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2.勇者様、ぼったくりです
しおりを挟むくそ、こんな事ならもっとまともな格好で来て最高級の万年筆と紙を用意していればサインを貰えたのに!しかし時既に遅し。俺は呼吸困難になりながらも一生の思い出にするべく口を覆いながら彼を見詰めた。
「ジェイミー、これとか良くね?苺のタルト」
大男がメニューを指してジェイミー様に問い掛ける。ジェイミー様は甘い物を好まない。だからそれは余りお気に召さないだろう。
俺の予想通り、ジェイミー様はその提案を断り他のメニューに関心を示した。
「この「勇者も思わず頬が落ちるミートスープ」は本当に落ちるのか?」
ジェイミー様、それは比喩です。ただの売り文句で頬は落ちません。ジェイミー様が好きな人々を引き寄せる為に作った名前でただの鶏肉のスープです。割と庶民も作れるレベルなのに値段はぼったくり、と詐欺メニューなので止めた方が良いと思います。
本人に伝えたいが推しと話すなんて無理無理無理。握手会のような公式の場ならまだ良いが無償で関わるなんて恐れ多い。
そしてジェイミー様はそのままスープを頼んでしまった。くそ、俺がもし勇気あるオタクならば、行動力のあるオタクならば、ジェイミー様にお勧めのメニューを教えることが出来たのに。
彼はそのまま届いたスープを一口含むが、凛とした表情は変わらなかった。うわぁ、推しが目の前でご飯食べてる。嗚呼、所作も美しい。流石伯爵家の育ちの良さが溢れている。
ジェイミー様は伯爵家の次男だが伝説の剣に勇者に選ばれた事から魔王討伐へ勇者として向かった。そして魔王討伐を終えた今もその剣の腕前を武器に騎士として日々鍛錬を重ねている。しかしジェイミー様は家柄が良くても、その様な偉業を成し遂げても、決して権力を振りかざさないし威張らない。
我が推し、人間として出来過ぎている。
うんうん、と推しの素晴らしさを心の中で噛み締めていると奥から女の子特有の高い声が聞こえた。
「えっもしかして勇者様!?」
「ホントだ!お昼ご飯ですか?もし宜しければ私達も御一緒してもいいですか?」
花が咲くような笑顔でジェイミー様に近付く女二人組。凄い行動力だ。話す事すら恐れている俺とは大違い。
そんな事を思っていると前から異様な視線を感じた。目を向けるとそこには般若のような顔をしたクレアがいた。視線だけで人を殺せそうだ。女の嫉妬程恐ろしいものは無いな。
一方、ジェイミー様はピクリとも表情を動かさず彼女等に告げた。
「すまないが、気を許した相手以外とは共に食事をしたくない」
ジェイミー様の言葉に彼女達はがっくりと肩を落としたが、彼は気にせずまたスープを口に入れた。これにはクレアもにっこりとご満悦である。
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