馬鹿な先輩と後輩くん

ぽぽ

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俺の先輩の話

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 最初は、最悪な先輩が教育係に付いたと思っていた。
 馬鹿だしヘラヘラと笑うだけ。俺よりもミスが多いし同じ指摘を何度も言う。しかし、いつものように俺の顔に集まる鯉みたいな奴らとは違って、普通に接してくるだけはまだマシだと思った。
 
「ねえねえ、今彼女いるの?」
「今度、二人っきりで飲みに行かない?」
 
 そうだ、こんな馬鹿なヤツらがよく集まる。
 
「おいお前、全然減ってねーじゃねーか!?」
 
 逆恨みする馬鹿もいる。
 
 そして一気コールが始まる。正直言うと酒は苦手だ。美味いと思った事も無いし頭が回って気持ち悪くなる。
 適当に一回飲んだ後出るか。そう考えた時に聞き馴染みのある声が響いた。
 
「はーい!俺、飲みます!!うまっ!」
「は、お前!!どんだけ飲んでると思ってんだ!中毒になんぞ!!」
 
 さっきまで俺に飲ませようとしてた奴ですら焦り始めた。しかし、その制止は彼の耳に届かず瓶の麦酒はあっという間に無くなった。
 やばいな。完全に酒で馬鹿がパワーアップしてる。
 
「美味しい!やっぱりびーるさいこー!!」
「落ち着け!飲みすぎるなって前も言っただろ」
「課長、いーじゃないですかぁ。俺、最近飲めてなかったし?」
 
 呂律が回っていない。立っているのもやっとな感じだ。
 課長は呆れたようにため息を吐きながらも介抱しようとする。この人は同性に好かれやすい。童顔だし懐いたら素直だからだろう。
 
「ほら、もうお前は帰れ! 俺が連れて帰るから」
 
 煩い課長と今にも倒れそうな先輩が居なくなることに、なんとなく浮ついた雰囲気が漂う。
 しかし俺は何故か口を挟んでいた。
 
「俺、先輩と方向一緒なんで連れてきます」
 
 その場にいた全員が、ぽかんと阿呆みたいに口を開いたまま固まった。
 その様子を気にせず、先輩を背負い二人分の金を置いて店から出た。
 
「お先に失礼します」
 
 自分よりも身長が低いとはいえ普通に重い先輩。だが、あの場に居るよりもこの人を連れて帰る方がまだマシである。
 あー、だるい。つか、家の方向が近いとか言ったがこの人の家の場所すら知らないし。
 まあ当然だ。いつも俺は素っ気ない態度をとる。下手に俺と仲良くしてもこの人が周りから睨まれるだけ。懐かれても課長がまた睨んでくるから面倒だし。
 
「あれ?課長は?」
「居ませんよ」
「えっ、後輩くん!?じゃあ、おれ、歩きまっす!」
「歩けないでしょ。で、先輩の家どこなんすか」
 
 課長は良くて俺は駄目なのか意味が分からない。あんなハゲた課長が好きだとか馬鹿の好みは全く理解できない。
 先輩は動揺しながらも駅名だけを言う。かなり遠い場所だ。
 
 適当にタクシー捕まえて行けば良いか、と考えている最中に先輩は勝手に話し始めた。
 
「偉いねぇ、後輩くん。いつもありがとう」
「……はぁ、大したことはしてませんが」
「いやー、君は凄いよ! 女の子からモテモテなのは腹立つけど!」
 
 本人にそれ言うか普通。
 酒が入ったことにより嘘包み隠さずバカ正直に思った言葉が出るのかもしれない。
 
「嫌なら、俺の為なんかに無理して飲まなくてもいいんじゃないですか」
「え?」
「酒、一気無理やり飲んだんでしょ」
 
 あの状況は完全に俺が一気する雰囲気だった。周囲も俺が飲むことを待ちわびていた。
 それなのに、違う席で飲んでいた関係の無い先輩が、自分の隣にある飲みかけの麦酒ではなく俺のを飲むなんて、故意で行ったのだ。
 この先輩が俺をよく思ってないのも知ってるし、まだ付き合いも浅い。それなのに何で無理に飲んだのか。助けるような真似をしたのか。
 
「後輩が困ってる時に助けるのが先輩じゃん。俺、後輩くんの教育係だから当たり前だよ」
「……そうですか」
「ね、今のちょー格好良いと思わない!?」
「は?」
 
 急に漫画とかでよくあるテンプレのようなセリフを言われたかと思いきや、自分からバカみたいなことを聞いてきた。
 困惑する俺を気にも止めず、彼は満足気な笑顔で語り始めた。
 
「おれ、困ってる後輩を助けるかっこいー先輩になりたかったんだー! いつも後輩くんの方がかっこいーステキーって言われてるけど、さっきのは「先輩……素敵!」って見直されるでしょ!!」
 
