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しおりを挟むそれから僕達は相変わらず文句を言い合いながらも過ごした結果、同性同士の婚姻届が役所へ多く提出された。まだ一部では偏見が根強いものの、王都の方では同性同士の結婚という価値観が浸透しつつある。
そして、僕自身もガディウスとの夫婦生活に馴染んできた。
「へズ、明日暇?この劇見に行かね?」
「アクション劇か!面白そう。最近は恋愛ものばっかだったけどやっぱりアクションが一番わくわくするよなぁ」
「お?そんなにアクション見てえなら俺が今すぐ見せてやろうか?」
「ちょ、剣を家の中で振り回すな!」
鞘に納めているとはいえ、家具に当たって傷ついたらどうするんだ。ガディウスは笑いながらぶんぶん太い腕を振る。仕事終わりなのになんて体力なんだ。僕は疲れて止める元気が残っていなくて、暴れるガディウスを置いて自室へ向かった。
この同棲生活に慣れてきたはものの、やはり仕事終わりにマナーやダンスを習うのは疲れる。でもガディウスに相手を頼んだのは僕だし、仕事を続ける判断をしたのも僕だから、泣き言は言えない。
ベッドに横になる。孤児院にあるベッドに比べ格段に柔らかく雲の上にいる気分だ。子供は睡眠が大事だから、孤児院にいる子供達にもぜひ寝てみて欲しい。これと孤児院にあるベッドを交換出来ないかな。いや、流石にガディウスから貰った家具なのにそんなことしたらダメか。僕の給料でそれを達成出来る日はいつだろう。このベッドなんて僕の給料くらいだし、子供達の数だけ揃えるとしたら……無理だ。こんな大きいベッドを置く場所も無いし、二人ずつ寝てもらうとか?
考え込むうちに、自然と意識が遠のいていた。
目覚めたのは、明け方。メイドや執事達が眠っている間に僕は急いで朝ご飯を作る準備を始めた。
以前、ガディウスはルクンパンが食べたいと言っていたからわざわざ硬いパンとルクンの乳を用意した。昔に比べこの国も豊かになったから、なかなか探すのに苦労した。ルクンパンを作ったのはだいぶ昔のことで手順を忘れているかと思いきや、意外と分量も感覚で覚えていた。
ルクンパンを作ると、つい過去の事が頭に浮かぶ。懐かしい。最初はルクンの乳なんて食べて大丈夫か不安だったけど、意外と美味しくて驚いたっけ。そして僕以上にガディウスが喜んでくれたなぁ。
ガディウス以外のみんなはやはりルクンの乳を口に入れる事に抵抗があったが、ガディウスだけは僕が渡した瞬間、躊躇せず食べた。
今思い返すと、ガディウスはいつも僕の味方をして率先して手伝いをしてくれていた。皆が嫌がる風呂掃除も草むしりも、僕の隣で手伝ってくれて、大人になった今もたまに孤児院に来ては手伝ってくれる。
一緒に暮らして分かったが、ガディウスはかなり忙しい日々を送っている。王宮騎士団としての仕事だけでなく領地の会議に参加したり視察をしたり。疲れているのに全く弱音を吐かず笑顔で手助けをしてくれる。
僕は、ガディウスに比べて何も持ってない。お金も権力も体力も頭も、何も敵わない。でも、ガディウスにいつか恩返ししたい。
今はこのルクンパンを渡すくらいしか出来ないが、喜んでくれたら良いな。
ガディウスがうめえとパンにかぶりつく姿を想像すると思わず笑いが零れる。すると突如僕の頭上にずっしりと重みのあるものが乗ってきた。
「へずぅ、なにわらってんだぁ?」
「うおっガディウス!起きんの早くない?」
「足音がきこえて……ねみぃ」
「まだ寝てろ」
「へずも一緒、いこーぜ」
「今パンを焼いてるとこだから離れられない」
そう言うとガディウスは重い瞼を擦り、フライパンへ視線を落とした。そして目を大きく開いた。
「ルクンパン!」
「しー、使用人が起きちゃうだろ」
人差し指を立てると、ガディウスは声を抑えた。
「ガディウスが食いたいって言ってたし。折角早く起きたから作った」
「マジ?めっちゃ嬉しい」
まだ食べてないのに嬉しそうな様子が微笑ましくて僕も口角が上がる。
そして、良い感じに焼けたパンを皿に移し二人で机を囲んだ。パンを口に含んだ瞬間は柔らかいのに噛んだ時独特な硬さが残る。味もほんのりルクンの乳の香りはするが、薄すぎてなんとも言えない味が広がる。
普段から僕より良いものを食べ慣れたガディウスもこれにはガッカリするのではないかとおずおず顔色を窺うと、何故か変わらず笑顔でかぶりついていた。
「うめえ!やっぱりへズの飯は美味いな」
「ほんとに?これそんな美味いと思わないけど」
「んな事ねえよ。食わねえなら貰っていい?」
どうぞ、と渡すと歯を見せて笑った。喜んで食べる姿を見て、硬いパンとルクンの乳を探し回った甲斐があったと心に明るさを感じる。これからもっとガディウスの笑顔が見れたら、なんてらしくないことを考えてしまうくらい。
そうして食べている間、窓から朝の光が差した。使用人達にバレないように片付けをして、僕らは劇を見に向かった。
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