魔女と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ

文字の大きさ
34 / 70
第7章 全魔協の魔女

第3回

しおりを挟む
 榎先輩は黒のタイツに黒の短いスカート、胸にリボンのついた白い袖なしのシャツを着ており、しっかりと化粧をしているうえに耳にはキラキラ光るイヤリングを付けていた。

 なんだか僕の知る榎先輩よりも今日は大人っぽく見えた。これが大学生というものか、と何故かふと、そう感じる。

「葵――はいないんだね」

 すると書類を提出し終えたらしい肥田木さんがトテトテと小走りにこちらにやってきて、
「アオイ先輩も誘ったんですけど、おばあちゃんにダメって言われたらしくて……」

 そういえば、鐘撞さんのおばあさんは魔法使いでありながら、他の魔法使いのことをあまり信用してないんだったっけ。だから全魔協にも加入してなくて、本当は鐘撞さんにも協会員である真帆たちと付き合わせたくないのだとか。そこまでおばあさんに思わせる何があったのかまでは僕も知らないのだけれど。

「そうなんだ。ま、しかたがないね」

「なっちゃんは、今日はどうして協会に?」

 真帆が訊ねれば、榎先輩は肩から提げていたバッグに手を突っ込み、
「――ほら、こないだ佐治で見つけた、魔力の残った何かの欠片があったでしょ?」
 と僕らに、綺麗になった金属?の欠片を見せてくれた。

 それは半球状に切断された、手のひらより少し小さいくらいの輪っかだった。内側が綺麗に丸くなっているのに対して、外側にはギザギザした突起が並んでいる。機械に入っているギアを真っ二つに切断したら、丁度こんな形になるだろう。というか、そう考えるともうギアにしか見えなかった。

「……ギアですか?」
 僕が口にすると、
「ぎあ?」
 首を傾げる肥田木さん。

 榎先輩は「そうそう」とこくこく頷き、
「大学でも教授や講師に見せたらそう言われたんだよね。けど、何のギアかまでは全然わかんなくってさ。うちにある魔術書を調べてもいまいちわかんなくて、しかたがないからイノクチさんに相談したら、教会の復元科に持って行けば何かわかるんじゃないかって」

「何かの魔法道具の歯車なんでしょうね」
 真帆もふむふむと興味深そうにそのギアの欠片を眺めながら、
「私も気になるので、ご一緒してもよろしいですか?」

「もちろん」
 榎先輩は嬉しそうに笑った。
「実はあたしも協会に来るの初めてでさ、ちょっと緊張してるんだよね。いつも井口さんが協会に関わることしてくれてたからさ。だから、ほら」
 とスカートの裾を小さく抓んで見せながら、
「どんなカッコウで来ればいいのかわかんなくて、珍しくオシャレしてきちゃったよ。そしたらさ、こんな建物じゃん? なんかちょっと場違いなカッコウしちゃったかなぁって後悔してる」

「そんなことないですよ~! とっても似合ってます! すっごくカワイイですっ!」
「私も似合ってると思いますよ。なっちゃんも普段からそういう服を着ればいいのに」

「え、そ、そう? なら、よかったよ」
 うへへ、と嬉しそうに笑う榎先輩。

 僕も「大人っぽくて似合ってます!」くらい言おうと思ったのだけれど、余計なことを言ってまた真帆がご機嫌を損ねると面倒なので、黙っておく。

 ……でもまぁ、本当に似合っていると思う。

「そ、それじゃぁ、復元科に行こっか」
 榎先輩は少しばかり恥ずかしそうに口にして、
「えっと、復元科は二階か。井口さんが事前に連絡してくれてるらしいんだ」

 ぞろぞろと奥の階段を上がり始める僕ら四人。

 二階に辿り着くと、目の前の壁面にも小さな案内板があって、右・復元科、左・図書館、研修室と書かれていた。

 僕らはそれを確認して、復元科の方へ足を向ける。

 トイレの前を通過してすぐのところに扉があって、その扉の上には『復元科』とプレートが貼られていた。

 ……ほんと、どこまでも学校やお役所的な雰囲気だ。もう少し魔法っぽい演出でもあればいいのに、というのは一般人の過剰な期待というものだろうか。漫画とかアニメなんかの創作物で育ってきた僕からすれば、この協会はあまりにも現実的すぎてつまらなかった。

「ここだね」
 榎先輩が口にして、引き戸の取っ手に手をかけた。
「しつれいしまーす」

 がらり、と開かれたその先に広がっていたのは、だだっ広い空間にいくつもの机と椅子、そのうえに並べられた何らかの遺物の数々。幾人もの研究者か何かと思われる人たちがそこにはいて、それぞれが机に向かい、遺物とにらめっこしながら、矯めつ眇めつしたり、ハンダのようなもので壊れた部分を修復している姿があったり、忙しそうに働いていた。

 そんな彼らの向こう側にはいくつものスチールラックが並べられており、そのラックにも数えられないほどたくさんの何かが所狭しと並べられている。

 たぶん、保管棚か何かなのだろう。剣のようなもの、盾のようなもの、土鍋のようなもの、大釜のようなもの、杖のようなもの、恐ろしい形相の化け物の銅像のようなもの、色々な形をした真っ青な瓶がずらりと並んでいたり、あとは入り口からではそれがどんな形をした何なのか、全く見分けがつかないものばかりだった。

 そう言えば梅雨時期に、真帆と一緒に神楽ミキエさんって魔女のマンションを訪ねたことを思い出した。あそこも本来なら壁でしかない所を魔法で空間を歪め、ひとつの部屋にしていたのだけれど、ここも似たような魔法を使っているのだろう、外観からは想像もできないほど復元科の中は広かった。隅から隅に眼を向ければ、他にもドアがいくつか見られることから、実際にはまだまだ広くなっているらしい。

「ひっろ……」
 榎先輩も同じく感嘆の声を漏らした。

「スゴイですね、ここまで空間を捻じ曲げて部屋を広くするなんて、いったいどうやってるんでしょうか」
 真帆も感心した様子だった。

 そんななか、肥田木さんだけが「ほえ~」と気の抜けたような声をあげている。

 そこへ、
「あら? あなたたち、どなた?」
 一番近くの机に向かっていた中年の女性がふとこちらに気付き、顔を上げて訊ねてきた。

「あ、あたし、榎夏希っていいます。井口先生の紹介で来ました」

 すると女性は「あぁ、はいはい」と腰を上げ、こちらまで歩み寄ってくる。
「ずいぶん大勢で来たのね。てっきりひとりで来るのかと」

「すみません、たまたま下で友達と一緒になって。ご迷惑ですか?」

「いいえ、大丈夫よ」
 と中年の女性は首を横に振って、
「わたしはここ、復元科の研究員のひとり、與蔵よくら智子よ。よろしくね」

 にっこりと、微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...