過保護な不良に狙われた俺

綿毛ぽぽ

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9.狼と犬と不良

 今日の午後の授業は異能力の時間だ。
 一年は今まで異能力の時間は無かった為、皆どこか浮ついている。かく言う俺も胸を高鳴らせている。この学園にしかない授業だしどんな内容なのか気になる。

 体操着に着替え、グラウンドへ向かう。そして号令前に整列し終えるとチャイムと同時に先生が大声で発した。
 
「よし、全員集まったな。いいか?この授業は人命に関わる場合もある。危険を感じた場合は直ぐに近くの教員に伝えるように!今日の内容は一人一人自分の異能力を俺の前で披露することだ。先ずはグラウンド五周!」
 
 その声を合図に全員が走り始めた。俺も後を追う。

 何とか走り終えると、既に走り終えた生徒たちは各自で自分の異能力の練習を始めていた。草を生やしていたり、地面に穴を作ったり、飛んでいる生徒もいる。異能力者自体希少な為、新鮮な光景だ。
 
 よしっ俺も負けじと頑張るぞ。
 俺の異能力は小動物を呼ぶことだ。似合わないと言われるが、俺自身動物は好きだから気に入ってるし自慢の能力だ。 
 来いっと心の中で念じると森の方から兎や狐、文鳥が俺の方へ集まった。よし、取り敢えずこの子達を呼べば何とかなるか。
 
 先生がこっちに来るまで時間はあるだろうし、それまで戯れていようかな。胡座をかき、その上に狐と兎を乗せて撫でると安心したように穏やかな表情を浮かべる。可愛いなぁと愛でていると山野がやってきた。
 
「佐藤さん、なんかディ〇ニープリンセスみたいッスねー」
「はは、そんな事言われたの初めて。山野はどんな異能力?」
「俺は速く走れるッス。50mは3秒で走れるッスよ!」
 
 山野の姿が分からないほど高速で走った。かっこいい異能力だな。小学生の時だったら色んな女の子にモテそう。
 「凄いなー」「いや佐藤さんも良い異能力ッスよー」なんて二人で褒め合っていると突然地面が揺れた。
 
「おいっ、今すぐ異能力を抑えろ!!」
 
 先生の怒号が聞こえるが揺れは止まない。他の異能力も影響する場合があるため、殆どの生徒が一旦異能力を停止する。俺の場合は止める前に動物達が先に異変に気付き逃げてしまった。
 
「危ないッスねー。強い異能力って憧れるけど使いこなすのが大変そうッス」
「確かに周りに迷惑かけるかもしれないと思ったら怖いな……」
 
 もし俺が強い異能力を持って生まれて大震災とか起こしたら立ち直れないと思う。そう考えるとつくづく平和な異能力で良かったと安心した。
 すると一匹の狼が近くに寄ってきた。
あれ、狼?俺狼なんか呼んだっけ?疑問に思いながらも声をかけた。
 
「おーい、大丈夫?森に帰っていいよ」
「狼!かっけーッスね!つか話せるんスか?」
「いや俺の方は何言ってるか分からないけど、動物達はなんとなく通じてる感じなんだ」
 
 狼はきょとんと首を傾げながら俺を見上げ、のそのそとゆっくり歩き俺に頭を擦り寄せた。初めて狼なんて呼んだけど人懐っこいと可愛いなぁ。
 頭を撫でると目を細める。可愛い!だが、危険だからもう森に帰ってもらわないといけない。
 
「あの、一旦森に帰って欲しいんだ。後で幾らでも撫でるからさ」
 
 そう説得するが聞く耳を持たずそのまま膝の上で寝てしまった。

「あちゃー寝ちゃったッスね。そのまま寝かせときゃいいんじゃないッスか?さっきのちっこい動物に比べて自分の身くらい守れそうッス」
「確かに」
「俺も触らせて欲しいッス、って痛ッ!!」
 
 山野が手を伸ばすと豹変したように開眼し手に牙を立てた。
 お、恐ろしい……。今までの動物達は平和で穏やかな気性だったがこんな凶暴的な子は初めて見た。
 涙目の山野を宥める。これで山野がキレて狼をシメるとか言い出したら地震以上の騒ぎになりそうだからな。山野には悪いが我慢して欲しい。
 
「今日の授業はもう終わりだ!異能力の審査は後日にする」
 
 そして無事解散となったが、狼は帰ろうとしないので仕方なくそのまま連れて行くことにした。横にいる山野は不満げだったが。
 先生に寮の部屋に入れる許可を頼むと「慣れないうちは仕方ない」と許してくれた。
 
 外で歩いてたし足裏が汚れてるだろうから両手で狼を抱える。早く寮に連れて行って風呂に入れた方が良いな。
 山野は狼を警戒しているようだが、警備係の責務だと嫌々着いてきた。嫌なら来なきゃ良いのに。
 
「ごめんね。歩きたいと思うけど我慢しててね」
 
 狼は微動だにしない。
 なんか、やっぱりこの狼俺の言葉通じてる様子ないし、俺が呼んだ動物じゃないよな。そもそも俺の異能力って小動物限定なのにこんな大きな動物を呼べる訳が無い。でも、普通の動物が初対面の人間に従順な訳が無いし直ぐに人に食らいつくだろう。それこそ、さっきの山野ように。
 
