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第7章 全魔協の魔女
第3回
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榎先輩は黒のタイツに黒の短いスカート、胸にリボンのついた白い袖なしのシャツを着ており、しっかりと化粧をしているうえに耳にはキラキラ光るイヤリングを付けていた。
なんだか僕の知る榎先輩よりも今日は大人っぽく見えた。これが大学生というものか、と何故かふと、そう感じる。
「葵――はいないんだね」
すると書類を提出し終えたらしい肥田木さんがトテトテと小走りにこちらにやってきて、
「アオイ先輩も誘ったんですけど、おばあちゃんにダメって言われたらしくて……」
そういえば、鐘撞さんのおばあさんは魔法使いでありながら、他の魔法使いのことをあまり信用してないんだったっけ。だから全魔協にも加入してなくて、本当は鐘撞さんにも協会員である真帆たちと付き合わせたくないのだとか。そこまでおばあさんに思わせる何があったのかまでは僕も知らないのだけれど。
「そうなんだ。ま、しかたがないね」
「なっちゃんは、今日はどうして協会に?」
真帆が訊ねれば、榎先輩は肩から提げていたバッグに手を突っ込み、
「――ほら、こないだ佐治で見つけた、魔力の残った何かの欠片があったでしょ?」
と僕らに、綺麗になった金属?の欠片を見せてくれた。
それは半球状に切断された、手のひらより少し小さいくらいの輪っかだった。内側が綺麗に丸くなっているのに対して、外側にはギザギザした突起が並んでいる。機械に入っているギアを真っ二つに切断したら、丁度こんな形になるだろう。というか、そう考えるともうギアにしか見えなかった。
「……ギアですか?」
僕が口にすると、
「ぎあ?」
首を傾げる肥田木さん。
榎先輩は「そうそう」とこくこく頷き、
「大学でも教授や講師に見せたらそう言われたんだよね。けど、何のギアかまでは全然わかんなくってさ。うちにある魔術書を調べてもいまいちわかんなくて、しかたがないからイノクチさんに相談したら、教会の復元科に持って行けば何かわかるんじゃないかって」
「何かの魔法道具の歯車なんでしょうね」
真帆もふむふむと興味深そうにそのギアの欠片を眺めながら、
「私も気になるので、ご一緒してもよろしいですか?」
「もちろん」
榎先輩は嬉しそうに笑った。
「実はあたしも協会に来るの初めてでさ、ちょっと緊張してるんだよね。いつも井口さんが協会に関わることしてくれてたからさ。だから、ほら」
とスカートの裾を小さく抓んで見せながら、
「どんなカッコウで来ればいいのかわかんなくて、珍しくオシャレしてきちゃったよ。そしたらさ、こんな建物じゃん? なんかちょっと場違いなカッコウしちゃったかなぁって後悔してる」
「そんなことないですよ~! とっても似合ってます! すっごくカワイイですっ!」
「私も似合ってると思いますよ。なっちゃんも普段からそういう服を着ればいいのに」
「え、そ、そう? なら、よかったよ」
うへへ、と嬉しそうに笑う榎先輩。
僕も「大人っぽくて似合ってます!」くらい言おうと思ったのだけれど、余計なことを言ってまた真帆がご機嫌を損ねると面倒なので、黙っておく。
……でもまぁ、本当に似合っていると思う。
「そ、それじゃぁ、復元科に行こっか」
榎先輩は少しばかり恥ずかしそうに口にして、
「えっと、復元科は二階か。井口さんが事前に連絡してくれてるらしいんだ」
ぞろぞろと奥の階段を上がり始める僕ら四人。
二階に辿り着くと、目の前の壁面にも小さな案内板があって、右・復元科、左・図書館、研修室と書かれていた。
僕らはそれを確認して、復元科の方へ足を向ける。
トイレの前を通過してすぐのところに扉があって、その扉の上には『復元科』とプレートが貼られていた。
……ほんと、どこまでも学校やお役所的な雰囲気だ。もう少し魔法っぽい演出でもあればいいのに、というのは一般人の過剰な期待というものだろうか。漫画とかアニメなんかの創作物で育ってきた僕からすれば、この協会はあまりにも現実的すぎてつまらなかった。
「ここだね」
榎先輩が口にして、引き戸の取っ手に手をかけた。
