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しおりを挟む「ガディウスよくこんな良い席見つけたな」
「まあな。たまたま当たったんだ。ふっ俺の日頃の行いが良いからかもな」
「それだったら僕の方が前列になるぞ!」
ガディウスが当てた席はなんと前列の真ん中。こんなに良い席の当選確率はめちゃくちゃ低いのに、凄い男だ。当たっても僕は最後列なのに。
幕が上がる。現れたのは有名な役者だ。
うわあ、本物だ。しかも近い。
今回の劇は殺人犯が主役であり、剣を使った劇だ。役者の軽い身のこなし、一寸の隙もない死闘。舞台から目が離せなくて食いつくように僕は見ていた。剣を叩き合っていると、剣が宙を舞い、僕のすぐ横の階段に落ちた。
「っ、潔く諦めろ!お前の負けだ」
「いいや、まだだ!」
舞台に立つ犯人役の男が勢いよく後ろへ飛び、回転しながらこちらへ着地した。
す、すご……。僕は思わず感嘆の声を漏らしそうになり、両手で口を抑える。そのまま剣を拾い、追ってきた警察役の男と再び容赦無い死闘を始めた。舞台上に比べ、目の前で行われる剣技は更に迫力が増す。
前のめりになるとそれを止めるように僕の肩に手が置かれ後ろへ引かれた。ガディウスは耳許に口を近づけて囁く。
「近過ぎだ」
「悪い、つい」
「危ねぇし後ろ下がるか」
「えっ何でだよ、こんな特等席無いって」
不満気なガディウスを置いて僕は再び視線を前に向ける。こんな男心を擽られる剣技は無い。ずっと見ていられたが、瞬く間に劇は終わってしまい幕が下がる。
視界が明るくなり、僕は興奮のままにガディウスに話しかけた。
「すっごかったな!めっちゃ近くね?剣とかこっち飛んできそうなのに絶対離さないし凄すぎ!」
「おうおう、良かったな」
「なんだよ、お前は感動しなかったのか?」
「だって俺の方が絶対上手い。アイツらは実際戦場に行ったらすぐ死ぬぞ」
「お前な、フィクションと現実は違うんだぞ」
何故か役者と張り合うガディウス。別に役者になる訳でもないし彼らはあくまで本物では無いのに、子供みたいな一面もあるものだ。
「筋肉だってありゃ見せかけだ。意味が無い」
「そりゃあ役者だから別にマジで使える筋肉はいらないだろ。でも特にあの主人公役の人、すげえんだよ。役によってめっちゃ痩せたり太ったりするんだって」
以前、孤児院で育つ役を演じた時も、僕は正直期待してなかったが、あの痩せ方は本当に空腹で貧しい生活じゃないと出来ない体だ。更に孤児院の演劇好きの子供から聞いたが役の為に実際孤児院に訪れ同じ食事をしたらしい。役者の鏡である。
しかし、ガディウスは意味が理解出来てないのか「絶食か……」とぶつぶつ呟いている。様子のおかしいガディウスの腕を引き、家へ帰ろうとすると前に何者かが立ちはだかった。
「お久しぶりですね、ガディウス様」
ぱっちり大きな甘い蜂蜜色の瞳を輝かせる女性。一礼だけで育ちの良さが伝わる所作だ。この女性は知っている。最近習った伯爵令嬢のイレネ・ポアリエ様だ。貴族の女性は可愛らしい人ばかりだが、その中でも一層可愛かった。
見蕩れる僕に対して、ガディウスは顔色変えず僕の前に出て礼をした。
「これはこれは、イレネ嬢。相変わらず可愛らしい笑顔で」
「あら奥様の前でそんな。照れちゃいます」
頬を赤く染めて両手を抑えるイレネ様に僕も頬の熱が移る。
か、可愛い!ガディウスのよくある気安い褒め言葉に照れるなんて純粋過ぎる。そんな僕の煩悩を飛ばすかのようにガディウスが肩に勢いよく腕を置いてきた。
「おっと悪いな。お前が一番だよハニー」
「んぎゃっ急に何っ」
「怒んなよ。拗ねる姿も世界で一番可愛いぜ」
唇を突き出して近寄ってくる。な、なんだコイツ!熱い息が頬に当たってくるし、やめてくれ。しかも令嬢の前ではしたないだろう。
これにはイレネ様もドン引きしないかと不安になったが、にこにこと優しい笑みを浮かべている。
「ふふ。仲がよろしいですね。そういえば奥様とお会いするのは初めてですね!ガディウス様とはよくお会いしてたけどもご結婚されてからお会いできなくてどれ程素敵な方とご結婚されたのか気になっていて」
「は、初めまして。ヘズエルと申します」
「初めまして。お会いできて嬉しいですわ。ずっとお会いしたかったのにお茶会はいつも断られて残念に思っていましたの」
お茶会?そんなの誘われた事ないんだけど。
きょとんと固まる僕の代わりに、ガディウスが返事をした。
「申し訳ない、新婚で色々バタバタしててなかなか予定が合わなかったんですよー」
「あら、それなら次は参加出来るかしら?今度私の屋敷で婦人会を行う予定で、ぜひヘズエルさんにも来て欲しいですわ」
ぼ、僕が婦人会に!?
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