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しおりを挟む目覚めれば隣に温もりを感じる。横を見るとそこには愛おしい婚約者が居た。俺の運命の番、田塚瑛太である。
少し長い睫毛が綺麗で、すーすーと気持ちよさそうな寝息が可愛い。ぷるぷるの唇も可愛くて、ついちゅっとキスをしてしまった。まあ良いよね。番なんだからこれくらいは。
俺の祖父と瑛太の祖父は昔から仲が良く、子供が出来たら許嫁にしようという話になったらしい。しかし、俺の親も瑛太の親も好きな人が出来たからその話は無くなり、次の代に引き継がれた。そうして俺は見事瑛太の婚約者の立場を掴んだ。
瑛太を一目見た時から心を奪われた。可愛くて可愛くて仕方なかったが、昔の俺は素直じゃなくてつい瑛太のおもちゃを奪ったり頬を抓ったり意地悪ばかりしていた。そんな毎日を繰り返し、ついに瑛太の堪忍袋の緒が切れて叫んだ。
「もうキライ!ゆーやなんてやだ!!あっちいって!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。瑛太と離れるなんて嫌だ。顔を見れなくなるなんて死んでしまう。俺は必死に瑛太のご機嫌を取り何とかその言葉は撤回して貰った。
瑛太に拒絶されることは何よりも恐ろしかった。あの時の恐怖を思い出すと今でも体が震える。だから、これから先どんなことがあっても絶対に瑛太から離れないと心に決めたのだ。
だが、再び瑛太から距離を置かれそうになる。それはバース検査後。やけに暗い顔をして部屋から出てきた瑛太を見て直ぐに異変を感じ取った。
「俺、βだった」
「え?」
てっきりオメガだと思っていた俺は驚きを顔に出してしまった。瑛太からはいつも良い匂いがするしこんなに好きだと思うのは運命の番だからじゃないか、と感じていたくらいなのに、瑛太がベータ?ベータがこんなにか弱くて細くて儚くて大丈夫か?
だが、正直二次性がどうであれ、瑛太は瑛太。特に問題は無いと思っていたが、瑛太は違った。
「婚約、なしになるよな」
「は?」
思わず地を這うような低い声が零れた。
え、なんで?どうしてベータだからって婚約破棄になるんだ。関係ないだろ。
取り乱しそうになるが、深呼吸をして心を落ち着かせる。落ち着け、ここで問い詰めたらそれこそ瑛太に嫌われる。優しく、穏やかに。
「どうしてそう思ったの?」
「だって、ベータだったら子供産めないじゃん。俺男だし」
子供なんて要らないが。確かに瑛太似の子供ならとても可愛らしく天使のようで癒されるだろう。だけど俺似だったら瑛太にくっ付いて離れないだろうし邪魔だ。それに俺以外が瑛太の胸を吸って授乳するとか想像するだけで虫唾が走る。
だけど、瑛太は子供が欲しかったのか。確かに子供と戯れる瑛太はさぞかし可愛いだろう。
「瑛太、大丈夫。養子を取れば良いよ」
「でも」
「大丈夫。それに婚約の掟にどのような性でも長男と長男が結婚するって書いてあったし」
「え、そうなの?」
「うん!(今決めた)」
そして瑛太は納得してくれて話は終わったかと思いきや、その後もやけに瑛太はベータであることを気にする。
何故だ。俺は、瑛太が被害を加えられないように、変なことを耳にしないように、常に警戒している。毎朝起こす時にこっそりマーキングして下手に近づけないようにしてるし、何かあった時の為に瑛太のクラスメイトとしてカモフラージュして護衛の浅川まで送り込んだのに。
だが、もう直ぐ瑛太の心配も消える。瑛太はオメガになるのだから。
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