流星

蒲公英

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流星前夜

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 懐かしい中学校の空き教室を借り、同窓会事務局宛の葉書を整理した。校庭からは部活動のために登校した生徒たちの、走り回る声が聞こえる。蝉の鳴き声は弱くなってきている。夏が、終わろうとしていた。
 卒業から十年目を迎える年で、引っ越した人間もできる限りの情報を集めて案内状を送ったので、例年より出席者は多いはずだった。僕が探していたのはひとつの名前で、当時の担任が年賀状をやり取りしていると住所を教えてくれたのだ。
 葉書には、出席に丸がついていた。田中さゆりと几帳面な文字で名前があり、楽しみにしていますと書き添えてあった。
 苗字は変わっていないんだね。白くて小さな顔と黒い髪は、どんな風に変わっただろうか。まだ、星を見上げているだろうか。

 たった一度、並んで流れ星を見ただけ。君はもう忘れてしまっただろう。僕だって担任が差し出した何枚かの葉書を見るまで、忘れていたんだ。僕の初恋は君だったけど、君があの頃に僕をどう思っていたのか知らない。ただ、思い出したら控えめで意志の強い君が、今どうしているのか知りたくなった。
 希望の高校には行けたかい?誰かに恋したり、傷ついたりもしたんだろうな。どんな女の人になっているんだろう。やっぱり「今、できることをする」って言ってるのかな。僕はまだ、中学校の時と同じ場所に住んで、夜に散歩したりしてるけど、流れ星はあの後に見つけたことないんだ。一緒に座った土手は、ずいぶん明るくなってしまって、今は星の観察は難しいんだよ。

 同窓会の出席者名簿を他の幹事たちと作りながら、僕は田中にだけ話しかける。葉書を仕分ける音、確認の声、校庭を抜ける耳鳴りのような風の音。僕は今、急激に伸びた細長い手足の動かし方もぎこちない中学生だ。
 僕を覚えているだろうか。会ったら、一番先に言う言葉は。


 会場のホテルは華やかに飾られ、集まった顔を見るたびに中学生の面影を探す。それぞれが今浦島になり、再会を喜びあう。
 おまえ、老けたな。
 結婚したんだって?
 なんだよ、まだ学生かよ。
 さまざまな言葉が飛び交う中で、女子の一団から一際晴れやかな声が上がる。
 えーっ!さゆり?元気だった?

 黒い髪はそのまま美しく、やはり控えめな気配の田中が中心で微笑んでいた。僕の視線は吸い寄せられ、彼女の視線と絡むまで動くことができなくなった。田中は大きく目を見張り、ゆっくりと僕に向かって微笑んだ。
「本多君?私のこと、覚えてる?」
 一番先に言うはずだった言葉は吹き飛び、中学校の制服を着た僕が美しく成長した田中の前に立っていた。

 一次会で殆ど話すことはできず、二次会に向かう道すがら田中の横に並んだ。
「K高校の天文部に入ったの?」
 田中は驚いた顔をしたあと、部長を務めたと笑った。
「本多君と星を見たことがあったね」

 覚えていてくれたことが何にも増して大事なことに思えて、僕は繁華街の明るい夜空を見上げた。
「また、一緒に星を見に行かない?田中の家まで迎えに行くから」
「そうね、誘ってくれたら」
 連絡先を交換して、同窓会が終わった。


 オリオン座流星群のニュースを車のラジオで聞いた。
 僕は、今から田中に電話をかけようと思う。 







fin.
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