。亀谷くん、噂によると仕事に困ってるって聞いたんだけど」
 
 その言葉に眉を顰める。
 一体どうして俺を呼び出すのか。何か怪しいお誘いか?それとも脱落したメンバーをアイドルとして派生ユニットでも組むつもりなんだろうか。前者だったら怖いけど後者だったらすごく嬉しい。
 ごくりと生唾を呑んだが、その緊張は無駄だった。
 
「うちの経営するカフェで働かない?」
「……え?」
 
 思わず拍子抜けた。
 か、カフェ?カフェ?薬とか闇営業とか派生ユニットとかでもなくカフェ?全然関係ないんだけど。
 
「いやぁ亀谷くんのPR動画で利きコーヒーやってたでしょ?そんなにコーヒー詳しいならうちのカフェで働くのにぴったりだし、なにしろ事務所内にあるから芸能人目当ての子が入ったら困るからちょうどいいと思って」
 
 すらすらと話す彼の言葉が右から左へ流れる。な、なんだ……。ただの本当の勧誘のようだ。
 今のところ仕事も決まってないしカフェの正社員として働けるチャンスを逃す訳にはいかない。俺はすぐに頷いた。
 
 そうしてカフェで働いているが、事務所の最上階の奥にあるため一般客は入れないし、事務所に所属している人もそんなに入らない。忙しいからカフェでゆっくりする暇も無さそうだ。まあ俺は楽だから良いんだけど。
 
 俺以外の店員は全くいなくて、寡黙なマスターのみ。お店の窓からは綺麗な空が見え、コーヒーの良い匂いが漂い、静かでとても心地良いカフェ。うん、俺にとっては最高の職場かもしれない。
 
 今までは追い込むように毎日レッスンレッスンバイトバイトで慌ただしい日々を送っていたが、こんな人生も悪くないかも。
 落ちてショックだったが自分のやれることはやった。これからはほどほどに頑張ろう。これまでの努力を労わるように俺は今日も自分を鼓舞した。
 
 その時滅多に開かないカフェの扉が開いた。カランカラン、と鳴るドアベルの元へ向かい、頭を下げる。
 
「いらっしゃいませ」
「日翔?」

 突然俺の名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはかつて同じオーディション番組で切磋琢磨したいとがいた。
 
「絃?」
 
 
 
 
 
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