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第5章 大学生の魔女
第1回
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七月である。気づけばあっという間に夏である。つい先日中間テストが終わったかと思っていたのに、もう来週には恐怖の期末テストがやってくる。なんて恐ろしいのだろう。
曇天はまるで僕の心の中のよう、未だ梅雨は継続しており、今にも振り出しそうな空は僕の涙のようだった、というのはさすがに言い過ぎな気がしなくもない。
「んで、結局どこの大学にするかは決めたのか?」
職員室。唐突に井口先生に呼び出されて訊ねられたのは、思った通りの質問だった。
「……もういっそ就職しようかなと思い始めました。或いはフリーター」
井口先生は困ったような表情で、
「……なんでそうなった? 先々週までは進学するって言ってなかったか?」
「そうなんですけど、なんか、どこにしたらいいのか考えてたら悩んでしまって。夜も眠れなくなっちゃったので、考えるのを辞めようかなって」
「だから、なんでそうなるんだよ」
呆れる先生。
「いや。だって」
「確かにお前は遅刻も多かった。出なかった授業も結構あった。テストだけはそこそこ良い点数だったけどな」
「結局、僕はその程度の人間なんですよ。大学に行くべき人間じゃない」
「親御さんはなんて? 大学の教授や講師だっただろ」
「お前の好きにしたらいいよって」
「……そこまで放任主義なのか?」
「まぁ、できるなら進学してほしいとは言ってましたけど」
「なら、それが親御さんの希望だな」
そんなこと言われたって、僕にこれほどまで将来への目標がない以上、大学に行く意味を見出せないのだ。
目標のない人間は、ただ働きアリのように淡々と働くのみ。それでいいのだ。
……ちょっと自虐的な気もしなくはないけど。
井口先生は大きくため息を吐いてから、
「シモハライがそれでいいなら俺も構わんけど、俺としては大学に行くべきだと思うがな。勉強ができないわけじゃない。問題行動を起こして揉めたこともない。大学でいろいろ勉強して視野を広げてこい。将来のことなんて、それからでも良いだろう」
「それでも将来に目標や目的を得られなかったら? 大学を卒業したとき、就職先でまた悩んじゃうだけじゃないですか」
「でも、大学で勉強するうちに何か目標が見つかるかもしれないだろう?」
「それでも――」
「あぁ、わかったわかった!」
井口先生は首を大きく左右に振って、
「もし大学を卒業したら、全魔協の職員に推薦してやる! それなら悩まなくてすむだろ」
「だったら、大学進学しなくても、そのまま推薦してくれてもいいのでは?」
「だから、さっきも言っただろう、視野を広げて来いって」
むすりとした表情で井口先生は腕を組んだ。
「シモハライ、お前はいろいろ考え過ぎだ。もっと気楽に考えてみろ。目標とか目的とか、将来のこととか、そんなものはあとからいくらでも考えられるし、そもそも時が経つうちに変わっていくもんなんだ。最初からやりたいことがあるってんならソレに向かってひた走ればいい。けど、お前はそうじゃない。だったら、そのやりたいことが見つかるまで、視野を広げていけばいいだけのことだろうが。大学はただ勉強だけをしに行く場所じゃない。高校までの、押し付けられたような勉強とは全然全く違うんだ。とにかく、お前は視野を広げろ、話はそれからだ」
話はそれからだ、って言うんなら、そもそもこんな話なんてしなくていいじゃないか、と思いもしたけれど言わないでおく。ここで言い争うようなことをしてもしかたがないと思ったからだ。
なにより、先生の言うことも解っている。解っているけど、うまく自分の中に飲み下して割り切ることができないでいるのだ。
「……もし行くとして、先生のおススメする大学は?」
「そりゃまぁ、お前――」
と、井口先生が口を開こうとした、その時だった。
「こんちわー、井口先生いますかー?」
すぐそばのドアが開いて、見覚えのある女性が姿を現したのだ。
ふたりして顔を向ければ、そこには榎先輩が立っている。
「あれ? シモハライくんもいたんだ。またなんかあったの?」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「ちょうどいい、榎」
「はい? なに?」
首を傾げる夏希先輩に、井口先生はこういった。
