魔女と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ

文字の大きさ
42 / 70
第9章 魔法使いの少女たち

第1回

しおりを挟む
   1

「今年はハロウィンがやりたいです」

 十月に入ったある日の登校中、唐突に真帆がそう口にして、僕は「えっ」と思わず聞き返していた。

 昨年までもこの時期はどこぞのハロウィンイベントまで遊びに行ったりしていたのだけれど、今年はハロウィンが、とはいったいどういう意味だろうか。

「みんなで仮装しましょう! 部室でハロウィン・パーティです!」

「仮装してハロウィン・パーティ?」

 思わず聞き返す僕に、真帆こくこく何度も頷いてから、

「そうです、そうです、仮装です。要はコスプレですよ、コ・ス・プ・レ。見たいでしょ? 私のコスプレ」

「いや、まぁ、うん、そうだね」
 と僕は少しばかり困惑してから、
「……なんで突然? 去年までみたいに商店街とかモールとか、でなきゃ横河駅のあたりとかでやってるハロウィンイベントとかじゃダメなの? あそこでも仮装してるじゃん? まだ一度も行ったことないし、ダメ?」

「横河って、ゾンビナイトのことですか?」
 真帆は眉をひそめて、
「確かに面白そうですけど、わたし、ゾンビは苦手なんですよねぇ。見た目が綺麗じゃないので……」

 なんだそりゃ、と僕は思いながら、
「じゃぁ、別の場所でもいいけど……」

 それに対して、真帆は一瞬ムッとしたような表情を浮かべる。

「ユウくん、もしかして、そんなにわたしのコスプレが見たくないんですか? 喜んでくれると思ったのに、私、悲しいです――」

 しゅんとする真帆に、僕は思わず本気で慌ててしまう。当然、そんなことは全くない。見たいに決まっているじゃないか!

「そ、そういうわけじゃなくて、それはもちろん、真帆のコスプレなら是非見たいって思うよ、本当に」

「そうですか? なら、ちなみにユウくんはどんなコスプレを私にしてほしいですか?」

「えっ、どんな? それは、えっと――」

 そう訊ねられて、僕は頭の中で真帆の着せ替えを始めてしまう。

 吸血鬼、ゾンビ、悪魔、天使、幽霊、ミイラ――はさすがに包帯グルグル巻きのアラレモナイ姿の真帆を想像してしまって、僕は首をプルプル振って邪な想像を振り払った。あとは、たまにテレビで観る感じだと警察官、ナース、メイドなんかも見てみたいし、真帆ならきっと似合うんじゃないだろうか。いやいや、しかしわざわざコスプレするって言っているのだから、やっぱりここはいつもとは違うもっと大胆で意外な感じの……

「……ユウくんのえっち」

「ええっ!?」僕はドキリとして、「ま、まだ何も言ってないじゃないか!」

「顔がニヤついてますよ。いったいどんなの想像してたんです? 言ったでしょ、みんなで仮装しましょうって。そういうのはふたりっきりのときにしてくださいね」

 それはつまり、ふたりっきりのときならコスプレしてくれるってことで良いのだろうか。そんな邪な考えが浮かんだところで、いやいや、そうじゃないだろう、と自分の理性を取り戻す。

「――あっ。じゃあ、魔女は?」

「魔女? 魔女が魔女の恰好をするんですか? わざわざ?」

「だって、真帆たちが魔女らしい姿をしているところなんて、一度も見たことないからさ。例えばほら、黒いローブとか、とんがり帽子だとか、ああいうの」

「……まぁ、確かにそうですね」
 それから真帆は眉を寄せて、
「そんなに見たいものですか? わたしたちの魔女の恰好」

「だってほら、一応、本物の魔女だし。こないだ全魔協に行ったときもあまりに事務的な建物すぎたし、職員さんもみんな普通の恰好だったでしょ? 魔女らしい魔女の恰好してる魔女とかいないのはなんで?」

「いないわけではないと思いますよ。ただ、好き好んでローブなんて着ないし、とんがり帽子なんて被らないってだけですよ。機能的なこと以外にも、イメージ的な問題で」

「イメージ? どういうこと?」

「とんがり帽子には宗教的異端者のイメージがあるからですよ。それに、童話に見る悪い魔女って大概とんがり帽子に黒いローブを羽織っているでしょう? そういう良くないイメージがあって、わざわざ自分からそんな恰好をする魔女がいないってだけの話です。だって、自分から“私は悪い魔女です”なんてあんまり言いたくないじゃないですか。もちろん、現代の可愛らしいイメージでとんがり帽子をかぶったりローブを羽織る魔女も少なからずいるので、全くのゼロってわけではないですけれど…… ただ、少なくとも私はあまりかぶろうなんて思いません。特に全魔協なんて、そういうのを嫌っているフシがあるみたいですから……」

「そっか、なら仕方ないね。魔女はやめておこうか」

 たまには真帆たちの魔女らしい恰好を見てみたいと思ったのだけれど、そういうことなら強要するわけにもいかないだろう。確かに、魔女のとんがり帽子が異端審問から来るという説も何かの本で読んだ記憶がある。自らを『悪』としてそんな恰好を進んでするなんて、ヤンキーや中学生みたいな思考でもない限り、普通は嫌に決まっている。

 ふむふむ、仕方がないな、と僕は納得して頷いたのだけれど、

「……いえ、いいですね、魔女」

 真帆がニヤリと口元に笑みを浮かべ、僕は「へっ?」と変な声を漏らしてしまった。

「なに? なんで? イヤなんじゃなかったの?」

 訊ねれば、真帆は「イヤとまでは言ってませんよ?」と口にして、
「私は全魔協に反感を抱いていますからね。なので、あえて異端の恰好をしてやるのもなかなか面白いかもしれません。全魔協の会長たる乙守先生に、異端の魔女姿を見せつけてやりましょう」

 ふっふっふ、と笑う真帆。

 ――あぁ、そういえば真帆はこういう人間だった。

 僕はそんな真帆に、やれやれと深いため息を吐いてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...