勘違いラブレター

ぽぽ

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 部活が終わり外はすっかり冷えて空に暮色が漂う。その寒い中、俺は校舎裏でいた。いつも一緒に帰っていた湊に予定があると伝えた時は残念な顔をしていたが、俺だって本当は直ぐに家に帰り天使に癒されたかった。
 さて、そんな俺が何故ここにいるかというとある人物に呼び出されたからだ。
 
「でさぁ、湊って超優しいわけ」
「はあ……」
「ちょっと。真面目に聞いてる?」
 
 彼女の小さな顔が俺に近づく。近くで見るとより彼女の大きな瞳が際立って見えた。女の子らしい甘い香りがして何だか緊張する。こんな美少女に告白されて断る男子がいるのだろうか。そんな事を考えていると彼女は不満げな表情を浮かべた。

「ねえ、瑠愛の話ちゃんと聞いてるの?」
「あ、はい。すみません」
「だから、湊も多分瑠愛に気があるの。そう思わない?」
「えー、そうかもしれませんねー」
「だよね!」
 
 彼女は以前湊に胸を押し付けてた、っとこんな言い方では悪いか。彼女は湊にノートを一緒に運んで欲しいと頼んでいた先輩である。しかし何故俺が今彼女とこんな会話をしているのかと言うと俺にも分からない。急に手紙で校舎裏に呼び出されたから決闘かと思ったら現れたのは可愛い女の子でひっくり返りそうになった。
 瑠愛先輩は湊の惚気話を俺に語っているが一体何を言いたいのか?まさか俺達が付き合ってるってバレてる?
 
「創くんだっけ?創くんってさ念の為に聞くけど湊のこと好き?」
 
 俺の目を覗く。瑠愛先輩の目は茶色が少し混ざっていてぱっちり二重でとても可愛らしいが、何故か今は少し怖かった。
 好きってどういう意味だ。好きの種類なんて沢山ある。先輩として、友人として、沢山あるが俺が真っ先に思い付いたのは恋愛としての「好き」だった。別に俺は恋愛として好きじゃないのに。
 
「先輩として良い人だと思ってます」
「あ、そう?良かったぁ。もしかして創くんって瑠愛と同じかと思っちゃって。でもそうだよね!普通男が男を好きとかないよね」
 
 花が咲いたような笑みで俺に同調を求める。ここまでは別に俺は特に傷付きもしなかった。当たり前だ。だって同性なんて世間で認められてないって分かってるし彼女がそう思うのも普通だ。
 しかし、次の言葉で鳩尾を打ったような一撃を食らった。
 
「前もあったの。湊と付き合ってる男がいて、湊は瑠愛のなのに執拗く纏わりついて超うざかった」
 
 ……そっか。他に付き合ってた男がいたんだ。俺が初めてじゃなかったのか。まああんなに慣れてるし分かりきってたことだけど、男の恋人がいたなんて。
 全身の気力を失い、俺は相槌を打つことも出来なかった。ショックを受けた姿を見て何を勘違いしたのか瑠愛先輩は更に付け足して言った。
 
「あ、でも湊は瑠愛とも付き合ってたし女子も好きだから。多分どっちでも大丈夫なんじゃない?」
 
 別にそれはどうでも良い。湊は押しに弱そうだし瑠愛先輩に強引に言われて仕方なく付き合いそうだ。
 でも、その男の人って告白したのは湊から?その人から?モヤモヤする。胸が強く握り締められているように苦しい。なんで?別に俺は好きで湊と付き合ったわけじゃないのに。どうせ俺とは直ぐ別れる仲だし恋愛感情なんて全く無かったはずだ。
 
 瑠愛先輩はその後も何か話していたが全く頭に入らなかった。頭の中ではずっと湊とその男の人が仲良さそうに手を繋いで抱きしめてキスして、そんな幸せそうな姿がぐるぐる回る。

