βとバレたら婚約破棄

綿毛ぽぽ

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 心臓が胸を内側から突き上げるように打ち鳴る。春陽くんは真っ直ぐ俺の目を見つめた。覚悟を決めて、俺は口を開く。
 
「実は、婚約を破棄」  
 
 言葉が途切れる。俺の言葉を被せるように鋭い破片の音が耳を刺した。春陽くんの持っていたコップが滑って床に落ちて割れてしまったのだ。二人で慌てて片付けをしている間に俺はすっかり直前の出来事を忘れてしまった。



「あ、そういえば言ってなかった」
 
 寝る直前に婚約破棄の事を思い出した。また次会う時に今度こそ忘れずに言わないといけない。不意に布団に転がりながら春陽くんと出会った日から今日までの記憶を思い出す。
 
『ゆきちゃん、ぼくかけっこで一位だったよ!』
『幸人さん、模試の成績が一番でした!』
『幸人さん、生徒会に選ばれました!』
 
 歳を重ねるごとに呼ばれ方が変化した。もうちゃん付けで呼ばれる程可愛らしい顔じゃないし、さん付けでも良いが少しあの頃が戻らない事を寂しくも感じる。
 しかし、キラキラと目を輝かせて俺に報告する様子は成長しても変わらない。彼はいつも口では「褒めて欲しい」なんて言わなかったが、俺が「凄いね」「偉いね」「かっこいいね」と褒めるとそれはとても嬉しそうに笑うのだ。そんな春陽くんが可愛くて仕方なかった。年は離れてるけどずっと春陽くんの成長を近くで見てきた。
 
 だが、婚約破棄したら本当にもう何も見れなくなってしまうのだろう。
 部屋の静けさがより一層孤独感をじわじわと心に染み付けた。

 頭の中で春陽くんの未来を想像する。きっと優秀なアルファの彼なら未来も華々しいだろう。良い会社に入って素晴らしいお嫁さんを貰うに違いない。
 
『幸人さん、僕好きな人が他にできたんです』
『幸人さん、この容姿端麗で頭脳明晰な女性と婚約することになりました!』
『幸人さん、もう貴方と会う予定はありません。だって、他人なので』
 
「そっ、そんな事言わないでぇぇ」
 
 自分で未来を想像しておいて涙が出そうになる。布団に包まり嫌な未来を追い払うようにぶんぶん首を横に振った。
 
 や、やっぱり婚約破棄は春陽くんが言い出してから考えよう。うんそうしよう。別に問題はまだ起きてないのだから、わざわざ婚約破棄を急かす必要も無いだろう。そう考えていた。

 だが、問題が起きてしまった。

「……え。β?」

 高校卒業間近に行われたバース性検査。普段周囲からまたどうせオメガだろうという目で見られていたし、俺自身も当たり前のようにオメガだと思ってた。それがベータ。おもわず検査結果を二度見、三度見、否、四度見してしまった。
 な、なんで中学の時はオメガだったのに、いつの間に変化したんだ!?
 
 先に検査が終わった友人が「どうだったー?」と俺の手元の紙を覗き込むが、その前にくしゃくしゃと紙を丸めて誤魔化した。そして、その丸めた紙を鞄に突っ込み家へ向かった。

 電車に揺られながら俺は放心していた。普段は外の景色を見たり参考書を読んだりしていたが、何も頭に入らない。まさか自分がベータになるなんて。身長が伸びる度に、声が低くなる事を自覚する度に、本当にオメガだろうかと疑問に感じたが、ついに本当にベータになってしまった。十代も残り僅か。つまり、俺の第二の性はベータで間違いないだろう。

 家に入ると既に春陽くんが家に訪れていた。授業が終わり、そのまま遊びに来たのか。
 
「幸人さん、おかえりなさい」
「あ、ただいま。早いね」
「ええ、今日は部活も無かったので。そういえば、バース性検査どうでした?」
 
 ギクッと肩を揺らす。
 もし、ベータだったら、俺達の関係はどうなるんだろう。春陽くんなら優しいから遊びに来てくれるだろう。いつも通り優しく微笑んで、一緒に料理したり、ゲームしたり。
 
 でも、それっていつまでだろう。
 
「……お、おめがだったよ」
 
 言葉が喉に引っかかり、声にするまで息が詰まるような思いだった。吐き出した言葉は全くの嘘で何故こんな意味の無い嘘を吐いたのか、自分でも分からず思考が止まった。
 
 しかし、澱んだ俺の声にも、彼の表情は変わらず穏やかに目尻を緩めた。

「じゃあ発情期ももう少しかもしれませんね。もしもの為に抑制剤は必ず持ってくださいね!」

 こくりと頷くが、内心は気が気じゃなかった。発情期や抑制剤なんて全部俺には無関係なことだ。本来は、何も心配しなくていいのに。直ぐに訂正した方が良いとは分かっていたが、これ以上言葉を絞りだせなかった。
 
 ああ、どうしよう。輝かしい春陽くんの人生を濁らせてしまう。こんな取り柄のない平凡なベータの男なんて早く別れるべきだ。別れるべきとは分かっているのに胸は別れを拒んでいた。

 俺がベータだとしても、春陽くんの態度は変わらないだろうけれども、彼を取り巻く環境が俺を許す訳が無い。花弁のように風に吹かれ、やがて俺の視界からも瞬く間に姿を消すだろう。その未来が、どうしようもなく怖かった。




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