押し倒す前に言え!

綿毛ぽぽ

文字の大きさ
6 / 21

6

しおりを挟む

 それから僕達は相変わらず文句を言い合いながらも過ごした結果、同性同士の婚姻届が役所へ多く提出された。まだ一部では偏見が根強いものの、王都の方では同性同士の結婚という価値観が浸透しつつある。
 そして、僕自身もガディウスとの夫婦生活に馴染んできた。
 
「へズ、明日暇?この劇見に行かね?」
「アクション劇か!面白そう。最近は恋愛ものばっかだったけどやっぱりアクションが一番わくわくするよなぁ」
「お?そんなにアクション見てえなら俺が今すぐ見せてやろうか?」
「ちょ、剣を家の中で振り回すな!」
 
 鞘に納めているとはいえ、家具に当たって傷ついたらどうするんだ。ガディウスは笑いながらぶんぶん太い腕を振る。仕事終わりなのになんて体力なんだ。僕は疲れて止める元気が残っていなくて、暴れるガディウスを置いて自室へ向かった。
 
 この同棲生活に慣れてきたはものの、やはり仕事終わりにマナーやダンスを習うのは疲れる。でもガディウスに相手を頼んだのは僕だし、仕事を続ける判断をしたのも僕だから、泣き言は言えない。
 
 ベッドに横になる。孤児院にあるベッドに比べ格段に柔らかく雲の上にいる気分だ。子供は睡眠が大事だから、孤児院にいる子供達にもぜひ寝てみて欲しい。これと孤児院にあるベッドを交換出来ないかな。いや、流石にガディウスから貰った家具なのにそんなことしたらダメか。僕の給料でそれを達成出来る日はいつだろう。このベッドなんて僕の給料くらいだし、子供達の数だけ揃えるとしたら……無理だ。こんな大きいベッドを置く場所も無いし、二人ずつ寝てもらうとか?
 考え込むうちに、自然と意識が遠のいていた。
 
 目覚めたのは、明け方。メイドや執事達が眠っている間に僕は急いで朝ご飯を作る準備を始めた。

 以前、ガディウスはルクンパンが食べたいと言っていたからわざわざ硬いパンとルクンの乳を用意した。昔に比べこの国も豊かになったから、なかなか探すのに苦労した。ルクンパンを作ったのはだいぶ昔のことで手順を忘れているかと思いきや、意外と分量も感覚で覚えていた。
 
 ルクンパンを作ると、つい過去の事が頭に浮かぶ。懐かしい。最初はルクンの乳なんて食べて大丈夫か不安だったけど、意外と美味しくて驚いたっけ。そして僕以上にガディウスが喜んでくれたなぁ。
 ガディウス以外のみんなはやはりルクンの乳を口に入れる事に抵抗があったが、ガディウスだけは僕が渡した瞬間、躊躇せず食べた。
 
 今思い返すと、ガディウスはいつも僕の味方をして率先して手伝いをしてくれていた。皆が嫌がる風呂掃除も草むしりも、僕の隣で手伝ってくれて、大人になった今もたまに孤児院に来ては手伝ってくれる。
 一緒に暮らして分かったが、ガディウスはかなり忙しい日々を送っている。王宮騎士団としての仕事だけでなく領地の会議に参加したり視察をしたり。疲れているのに全く弱音を吐かず笑顔で手助けをしてくれる。
 
 僕は、ガディウスに比べて何も持ってない。お金も権力も体力も頭も、何も敵わない。でも、ガディウスにいつか恩返ししたい。
 今はこのルクンパンを渡すくらいしか出来ないが、喜んでくれたら良いな。
 
 ガディウスがうめえとパンにかぶりつく姿を想像すると思わず笑いが零れる。すると突如僕の頭上にずっしりと重みのあるものが乗ってきた。
 
「へずぅ、なにわらってんだぁ?」
「うおっガディウス!起きんの早くない?」
「足音がきこえて……ねみぃ」
「まだ寝てろ」
「へずも一緒、いこーぜ」
「今パンを焼いてるとこだから離れられない」

 そう言うとガディウスは重い瞼を擦り、フライパンへ視線を落とした。そして目を大きく開いた。

「ルクンパン!」
「しー、使用人が起きちゃうだろ」
 
 人差し指を立てると、ガディウスは声を抑えた。

「ガディウスが食いたいって言ってたし。折角早く起きたから作った」
「マジ?めっちゃ嬉しい」
 
 まだ食べてないのに嬉しそうな様子が微笑ましくて僕も口角が上がる。

 そして、良い感じに焼けたパンを皿に移し二人で机を囲んだ。パンを口に含んだ瞬間は柔らかいのに噛んだ時独特な硬さが残る。味もほんのりルクンの乳の香りはするが、薄すぎてなんとも言えない味が広がる。
 
 普段から僕より良いものを食べ慣れたガディウスもこれにはガッカリするのではないかとおずおず顔色を窺うと、何故か変わらず笑顔でかぶりついていた。
 
「うめえ!やっぱりへズの飯は美味いな」
「ほんとに?これそんな美味いと思わないけど」
「んな事ねえよ。食わねえなら貰っていい?」
 
 どうぞ、と渡すと歯を見せて笑った。喜んで食べる姿を見て、硬いパンとルクンの乳を探し回った甲斐があったと心に明るさを感じる。これからもっとガディウスの笑顔が見れたら、なんてらしくないことを考えてしまうくらい。
 
 そうして食べている間、窓から朝の光が差した。使用人達にバレないように片付けをして、僕らは劇を見に向かった。
 




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

好きなタイプを話したら、幼なじみが寄せにきた。

さんから
BL
無愛想美形×世話焼き平凡 幼なじみに好きバレしたくない一心で、真逆の好きなタイプを言ったら……!?

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

処理中です...