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銀の魔術師
28 決戦
しおりを挟むエデン達A隊は都グディから少し離れた上空を旋回していた。
グレックがグディへ突入するタイミングを計っている。地上での戦闘に注意を削がれ、王宮の上空の警備が薄くなるのを待っているのだ。
戦闘が開始してから三十分が経過した。
グレックが片手を挙げる。
「行くぞ!」
グレックが満を時して合図を出した。
グレックを先頭にチャペルとギャッツが続き、最後尾にシュベルトとその竜に乗るエデンとリディアが続いた。
「いやはや、また戦場に帰ってくるなんて懐かしいな。もうこんな光景は見ることはないと思っていたよ」
緊張をほぐすためだろうかシュベルトが明るく話しかけてきた。
地上では魔術師達が王宮の兵士や魔術師達と戦っている。
魔術を繰り出す際の魔法陣が闇の中の戦場で場違いに美しく光って見える。
王宮の付近ではあちこちで爆発が起こっているのが見える。
「もう少しで王宮の竜騎士隊の上空警護空域に入る。ギャッツとチャペルがいるから問題はないと思うがしっかり捕まっとけよ!」
前方で眩い光が迸った。どうやらグレックが交戦を始めたらしい。
「王宮の竜騎士と接触、各自散開せよ!」
グレックが叫んだ。
ギャッツとチャペルは連携をとって敵へと向かっていった。シュベルトは距離を置いて道が開けるのを待つ。
「ギャッツ、行きますよ!」
チャペルは声をかけると物凄いスピードで敵の群衆へと飛び込んだいった。敵に当たるか当たらないかの瀬戸際で急降下する。敵がひるんだろところでギャッツの竜がブレスを吐く。一瞬で二機を追撃させた。
グレックも様々な魔術を駆使して敵を攻撃している。彼の放った風の魔術の渦に巻き込まれてさらに一機を倒した。
敵が何機か正確な数は分からない。しかし、地上での戦闘で多くの竜騎士借り出されているらしい。せいぜい八~十機ほどしかいない。
-行ける。
エデンは唾を飲んだ。
シュベルトは敵が動揺した一瞬を逃さなかった。
グレック達が戦闘をしている合間を縫ってシュベルトは一気に目的地の塔へ向かった。
「おい!前方から二機くるぞ!」
エデンが叫んだがシュベルトはそのまま突っ込んでいく。
敵の竜騎士が長槍を構えて突進してきた。
危ないこのままだと…!と思った瞬間シュベルトが叫んだ。
「しっかり捕まってるな?」
エデンはリディアをガッツリと抑える。
リディアは空中の物凄いスピードの中での攻防に緊張しているのかぐったりとしていた。
シュベルトがぶつかる寸前で竜を回転させ2機の突進を物の見事にかわす。チャペルは急降下して攻撃を交わしたがシュベルトは竜を僅かに捻っただけだった。
「凄い…」
思わず呟いてしまった。
エデンは忘れていた。シュベルトは伝説と呼ばれた男だという事を。彼の竜を扱う手腕は見事だった。
不意をつかれた相手に背を向けて一気に距離を広げる。
「エデン!やるんだ!」
やっとエデンの出番がやってきた。後ろを振り向き手をかざす。
『ブレイド!』
エデンが叫んだ。銀の両掌に魔法陣が現れナイフのような鋭利な金属が大量に飛び出す。
最後尾に座っているエデンの放った魔術は2機の竜騎士に見事にヒットし、木の葉が舞うように竜騎士は地上へ落ちていった。
魔道書で見つけた魔法だ。火の玉や風の刃に比べて格段にスピードが早いため命中率も高い。
「良くやった!」
振り返ると敵をまいたグレックが後ろからシュベルトに付いてきていた。
グレックはそのまま追い越して先頭に立つ。
後ろではまだギャッツとチャペルが戦っていた。しかし二人の実力は目に見えて圧倒していた。彼らももうすぐこちらに合流するだろう。
シュベルトはグレックと同じコースに竜を進めた。
王宮の高い塔が見えてくる。
リディアを守りきり精霊の門を閉じ、フィーゴを救出する。それだけだ。
エデンは気を引き締めた。
* *
「治癒魔術師!こっちへ来てくれ!」
「今行くぜ!」
地上では苦戦を強いられていた。
こちらの人数は僅かに二百程度。王宮の兵士は千人規模だ。こちらは魔術師と竜騎士だけだがそれでも数に圧倒されている。
