花の下にて、春

蒲公英

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淡い過去

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 僕らの勇敢なストライカーは、二枚ついたガードを躱してボールを蹴りこんだ。ゴールラインを割ったボールに歓声が沸き、もう半分以上の位置に上がってきていたキーパーがすっごいスピードで走って抱き着くと同時に、試合終了のホイッスルが鳴る。
「勝ったー! 俺たちが一番だ!」
 マツリに抱き着いて離れないナツと、それを囲む男子たち。小学校最後の試合は、そんな風に終わった。誰より足が速くてチャンスに強いマツリは、僕らのチームのエースだった。小柄なセンターフォワードが女の子だと知って試合相手が驚くたびに、僕らは何故かとても得意で、特別なチームなんだと言い合った。ナツの鉄壁の守りとマツリのシュートは、少なくとも市内のサッカーチームの中で話題になる程度には、優秀だった。

「女なんかにセンターフォワードやらせて、恥ずかしくないのかよ」
 ほかのチームに言われたことがある。
「その女にドリブルで抜かれたチーム、どこなんだよ」
 ユウタが言い返して、殴り合いになった。身体の大きいナツがそれを引き剥がして、余計なことを言う。
「あんたんとこなんて、フォワードまでボールが行かないじゃない。あたし、ヒマだったよ」
 何ぃ? と気色ばむ相手と一触即発になり、監督が慌てて割って入った。

 適材適所を使う。文句があるヤツは三倍努力してポジションを奪え。そう宣言する監督に反発するヤツはいなかったし、実際マツリとナツの実力は全員認めていたから、誰も不服などなかったと思う。
 このまま中学校に行って、マツリとナツは初の女子部員になるのだと、みんな疑いもしなかった。男子だとか女子だとか、僕らにはまだそんなにリアルじゃなくて、クラスの一部がそんな風に性別で区別したがるのを不思議に思っていたくらいだ。
 思えば、ずいぶんと晩熟だったかも知れない。

 三学期も半ばになり、制服の採寸が話題に上るようになったころ、マツリの父親の転勤が決まった。みんなと同じ中学に行くんだと泣いたって、子供は無力だ。この土地はマツリの両親とはゆかりのない場所だから、元から定住の選択肢なんかなかったのだ。

 全員でユニフォームを着て、新幹線のホームでマツリを見送った。マツリも同じユニフォームで、泣きべそ顔で窓から手を振っていた。帰る途中のファストフード店では、もうみんな中学校の部活の話をしていた。

 中学校に入学してしまえば、新しい環境に慣れるのが必死で、僕らはすぐに小学生のクラブチームのメンバーでなんか、集まらなくなった。サッカー部初の女子部員になるはずだったナツは、サッカー自体を止めて陸上部に入部した。

 ただグラウンドでボールを回しているとき、ふと思い出した。マツリがここにいたら、中学校生活は変わったろうかと。
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