「しつれいしまーす」
がらり、と開かれたその先に広がっていたのは、だだっ広い空間にいくつもの机と椅子、そのうえに並べられた何らかの遺物の数々。幾人もの研究者か何かと思われる人たちがそこにはいて、それぞれが机に向かい、遺物とにらめっこしながら、矯めつ眇めつしたり、ハンダのようなもので壊れた部分を修復している姿があったり、忙しそうに働いていた。
そんな彼らの向こう側にはいくつものスチールラックが並べられており、そのラックにも数えられないほどたくさんの何かが所狭しと並べられている。
たぶん、保管棚か何かなのだろう。剣のようなもの、盾のようなもの、土鍋のようなもの、大釜のようなもの、杖のようなもの、恐ろしい形相の化け物の銅像のようなもの、色々な形をした真っ青な瓶がずらりと並んでいたり、あとは入り口からではそれがどんな形をした何なのか、全く見分けがつかないものばかりだった。
そう言えば梅雨時期に、真帆と一緒に神楽ミキエさんって魔女のマンションを訪ねたことを思い出した。あそこも本来なら壁でしかない所を魔法で空間を歪め、ひとつの部屋にしていたのだけれど、ここも似たような魔法を使っているのだろう、外観からは想像もできないほど復元科の中は広かった。隅から隅に眼を向ければ、他にもドアがいくつか見られることから、実際にはまだまだ広くなっているらしい。
「ひっろ……」
榎先輩も同じく感嘆の声を漏らした。
「スゴイですね、ここまで空間を捻じ曲げて部屋を広くするなんて、いったいどうやってるんでしょうか」
真帆も感心した様子だった。
そんななか、肥田木さんだけが「ほえ~」と気の抜けたような声をあげている。
そこへ、
「あら? あなたたち、どなた?」
一番近くの机に向かっていた中年の女性がふとこちらに気付き、顔を上げて訊ねてきた。
「あ、あたし、榎夏希っていいます。井口先生の紹介で来ました」
すると女性は「あぁ、はいはい」と腰を上げ、こちらまで歩み寄ってくる。
「ずいぶん大勢で来たのね。てっきりひとりで来るのかと」
「すみません、たまたま下で友達と一緒になって。ご迷惑ですか?」
「いいえ、大丈夫よ」
と中年の女性は首を横に振って、
「わたしはここ、復元科の研究員のひとり、與蔵智子よ。よろしくね」
にっこりと、微笑んだのだった。
なんだか僕の知る榎先輩よりも今日は大人っぽく見えた。これが大学生というものか、と何故かふと、そう感じる。
「葵――はいないんだね」
すると書類を提出し終えたらしい肥田木さんがトテトテと小走りにこちらにやってきて、
「アオイ先輩も誘ったんですけど、おばあちゃんにダメって言われたらしくて……」
そういえば、鐘撞さんのおばあさんは魔法使いでありながら、他の魔法使いのことをあまり信用してないんだったっけ。だから全魔協にも加入してなくて、本当は鐘撞さんにも協会員である真帆たちと付き合わせたくないのだとか。そこまでおばあさんに思わせる何があったのかまでは僕も知らないのだけれど。
「そうなんだ。ま、しかたがないね」
「なっちゃんは、今日はどうして協会に?」
真帆が訊ねれば、榎先輩は肩から提げていたバッグに手を突っ込み、
「――ほら、こないだ佐治で見つけた、魔力の残った何かの欠片があったでしょ?」
と僕らに、綺麗になった金属?の欠片を見せてくれた。
それは半球状に切断された、手のひらより少し小さいくらいの輪っかだった。内側が綺麗に丸くなっているのに対して、外側にはギザギザした突起が並んでいる。機械に入っているギアを真っ二つに切断したら、丁度こんな形になるだろう。というか、そう考えるともうギアにしか見えなかった。
「……ギアですか?」
僕が口にすると、
「ぎあ?」
首を傾げる肥田木さん。
榎先輩は「そうそう」とこくこく頷き、
「大学でも教授や講師に見せたらそう言われたんだよね。けど、何のギアかまでは全然わかんなくってさ。うちにある魔術書を調べてもいまいちわかんなくて、しかたがないからイノクチさんに相談したら、教会の復元科に持って行けば何かわかるんじゃないかって」
「何かの魔法道具の歯車なんでしょうね」
真帆もふむふむと興味深そうにそのギアの欠片を眺めながら、
「私も気になるので、ご一緒してもよろしいですか?」
「もちろん」