王宮の周りの市民はなんとか退避させた。
アルザスの皆は言ってしまえば国の大罪人だ。その場で抵抗されてもおかしくなかった。
実際抵抗はあったのだが若い女性の魔術師が火竜をけしかけて追い払ったらしいとの情報が入ってきた。その時ばかりは戦時下ながらもウィスレムもニヤリとせずにはいられなかった。
はじめはこちらが圧倒的に優勢だった。
アルザスは王宮の付近に土魔術でバリケードを二重に築いた。
B隊の魔術師達は王宮に向かって魔術を浴びせかけ注意を逸らした。妨害しようとする兵士達を竜騎士達が追撃した。
C隊は援護と共に治癒に徹した。
しかし、徐々に王宮側も立て直しを図ってきた。元より王宮の中へは侵入せず、一箇所に留まって敵の視線を惹きつけるのが目的のためこちらの作戦はワンパターンだ。
王宮も魔術師達が出動し、徐々に優勢に立っていった。
王宮の魔術師は数が少ないが王の側に仕える者が多く、その大半が二等魔術師以上の高官である。
強力な魔術師達の出現に徐々にアルザスは後退していった。
更に、王国の魔術を使えない兵士達も弓矢を使った遠距離攻撃に切り替えてきた。空から無数に降り注ぐ矢に倒れた者も少なくなかった。
ウィスレムは最前線で傷を受けた魔術師の手当てをしていた。魔術師は腹部に矢が刺さっており苦痛にもがいていた。ウィスレムが治療を終えると魔術師はヨロヨロと立ち上がって再び最前列に向かっていった。
残酷だ。この戦場では死ぬまで離脱が許されない。
ウィスレムはもう傷を癒したくはなかった。傷を負いながらも戦場へ向かう彼らを見るのが辛かった。
作戦開始から一時間以上が経過した。
拠点としている商人の大きな家に運ばれてくる怪我人の数も徐々に増えていった。
ヘレナはとっくに火竜を従えて最前線へ向かったらしい。
ウィスレムは運ばれてくる怪我人を見てはヘレナやバルドでなくてホッとしていた。
「グレック、早くするんだ」
B隊を仕切っている白髪の魔術師は戦況を見つめながら祈った。彼は現役を引退した戦術士官だ。
「被害報告!一つ目のバリケードが突破されました!」
若い魔術師が飛び込んできた。彼も片腕に包帯を巻いている。
「あと持ち堪えられて二時間ほどか…」
彼はポツリと呟いた。しかし今はこの戦況を打破することだけを考えなければならない。
「総員に伝えよ!接近戦は実力のあるものだけにして魔術師を集中的に狙うんだ。ほかの者は遠距離から弓矢を使う兵士達を狙撃するんだ。竜騎士は空中の敵を地上に干渉させないようにさせろ努力させるんだ!土系統の魔術師にバリケードを要所要所に再度配備させるんだ。各自、作戦終了まで持ち堪えるのだ!」
打てるべき手は打った。あとは時間の問題だ。
指揮官は手を組んで目を閉じた。
* *
「シュベルト!エデン!突入するぞ!」
グレックが叫んだ。王の間のある塔が目の前にある。
エデンはリディアを抱き抱えた。
「やってこい!エデン、リディア!」
「ああ!待ってろよ!」
エデンは叫んでシュベルトが竜を塔の上空を通過したタイミングで竜から飛び降りた。
リディアがしっかりとエデンに掴まる。風でエデンのコートがなびく。
グレックは王の間の壁を吹き飛ばし中へ飛び込んだ。
エデンもそれに続く。
王の間の中には埃と煙が舞っていた。
エデンはグレックの隣に着地する。
辺りは闇と静寂に包まれていたが中央に人影から揺れ動いた。誰かがいる。
「待ちかねたぞ」
人影からねっとりとした声がした。グレックが隣で拳を握りしめた。
その影はゆっくりと振り返る。そして魔術を唱えた。
部屋に火の玉が無数に現れる。
青い髪。骸骨のような不気味な顔。全身血のように赤いローブに身を包んでいる。
この国の王、ルメールだ。
「中々見事な作戦だった。そなたが思考したのか?我が息子よ」
息子?どういうことだ。エデンは隣を見る。
部屋中の火の玉がグレックを怪しく照らす。
グレックは自身の青髪をかきあげた。
「そうだ。今日で貴様の企みも終焉を迎える。王座に踏ん反り返っていられるのも今日までだ。覚悟するんだ…父上」
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