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第6章
第1回
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1
ひと先ずアリスさんや榎先輩を呼びに戻り、僕たちは改めて崖の下の扉へ向かった。
今度は金網フェンスを飛び越えるようなことはせず、箒を使って空から直接地面に降り立つ。
その扉は鉄でできていて茶色く錆びており、かなりの重さがあるのかがっちりと固く閉ざされ、仰々しくその場に鎮座していた。
取っ手と思しき輪っかに掛けられた錠前もやたら大きくて分厚く、鍵穴は長年のうちにはまり込んだのであろう落ち葉のカスや虫のフン、或いは腐食して欠けたその破片によって完全に埋まっており、真帆たちの魔法を以てしても開錠することはできそうになかった。
のだが、
「なら、壊しちゃいましょう」
そういうことになった。
そこからは簡単である。
三人の魔法|(真帆とアリスさんと井口先生の三人。榎先輩はその魔法が使えなかった)によって無理やり引きちぎられ、ボトリと地面に錠前が落ちる。
「……すごいね。魔法って。こんなこともできるんだ」
と僕は口にしたが、井口先生は首を横に振り、
「そうでもないぞ? 今の魔法、結局はそれぞれの握力や腕力を、如何に手を汚したり怪我したりせずに効率よくその対象に加えるかってだけの話で、力そのものが増幅されたりとかそんな都合のいい魔法じゃないからな、大したことはない。腐食していたおかげで俺達でも引きちぎれたって感じだな」
と言わんでもいい説明を言って謙遜なさる。
素直に喜んでくれりゃいいのに。
それから僕と井口先生は、協力して重たい観音開きの扉を開けた。
すっかり錆びついてなかなか開かなかったけれど、そこは先ほどの魔法を使って真帆とアリスさんも微力ながら手伝ってくれる。
やがて完全に扉が開け放たれ、じめりとした空気が漂ってきた。
がらんとした闇が奥へと続き、すぐ目の前には大きな電球が一つ、天井からぶら下がっている。その光景は大口を開けたチョウチンアンコウか何かみたいで何とも不気味だ。
「さぁ、行きましょう」
そう口にして真帆が先に立って歩き始めたのを、
「待って、真帆」
と僕はその肩を軽く掴んで止めた。
「……なんですか?」
眉間にしわを寄せる真帆に、僕は、
「僕が先に行く。さっきみたいに何かあったら大変だろ?」
前方不注意な真帆を先に歩かせるより、僕が先頭に立って、慎重に進んだ方が良いと思ったのだ。別に真帆のことを信用していないというわけじゃないけれど、用心するに越したことはないだろう。
そんな僕を見て、真帆はパチパチと数回瞬きすると、
「じ、じゃぁ、お願いします……」
と素直に道を譲ってくれた。
とはいえ、よくよく考えてみれば灯りがない。
天井からぶら下がる電球も割れていて使えそうにないし、そもそもどこに電気のスイッチがあるのかすら判らなかった。
当然、懐中電灯なんて持って来てはいないし、どうしようかと思っていると、
「ほれ、シモハライ、これをお前にやろう」
と井口先生がポケットから懐中電灯を取り出して投げて寄越した。
「あ、ありがとうございます」
と、とりあえず礼を述べてから、僕はふと気づく。
「――いや、先生? これ持ってるんだったら、最初からそう言ってくださいよ。ってか、教師なら率先して先に行ってくれてもいいんじゃないですか?」
そう苦情を口にすると、先生はにやにやしながら、
「いやいや、ここは彼氏としていいところを見せてやりなさいという、俺なりの配慮だよ」
とのたまった。
ふと皆を見渡せば、アリスさんも榎先輩も僕と真帆を見て妙な微笑みを浮かべている。
真帆はと言えば、どこか恥ずかし気にもじもじしているし、その姿の意外性と今自分の置かれている立場、そして別にそこまで考えていたわけではない自分の思いとのギャップに、気恥ずかしさよりも「何を考えてんだ、この人たちは」という思いしか浮かんではこなかった。
そんな何かを期待するような目で見られたって、僕も困る。
そもそも、ここ数日で散々真帆にからかわれているし、すでにそんなんで動じるような僕ではない。
……とはいえ、こんな可愛らしい様子の真帆に内心ドギマギしてはいるのだけれども。
