勘違いラブレター

ぽぽ

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「真野先輩って彼女いるんですか」
 
 男はバスケ部の一番可愛いマネージャーから貰ったスポドリを惜しみなく一気飲みしている。乱れた髪の先から汗が伝って落ちるのも気にせず、ペットボトルに口をつけている姿は見ていて気持ちいいくらいだ。
 そして俺の急な質問にも嫌な顔せず寧ろ爽やかな笑みを返した。水も滴る良い男、という言葉は彼の為にあるのかとも思わせるその美貌に内心ケッと悪態を吐いた。
 
「いないよ。何かあった?」
「いや単純に気になっただけで。ついでに好きなタイプとかってありますか」
「急だな。んー、笑顔が可愛い子かな」
「身長は?体型とか」
「俺より小さくて、体型は特に無いよ」

 彼の言葉を頭の中で何度も反芻した。その後も色々と質問を繰り返す。真剣な様子の俺を見て彼は「俺の事そんな気になる?」と笑ったが、断じてお前の事なんか興味無い!

 俺がこうして聞いてるのは俺の天使である妹が真野先輩のことが好きだと言ったからだ。

「一週間後のバレンタインでチョコを渡して欲しい」と軽いノリで言われたが、俺は奈落の底に落とされたような気持ちになった。二日はご飯が喉を通らなかったし生きた心地がしなかった。今まで男っ気がない妹がまさか俺の先輩を好きになるなんて思いもしなかったのだ。
 真野先輩は良い先輩だが、爽やかな顔をして実は腹黒いかもしれない。何も知らない幼気な妹にあんなことやこんなことをするかも……。駄目だ!絶ッ対に駄目!俺が良い男かちゃんと見定めないと。
 
「真野先輩は年上と年下、どっちが良いですか」
「年下だな」

 だめだめだめ。年上にしろ。というか妹と先輩の年の差なんて五歳もあるじゃないか。犯罪だ。うん。別に妹じゃなかったら良いけど俺の天使に手を出すとか即死刑だ。高校生が中学生に手を出すとかロリコンだ。うん。絶対駄目だな。
 
「駄目です。年上を好きになってください」
「ええ?難しいな」
「そこをなんとか!年上の方が良いと思います!包容力とか安心感あるし甘えられるし」
「創は年上が良いのか?」
「いや、俺も年下ですけど真野先輩は年上です!」
「なんだそりゃ。じゃあ創が年上なら俺も年上にしてやってもいいぞ」
「オーケー!俺今日から年上好きになります!」
 
 よしよし、と真野先輩は俺の頭を撫でる。やっぱり真野先輩は妹にやれない。スキンシップが多いし恋人になったらもっとイチャイチャと触るんじゃ?絶対駄目です!
 
 そして俺は家に帰り妹に報告した。
 
「真野先輩って身長が高くて年上の女が好きなんだって。お前は好みじゃないらしいから諦めなさい」
「兄さんの事だからどうせ嘘でしょ」
「はっ!?ううう嘘じゃないですけどお!?」
「まあ別に良いけど。好きになったら年上とか関係無いし」
 
 何でそんなに冷たくなっちゃったんだ妹よ……。昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって可愛かったのに。まあ今も可愛いけどね!

 兎に角妹にはまだ恋愛は早いし、俺が何とか二人の恋を阻止しなければ。
    
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