「ちょっと聞いてる?」
「……あ。すみません。えっとなんて?」
「湊の連絡先教えて欲しいわけ。湊が携帯変えてから連絡先分かんなくなっちゃってクラスLIMEも入ってないみたいだし」
 
 湊とLIMEは付き合う前から交換してた。いつだったか忘れたけど、いつの間にか登録されていた。
 
「でも、勝手に教えていいのか……」
「あー気にしないで?瑠愛と付き合ってたんだし良いに決まってるでしょ」
 
 そう言われても俺はなんだか気が進まなかった。きっとこの人はLIMEを交換したら毎日のように文字を送って湊も律儀にそれを返すのだろう。もし、もし二人が復縁したら
 
「嫌です」
「は?」
「駄目ったら駄目です!」
「いや、何言って」
「駄目なんです!てか自分で頼めない奴にあげたくなんかありません!」
 
 そう言うと、目の前の女の子はあんなに可愛いお人形さんのような顔から般若の顔に大変身した。ひょえ、こわ……。
 顔が真っ赤になった彼女は拳を振り上げた。そして勢いよく俺の頬を平手打ちした。
 
「別にあんたのでもないのに何様!?マジでうざっ!」
 
 そう彼女は言い捨てて帰った。
 右の頬がじんじんする。熱くて痛い。だけど嫌な気分は無かった。寧ろ湊を悪い奴から守ったような達成感が強かった。フハハ、流石俺。ちゃんと言ってやれたしスッキリした。
 
 過去にもこのように、俺の大天使・妹の連絡先を教えて欲しいなんて馬鹿げたことを言ってくる男がいた。その度俺は数々の男を成敗してきた。時には殴られたり馬鹿にされたりしたが別に俺は良かった。好きな人を守るヒーローになった気分がするし兄として当たり前の行動だ。
 しかし、瑠愛先輩の言葉を思い出すと同時に昔の記憶が蘇る。
 
『お前のじゃねえしいいだろ別に。シスコンマジできっしょ』
『コイツと縁切った方が幸せだろうな』
 
 ……気持ち悪いなんて分かり切ってますよ。
 だけど妹は時々俺を煙たがるけど直接「きもい」とか「うざい」とか言うことなんて一度も無かった。増してや「縁を切ってくれ」なんて言うわけが無い。寧ろこうして言い寄る男を成敗すると、家に帰ったら優しい笑みを浮かべて「ありがとう」と言ってくれて手当てもしてくれる。
 だけど、湊はどうだろう。
 瑠愛先輩ともしかしたらもう一度付き合いたかったかもしれない。俺が知らないだけで、本当はシスコンの俺をキモイとか思ってるかもしれない。本当は俺なんか好きじゃなくて単に元彼の代わりで付き合ったのかもしれない。
 
 とぼとぼと遅い足取りで帰途に着く。家へ入ると妹は驚いた顔をして久しぶりに俺の顔を手当てしてくれた。
 
「兄さんが怪我するなんて久々ね。もう私のために怪我なんてしなくてもいいよ」
「……今日は違う。別の人の連絡先を教えないって言ったんだ」

 そう言うと妹は目を見開いた。当然だ。俺が彼女の前で他の人間の話をするのは滅多にないから。
 
「それって、真野先輩?」

 こくりと頷くと妹はいつもの涼しげな顔に戻った。俺の頬を片手で冷やしながら俺の手をぎゅっと握った。
 
「兄さん、真野先輩のこと嫌いじゃなかったの?」
「嫌いじゃないよ」
「ふうん。前はあんなにダメダメ言ってたのに。何かあった?」
「だって、その、お前の未来のお婿さんだろ。だから助けたの!別に好きとかそんなんじゃない!」
 
 俺がそう言うと呆れたように妹はため息を吐いた。そして俺の手から離して、暗い空気を飛ばすように両手を叩いて言った。
 
「日曜、出掛けるんでしょ?楽しみにしてるよ」

 妹のテンションに合わせて笑顔を作るものの心は晴れないままだった。
 その日、土曜日の予定を断った。
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