 天真爛漫な笑顔で自慢げに話す彼。
 ……本当に、最初から最後まで、馬鹿な人だな。
 
「……くくっ」
「え、何? 君も吐きそう?」
「ふはっ、違う。あんた、本当に馬鹿だと思って」
「え。俺、バカ!?」
 
 思わず笑い声が抑えられなかった。
 どっからどう見ても馬鹿なのに、彼は自分が馬鹿だと言われ目を丸くしている。
 
「さっきなんて酒大好きな野郎にしか見えませんでしたよ」
「それ本当!?」
「ははっ、それなのに、格好良いとか本当にあんたって人は」
 
 久し振りに腹が痛くなる程笑った。
 その後も笑い続ける俺に対して先輩は顔を真っ赤にしながらも背中を叩いてきた。
 
 少し痛む背も、触れる柔らかい髪も、全てが心地好く感じこの時間が続けば良いのに、なんてらしくない事を思った。
 

          ◆◆◆
 

 その後、先輩とは前よりも気軽に話せるようになった。二人で飲みに行く事もあったし、仕事でも分からない事を互いに支えるような良い関係になっていた。
 しかし、それを周りはよく思わないようだ。
 
「私の方が教育係として向いてませんか?」
「は?」
「あの人、長い間働いているくせに失敗ばかりでしょう。よく君も文句を言っていたじゃないですか」
 
 とある女の上司が聞いてきた。
 確かに、あの人はその通りよくミスをする。そして俺も注意をする。それは日常となっていた。
 
「折角、君はもっと可能性を広げられるだろうに、私が一緒の方が君を更に高められると思うの。今度、他の上司にも替えられるか聞いてみましょうか?」
 
 彼女は笑顔で俺に寄ってきた。
 替える? あの人の代わりにこの女が?
 確かにあの馬鹿と居るよりも効率よく学べるだろう。毎度飲んだ後の介抱に手伝わされることも、ミスした時に助けを求めてくることも、もう、
 
 刹那、コピー機の方から何かがぶつかったような音が聞こえた。咄嗟にそこへ目を移すと、先輩がいた。
 彼は俺を一瞥した後いつものようにヘラりとした笑みを作って「失礼しましたー!」と無駄にデカい声で退室した。
 嗚呼、行かないと。
 
「ちょ、まだ話の途中」
「その話は無かったことで。俺、あの人の隣以外は興味無いです」
 
 思うがままに放った言葉に、彼女は目を見開いた。俺はその姿を気にせず先輩を追いかけた。
 
 
      ◆◆◆
 

 急いで走りあの人がよく通る道を見回す。すると、いつもの小さな背中が見えた。手を伸ばして、腕を力強く掴む。
 
「っ、先輩!!」
「え、ど、どうした?」
 
 らしくない。
 何かに一生懸命になって、走ったりして、焦るなんて。こんな汗水垂らさなくてもどうせまた会えるのに。
 なのに。
 
「聞いてました? さっきの」
「あ、あぁ。その、良かったね! あの人、優しいし成績も良いし」
「……先輩は、俺があの人の下で働いた方が良いですか」
 
 厄介な質問を口に出す。こんなのまるで面倒な野郎みたいじゃないか。
 彼はそんな俺の言葉に対してやはり戸惑う。しかし、目を逸らしながらも苦笑して答えた。
 
「後輩くんの好きな場所でいればいいと思う。でも、また二人で飲みに行けなくなるのは残念かな」
 
 その言葉を聞いて、全身の力が抜けたようにその場で顔を抑えてしゃがみ込んだ。
 あー、煩い。心臓がドクドクと煩いのに耳を閉じてもその音は止まらず聞こえる。
 
「……今日、飲みに行きましょ」
 
 そう言うと彼は嬉しそうに微笑んだ。
 この人は女性が好きだ。それに、ドジだしアホだし馬鹿だし、俺の想いなんて一生気づくこともない鈍感な野郎だ。
 でも、そんな人にこんな感情を抱く俺は。
 
 一番の馬鹿は、俺だ。
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みんなの感想(2件)

ハル
2022.06.12 ハル

初めまして、どぽぽ様🤗
偶然に出会った作品でしたが、面白く一気に読了しました。完結になっていますが、後日談を読んでみたいです😉

2022.06.12 ぽぽ

初めまして。
初投稿の作品と出会って頂きとても嬉しいです!完結しましたが何かの記念日に久し振りにこの二人の番外編を書いてみたいです😊
感想ありがとうございます!

解除
花雨
2021.08.15 花雨
ネタバレ含む
2021.08.15 ぽぽ

初コメありがとうございます…!本当に嬉しいです。とても励みになります!

解除

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