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8.ソウルメイトな不良
しおりを挟む自室の布団に倒れ込み、大きなため息を吐く。
山野の衝撃的な性癖を知ってしまったとんでもない日だった……。人は見かけによらないって本当だったんだな。というか、卒業まで俺はあの山野と二人で過ごさないと駄目なのか?別に悪い人じゃないとは思うけど俺の高校生活こんなのってあんまりだ。
あー、止めよう。取り敢えず現実逃避のために漫画でも読むか。
布団の上で漫画を読み、三巻へ手を伸ばした時、扉がノックされた。何の警戒心も無く開くとそこには山野が立っていた。
「こんばんはッス。今日から夜の警備も担当することになったッス」
「よ、夜の警備?そんな係あったっけ?」
寮の役割がいくつかあるのは知っているが鍵係や寮長や副寮長位じゃなかったか?
警備とか生徒でしないといけないとか面倒くさいなぁ、と考えていたが彼は「獄堂啓吾親衛隊の役割ッス」と意味不明な言語を放ってきた。
親衛隊の役割で俺も関わるとか意味不明だ。誰得だよ。
「なんか食いたいものとかあるッスか?」
「無いよ」
「怪しいものとかあったッスか?」
「大丈夫。その、もう帰っていいよ」
「ええっ何でッスか!?俺、嫌なことしたッスか?」
正直夜まで関わってくるとかかなり嫌だ。俺の部屋の前にヤンキーが居たらクラスメイトだけでなく隣室の人々にも避けられるじゃないか。もう早く帰って欲しい。
しかし彼は泣きそうな顔をして懇願してくる。もう俺も泣きたいって。俺を解放してくれよ……。
「えっと、取り敢えず部屋上がって」
「はっ!?そんなんしたら獄堂さんに殺されるッス!!」
山野と一緒にいる所を見られないように部屋に上げようとしたら何故か山野は震え始めた。
……もしかしてだが、山野って俺と啓吾の仲を誤解してないか?
確かに何故か一緒にご飯を食べているが、別に仲良い訳じゃないし警備なんてしてもらう程じゃないんだけど。
俺と光の事もおホモだちだと思ってたし、今度は啓吾と俺が恋人だと勘違いして変な役目を作った説も有り得る。親衛隊の人達に「佐藤さんは獄堂さんのソウルメイトッス!」とか変なことを言ったとか……有り得る。
「啓吾は俺が何しようと気にしないと思うよ?嫌がらせされたら怒るかもしれないけど、別に山野は害がないって分かってるし」
「いやいやないっス!部屋に一歩でも入ったら鉄バットで瞬殺ッス!」
「ナイナイ。も、もしかして山野って俺と啓吾が付き合ってると思ってる?なーんちゃ「思ってるッス」……ンン?」
曇りの無い瞳で見つめる山野。
や、やっぱり誤解してたぁぁあ!!
「付き合ってないよ!」
「はっ、そんな訳ないッスよ!佐藤さん、もしかして獄堂さんに誤解されたからって拗ねてるッスか?」
何を拗ねるんだ。
山野、そんなに恋愛脳なの?一回目を覚ますために女子校でも門から覗いてみればいいんじゃないか?
「いや、山野。俺と啓吾はそんな仲じゃないから」
「照れなくて良いッスよ!俺もう分かってるんで!獄堂さんと佐藤さんが親公認の仲で一夜を共に過したことも」
変な言い回しをするな。俺と啓吾が如何わしいことをしたみたいだし、てか親公認とか啓吾が俺の家に来た所見てたの?ずっと俺達のことを監視してたのか?
「そもそも獄堂さんは自分の名前を呼び捨てさせたりしないッス!呼び捨てになんかしたら顔の造形が分からない位ボコボコに殴られて内臓抉られるッスよ!」
それもう殺されるってことじゃないか。え、俺いつか殺されるってこと?
血の気が引くと、山野は更に追い込むように話し続けた。
「獄堂さんは自分のバイクを魂の次に大事だと公言してるのでその後ろに乗ったらわざと切れ味の悪い錆びた槍で足の先から一本一本刺される拷問を受けるッスよ!」
「ひぃっ、お、俺死にたくない」
「アァ?明が死ぬ事になったら俺が相手をぶっ殺してやるからそんな日一生来ないな」
突如聞こえた低い声の主は噂の獄堂啓吾だった。目を見張ると彼は俺を見て目を細める。
「明、遅いしもう寝ろ」
「えっ、まだ八時だけど……」
「早く寝ないと背が伸びないぞ」
遠回しにチビだと言ってるのか?一応俺はちょうど170cmで人権はあるが、確かに啓吾と比べたら頭一つ分位違うし小さく見えるかもしれない。
無意識につま先立ちをして背伸びをすると山野と啓吾は微笑ましいものを見るような目をする。なんか馬鹿にされてるような気分で恥ずかしい。
「二人でワーワー言ってたが何話してたんだ?」
「獄堂さんがどれだけ佐藤さんを大切にしてるか語ってたッス」
「おい、やめろよ。恥ずいだろ」
啓吾は片手で自分の顔を覆い、もう一方の手で軽めに山野の頭を殴る。
少し頬を赤らめながらも俺に告げた。
「こいつの言う事は気にしなくていい」
こくこくと頷く。
元々山野は勘違いしやすい性格だし余り信じてはいない。
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