榎先輩は嬉しそうに笑った。
「実はあたしも協会に来るの初めてでさ、ちょっと緊張してるんだよね。いつも井口さんが協会に関わることしてくれてたからさ。だから、ほら」
とスカートの裾を小さく抓んで見せながら、
「どんなカッコウで来ればいいのかわかんなくて、珍しくオシャレしてきちゃったよ。そしたらさ、こんな建物じゃん? なんかちょっと場違いなカッコウしちゃったかなぁって後悔してる」
「そんなことないですよ~! とっても似合ってます! すっごくカワイイですっ!」
「私も似合ってると思いますよ。なっちゃんも普段からそういう服を着ればいいのに」
「え、そ、そう? なら、よかったよ」
うへへ、と嬉しそうに笑う榎先輩。
僕も「大人っぽくて似合ってます!」くらい言おうと思ったのだけれど、余計なことを言ってまた真帆がご機嫌を損ねると面倒なので、黙っておく。
……でもまぁ、本当に似合っていると思う。
「そ、それじゃぁ、復元科に行こっか」
榎先輩は少しばかり恥ずかしそうに口にして、
「えっと、復元科は二階か。井口さんが事前に連絡してくれてるらしいんだ」
ぞろぞろと奥の階段を上がり始める僕ら四人。
二階に辿り着くと、目の前の壁面にも小さな案内板があって、右・復元科、左・図書館、研修室と書かれていた。
僕らはそれを確認して、復元科の方へ足を向ける。
トイレの前を通過してすぐのところに扉があって、その扉の上には『復元科』とプレートが貼られていた。
……ほんと、どこまでも学校やお役所的な雰囲気だ。もう少し魔法っぽい演出でもあればいいのに、というのは一般人の過剰な期待というものだろうか。漫画とかアニメなんかの創作物で育ってきた僕からすれば、この協会はあまりにも現実的すぎてつまらなかった。
「ここだね」
榎先輩が口にして、引き戸の取っ手に手をかけた。
「しつれいしまーす」
がらり、と開かれたその先に広がっていたのは、だだっ広い空間にいくつもの机と椅子、そのうえに並べられた何らかの遺物の数々。幾人もの研究者か何かと思われる人たちがそこにはいて、それぞれが机に向かい、遺物とにらめっこしながら、矯めつ眇めつしたり、ハンダのようなもので壊れた部分を修復している姿があったり、忙しそうに働いていた。
そんな彼らの向こう側にはいくつものスチールラックが並べられており、そのラックにも数えられないほどたくさんの何かが所狭しと並べられている。
たぶん、保管棚か何かなのだろう。剣のようなもの、盾のようなもの、土鍋のようなもの、大釜のようなもの、杖のようなもの、恐ろしい形相の化け物の銅像のようなもの、色々な形をした真っ青な瓶がずらりと並んでいたり、あとは入り口からではそれがどんな形をした何なのか、全く見分けがつかないものばかりだった。
そう言えば梅雨時期に、真帆と一緒に神楽ミキエさんって魔女のマンションを訪ねたことを思い出した。あそこも本来なら壁でしかない所を魔法で空間を歪め、ひとつの部屋にしていたのだけれど、ここも似たような魔法を使っているのだろう、外観からは想像もできないほど復元科の中は広かった。隅から隅に眼を向ければ、他にもドアがいくつか見られることから、実際にはまだまだ広くなっているらしい。
「ひっろ……」
榎先輩も同じく感嘆の声を漏らした。
「スゴイですね、ここまで空間を捻じ曲げて部屋を広くするなんて、いったいどうやってるんでしょうか」
真帆も感心した様子だった。
そんななか、肥田木さんだけが「ほえ~」と気の抜けたような声をあげている。
そこへ、
「あら? あなたたち、どなた?」
一番近くの机に向かっていた中年の女性がふとこちらに気付き、顔を上げて訊ねてきた。
「あ、あたし、榎夏希っていいます。井口先生の紹介で来ました」
すると女性は「あぁ、はいはい」と腰を上げ、こちらまで歩み寄ってくる。
「ずいぶん大勢で来たのね。てっきりひとりで来るのかと」
「すみません、たまたま下で友達と一緒になって。ご迷惑ですか?」
「いいえ、大丈夫よ」
と中年の女性は首を横に振って、
「わたしはここ、復元科の研究員のひとり、與蔵智子よ。よろしくね」
にっこりと、微笑んだのだった。
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