「……やっぱり森に連れて行った方がいいのか?」
「ええ。ソイツ野性味強いし部屋に入れたら散らかしそうッスよ?さっさと連れてった方が良いッス」

 それを言った途端、再び狼が山野の腕に噛み付いた。驚いた拍子に両手を外してしまったが狼はひらりと着地し俺の足元に寄り掛かり山野を睨む。

「いってぇ!!マジでコイツ一回人間様の力を見せつけてやった方が良いッスよ!」
「お、落ち着いて。動物虐待になるよ」
「こっちだって人間虐待ッス!」
 
 確かにそうだ。このままじゃ山野が可哀想だ。山野が傷ついたら啓吾も怒ってくるだろう。それに、この子は余り人里には向いて無さそうだし森に戻した方が良い。
 
「森に帰ろう」
 
 そう言って持ち上げようとすると、狼は俺の後ろに周り逃げた。振り向いて抱こうとすると避ける。
 おかしい。さっきまで俺が触ってもこんな反応をしなかったのに。
 
「帰りたくないのか?」
 
 頷き俺の膝にすり寄る狼の様子を見て、俺の言葉が通じていることが分かった。やっぱり俺が呼び出した動物かな。じゃあ責任持って預かるか。
 そして結局狼を俺の部屋まで連れて行くことにした。部屋へ向かうと啓吾が何故か俺の部屋の前で立っていた。嫌がらせかな?マジで隣人から煙たがられるからやめて。
 
「あ、あの、啓吾。どうしたの?」
「明ッ!!」
 
 ガバッと力強く抱き締められる。
 く、苦しい……。窒息死させるつもりか。
 
「良かった。一年の授業で事故があったって聞いたからお前のとこ行ったのに全然帰ってこねえし心配した……」

 啓吾の吐息が耳に入る。むず痒いから解放して欲しいが、啓吾の不安を考え抵抗することを諦めた。
 しかし、啓吾が途端に体を俺から離した。そして俺の持ち上げていた狼を凝視する。
 
「それなんだ」
「狼ッスよ」
「見りゃ分かるが何で明が抱えてるんだ?」
 
 異能力で……と説明すると眉間に皺を寄せて狼を睨む。
 こ、怖い。狼に槍ぶっ刺してきたりするかもしれない。いや、理由もなくそんな事はしないだろ!と信じたいが有り得ないことも無いので不安が拭えない。
 
 守るようにぎゅっと狼を抱き締めるとますます啓吾の顔が恐ろしい事になる。
 何でこんなに怒ってるんだ?そして山野はよくこの啓吾を見てデレデレ出来るな。狼には怯えるくせに目の前の閻魔大王には何も思わないのか?
 
「ソイツは俺が預かる」
「え」
 
 何するつもりなの!?丸焼きにして食べたりするつもり!?それとも手懐けて喧嘩の時に使うとか?
 ど、どれにしても駄目だ。元は森で過ごしていた動物。だからちゃんと帰すべき。
 
「わ、悪いけど、この子は自分の家に返すべきだと思うんだ」
「ああ、だから俺が山に行ってくる。バイクあるし」
「えっでも啓吾に悪いし」
「そうッスよ!!獄堂さんがわざわざ行かなくても下っ端に頼るべきッス!」
 
 山野が大きな声で主張する。下っ端には悪いが俺も山野の案には賛成だ。啓吾の命令には忠実だし無意味に狼を怒らせるような真似はしないだろう。
 しかし、頑なに啓吾は自分が預かろうとする。そしてついに俺の胸にいる狼に手を伸ばした。
 だが、狼はその手から逃げるように飛び降り、啓吾の手はそのまま俺の胸に着地した。
 狼ナイス!心の中で親指を立てるが、啓吾がこれで更に不機嫌になったらどうしようと見上げると、啓吾は真顔で目を見開いていた。そしてみるみると顔が赤く染っていく。不意に目が合えば、耳朶まで赤くなり隠すように両手で顔を覆った。
 
「悪い、わざとじゃないんだ」

 何が?何の話してるの?
 
「え、だ、大丈夫」
「佐藤さん!狼脱走しそうッスよ!!」
「えっ!?」
 
 そして俺は狼の行った方向へ山野と追い掛けたが、見失ってしまった。
 森に帰っていたらいいんだけど……。少し気掛かりだが、下手に人間が干渉しても良い事は起こらないだろう。
 すると、後から追いかけてきた啓吾が眉を下げて謝ってきた。

「明、悪い。犬相手に嫉妬なんて情けない」
「犬じゃなくて狼だけど」
「まあ見た目は狼だが、アレはただの狼じゃねえ」
 
 まだ犬だと思ってるのか?
 首を傾げると、啓吾は真剣な表情で告げた。
 
「もう二度と近付くな」
 
 固唾を呑んでいるような緊張の色を浮かべる。俺はその空気に飲まれ無意識に頷いた。すると、啓吾は糸が解れたように口元が綻んだ。
 
 
感想 1

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みんなの感想(1件)

ラケル
2023.02.23 ラケル

続きが気になります!連載が再開されますように🙏

2023.02.23 綿毛ぽぽ

更新が遅くなっており本当に申し訳ないです……。
ストックが切れてしまい、続きが思いつかず、もう半年も更新していませんが、気長に待って下さると幸いです🙇‍♂️

解除

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