「お前、これからシモハライを大学に案内してやってくれ」
七月である。気づけばあっという間に夏である。つい先日中間テストが終わったかと思っていたのに、もう来週には恐怖の期末テストがやってくる。なんて恐ろしいのだろう。
曇天はまるで僕の心の中のよう、未だ梅雨は継続しており、今にも振り出しそうな空は僕の涙のようだった、というのはさすがに言い過ぎな気がしなくもない。
「んで、結局どこの大学にするかは決めたのか?」
職員室。唐突に井口先生に呼び出されて訊ねられたのは、思った通りの質問だった。
「……もういっそ就職しようかなと思い始めました。或いはフリーター」
井口先生は困ったような表情で、
「……なんでそうなった? 先々週までは進学するって言ってなかったか?」
「そうなんですけど、なんか、どこにしたらいいのか考えてたら悩んでしまって。夜も眠れなくなっちゃったので、考えるのを辞めようかなって」
「だから、なんでそうなるんだよ」
呆れる先生。
「いや。だって」
「確かにお前は遅刻も多かった。出なかった授業も結構あった。テストだけはそこそこ良い点数だったけどな」
「結局、僕はその程度の人間なんですよ。大学に行くべき人間じゃない」
「親御さんはなんて? 大学の教授や講師だっただろ」
「お前の好きにしたらいいよって」
「……そこまで放任主義なのか?」
「まぁ、できるなら進学してほしいとは言ってましたけど」
「なら、それが親御さんの希望だな」
そんなこと言われたって、僕にこれほどまで将来への目標がない以上、大学に行く意味を見出せないのだ。
目標のない人間は、ただ働きアリのように淡々と働くのみ。それでいいのだ。
……ちょっと自虐的な気もしなくはないけど。
井口先生は大きくため息を吐いてから、
「シモハライがそれでいいなら俺も構わんけど、俺としては大学に行くべきだと思うがな。勉強ができないわけじゃない。問題行動を起こして揉めたこともない。大学でいろいろ勉強して視野を広げてこい。将来のことなんて、それからでも良いだろう」
「それでも将来に目標や目的を得られなかったら? 大学を卒業したとき、就職先でまた悩んじゃうだけじゃないですか」
「でも、大学で勉強するうちに何か目標が見つかるかもしれないだろう?」
「それでも――」
「あぁ、わかったわかった!」
井口先生は首を大きく左右に振って、
「もし大学を卒業したら、全魔協の職員に推薦してやる! それなら悩まなくてすむだろ」
「だったら、大学進学しなくても、そのまま推薦してくれてもいいのでは?」
「だから、さっきも言っただろう、視野を広げて来いって」
むすりとした表情で井口先生は腕を組んだ。
「シモハライ、お前はいろいろ考え過ぎだ。もっと気楽に考えてみろ。目標とか目的とか、将来のこととか、そんなものはあとからいくらでも考えられるし、そもそも時が経つうちに変わっていくもんなんだ。最初からやりたいことがあるってんならソレに向かってひた走ればいい。けど、お前はそうじゃない。だったら、そのやりたいことが見つかるまで、視野を広げていけばいいだけのことだろうが。大学はただ勉強だけをしに行く場所じゃない。高校までの、押し付けられたような勉強とは全然全く違うんだ。とにかく、お前は視野を広げろ、話はそれからだ」
話はそれからだ、って言うんなら、そもそもこんな話なんてしなくていいじゃないか、と思いもしたけれど言わないでおく。ここで言い争うようなことをしてもしかたがないと思ったからだ。
なにより、先生の言うことも解っている。解っているけど、うまく自分の中に飲み下して割り切ることができないでいるのだ。
「……もし行くとして、先生のおススメする大学は?」
「そりゃまぁ、お前――」
と、井口先生が口を開こうとした、その時だった。
「こんちわー、井口先生いますかー?」
すぐそばのドアが開いて、見覚えのある女性が姿を現したのだ。
ふたりして顔を向ければ、そこには榎先輩が立っている。
「あれ? シモハライくんもいたんだ。またなんかあったの?」
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「ちょうどいい、榎」
「はい? なに?」
首を傾げる夏希先輩に、井口先生はこういった。
「お前、これからシモハライを大学に案内してやってくれ」
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