僕は一つ息を吐いてから心を落ち着かせると、「よしっ」と小さく口にして、
「じゃぁ、行こうか」
懐中電灯の灯りをつけて、闇の中へ踏み出した。
ひと先ずアリスさんや榎先輩を呼びに戻り、僕たちは改めて崖の下の扉へ向かった。
今度は金網フェンスを飛び越えるようなことはせず、箒を使って空から直接地面に降り立つ。
その扉は鉄でできていて茶色く錆びており、かなりの重さがあるのかがっちりと固く閉ざされ、仰々しくその場に鎮座していた。
取っ手と思しき輪っかに掛けられた錠前もやたら大きくて分厚く、鍵穴は長年のうちにはまり込んだのであろう落ち葉のカスや虫のフン、或いは腐食して欠けたその破片によって完全に埋まっており、真帆たちの魔法を以てしても開錠することはできそうになかった。
のだが、
「なら、壊しちゃいましょう」
そういうことになった。
そこからは簡単である。
三人の魔法|(真帆とアリスさんと井口先生の三人。榎先輩はその魔法が使えなかった)によって無理やり引きちぎられ、ボトリと地面に錠前が落ちる。
「……すごいね。魔法って。こんなこともできるんだ」
と僕は口にしたが、井口先生は首を横に振り、
「そうでもないぞ? 今の魔法、結局はそれぞれの握力や腕力を、如何に手を汚したり怪我したりせずに効率よくその対象に加えるかってだけの話で、力そのものが増幅されたりとかそんな都合のいい魔法じゃないからな、大したことはない。腐食していたおかげで俺達でも引きちぎれたって感じだな」
と言わんでもいい説明を言って謙遜なさる。
素直に喜んでくれりゃいいのに。
それから僕と井口先生は、協力して重たい観音開きの扉を開けた。
すっかり錆びついてなかなか開かなかったけれど、そこは先ほどの魔法を使って真帆とアリスさんも微力ながら手伝ってくれる。
やがて完全に扉が開け放たれ、じめりとした空気が漂ってきた。
がらんとした闇が奥へと続き、すぐ目の前には大きな電球が一つ、天井からぶら下がっている。その光景は大口を開けたチョウチンアンコウか何かみたいで何とも不気味だ。
「さぁ、行きましょう」
そう口にして真帆が先に立って歩き始めたのを、
「待って、真帆」
と僕はその肩を軽く掴んで止めた。
「……なんですか?」
眉間にしわを寄せる真帆に、僕は、
「僕が先に行く。さっきみたいに何かあったら大変だろ?」
前方不注意な真帆を先に歩かせるより、僕が先頭に立って、慎重に進んだ方が良いと思ったのだ。別に真帆のことを信用していないというわけじゃないけれど、用心するに越したことはないだろう。
そんな僕を見て、真帆はパチパチと数回瞬きすると、
「じ、じゃぁ、お願いします……」
と素直に道を譲ってくれた。
とはいえ、よくよく考えてみれば灯りがない。
天井からぶら下がる電球も割れていて使えそうにないし、そもそもどこに電気のスイッチがあるのかすら判らなかった。
当然、懐中電灯なんて持って来てはいないし、どうしようかと思っていると、
「ほれ、シモハライ、これをお前にやろう」
と井口先生がポケットから懐中電灯を取り出して投げて寄越した。
「あ、ありがとうございます」
と、とりあえず礼を述べてから、僕はふと気づく。
「――いや、先生? これ持ってるんだったら、最初からそう言ってくださいよ。ってか、教師なら率先して先に行ってくれてもいいんじゃないですか?」
そう苦情を口にすると、先生はにやにやしながら、
「いやいや、ここは彼氏としていいところを見せてやりなさいという、俺なりの配慮だよ」
とのたまった。
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そんな何かを期待するような目で見られたって、僕も困る。
そもそも、ここ数日で散々真帆にからかわれているし、すでにそんなんで動じるような僕ではない。
……とはいえ、こんな可愛らしい様子の真帆に内心ドギマギしてはいるのだけれども。
僕は一つ息を吐いてから心を落ち着かせると、「よしっ」と小さく口にして、
「じゃぁ、行こうか」
懐中電灯の灯りをつけて、闇の中へ踏み出した。
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