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エピローグ 魔法百貨堂
第1回
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1
――と、ここまでが僕の語るべき過去の出来事である。
あのクリスマスのあとも卒業式まで色々あったのだけれど、それはまぁ、今ここで語るには値しないことだろう。
そんなおまけ程度の物語だ。
そして今でも思い出すのは、あの日、卒業式の日。
僕がどれだけ緊張しながら真帆に真実を――井口先生から勧められた大学に行くことになったことを伝えたのか、そこが重要だ。
今から十数年前、僕は高校の卒業式の終わったグラウンドで真帆と向き合い、その事実を口にした。
真帆はしばらく押し黙ったあと、
「――それは、私を捨てるということですか?」
睨みつけるような視線で、僕を見つめた。
恐ろしいほどに僕の眼玉を突き刺すような視線だった。
このまま魔法で吹っ飛ばされてしまうんじゃないかと身構えそうになってしまうくらいに。
僕はそんな真帆にたじろぎながら、
「ち、違うって、そうじゃないよ。井口先生から言われたんだ。この大学を卒業すれば、全魔協の職員に推薦してやるって。そのために、大学でいろいろ勉強して視野を広げてこいって。だ、だから、大学を卒業したら、絶対に戻ってきて、また真帆と一緒にいるから、捨てるとか、そんなつもり、本当にないんだって……」
「信じられません、何を言っているのかもわかりません。どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか? なんでずっと黙っていたんですか? それって、私を騙していたのと一緒ですよね? 私がどんな気持ちでこの数か月を過ごしていたと思います? これから先、ユウくんとどんな日々を過ごそうかって思っていたのに、それが全部全部――」
「……どうした、お前ら。せっかくの卒業式に揉めてんのか?」
そこへ、井口先生がのっそりのっそりとやってきて……あとは井口先生とふたり、真帆の説得に相当な時間を要したのは言うまでもない。
そして僕は必ず帰ってくるという約束の証として、おそろいで嵌めていた指輪を――あの、真帆のおばあさんからもらって一緒につけていた恋愛成就の魔法の指輪を――真帆に差し出しながらこういった。
「これを、真帆に預けておきたいんだ。絶対に帰ってくるっていう証として。それに、これを身に着けていたら、真帆の事を想って、勉強に集中できなくなるだろうから。だから――」
すると真帆は、ばっと僕の指輪を奪い取るかのように受け取ると、「なるほどなるほど」と口にしてから、おもむろに自分の嵌めていた指輪を外したのだ。
「――なら、優くんが帰ってくるまで、私もこれは外しておきますね。つまり、これを外すってことは、その間、私たちは恋人同士ではなくなるということです」
そう、半ばキレ気味(いや、ガチギレ?)に言ってホウキを取り出すと、一気に空へと飛び去ってしまったのだった。
僕も井口先生も、そんな真帆をただ黙って見送ることしかできなかった。
……それからしばらくの間、僕らは本当に連絡を取らなかった。いや、お互いに取るに取れなかったというべきか。
売り言葉に買い言葉、というわけではないのだけれど、どうしてもそのやり取りが頭から離れなくて、僕は改めてどう真帆と話をすればいいのか全く見当もつかなかったし、真帆もまた言ったからには意固地になって、真帆のほうから連絡をくれるということすらなかったのだ。
そんななか、僕が県外に旅立とうというその日に僕のもとを訪ねて来たのは、真帆ではなく、あの、乙守先生だった。
乙守先生は僕からその話を聞くと、にっこりと微笑んで、
「大丈夫よ」
ただ短く、そう答えたのだった。
「大丈夫って、何が大丈夫なんですか。もしかしたら、本当にこのまま、もう真帆とは――」
思わず涙目になってしまう僕に、乙守先生は僕の背中をぽんぽん叩いてから、
「シモハライ君はやるべきことをちゃんとこなした。だから、安心して行って来なさい」
「……やるべきこと?」
「そ。だから、そこまで不安になることもないし、数か月後には仲直りできてるわよ」
まるで根拠のないその言葉を、僕は本当に信じて良いのかわからないまま旅立って……結局、大学一年の前期が終わるまで、僕らは全く連絡を取り合うこともなかったのだった。
ホントに乙守先生の言う通り、僕らはまた会えるのか。真帆とやり直す(その言い方も変だけれど)ことができるのか、そればかりが気になって、その間、結局僕は勉強に集中することができなかった。
けれど、それは真帆も一緒だったのだ。
そろそろ夏季休暇に入ろうかというある日。僕は勇気を出して、真帆にメールを送った。
どう連絡をとろうかとさんざん悩んだ挙句、
『来週から夏休みだから、次の日曜日、夕方くらいに会いに行くよ』
何とかそうメールを送った。
けれど真帆から返ってきたのは、
『はい』
と絵文字も何もない、ただそれだけの短い言葉だけだった。
返事が来たことは嬉しかったけれど、その短さが僕の心をなんとなくモヤモヤさせた。
……だけど、実際に真帆のもとを訪ねた時、真帆に変わった様子はまるでなかった。
そこには真帆の親戚の子である夢莉ちゃんと翔くんがいて、真帆と一緒になんとなくふざけ合って。
つまるところ、真帆は、僕の知る真帆だったのだ。
そのとき、真帆の使い魔であるセロが教えてくれた。
「真帆の奴、あの指輪を外してから三日ももたなかったんだ。自分で指輪を外したくせに、指輪が無いことに一瞬焦って、探そうとしてしまうんだって言ってな。結局すぐに、また指輪を嵌めてしまったよ。あの指輪を嵌めている限り、少なくとも安心するんだそうだ」
そうして僕から預かった指輪はセロの首輪に括りつけて、無くさないようにしていたのである。
僕と真帆はそれから再び連絡を取り合うようになり、会いに行けるだけの休みができた時には迷わず真帆に会いに行って、そして僕らは――
――と、ここまでが僕の語るべき過去の出来事である。
あのクリスマスのあとも卒業式まで色々あったのだけれど、それはまぁ、今ここで語るには値しないことだろう。
そんなおまけ程度の物語だ。
そして今でも思い出すのは、あの日、卒業式の日。
僕がどれだけ緊張しながら真帆に真実を――井口先生から勧められた大学に行くことになったことを伝えたのか、そこが重要だ。
今から十数年前、僕は高校の卒業式の終わったグラウンドで真帆と向き合い、その事実を口にした。
真帆はしばらく押し黙ったあと、
「――それは、私を捨てるということですか?」
睨みつけるような視線で、僕を見つめた。
恐ろしいほどに僕の眼玉を突き刺すような視線だった。
このまま魔法で吹っ飛ばされてしまうんじゃないかと身構えそうになってしまうくらいに。
僕はそんな真帆にたじろぎながら、
「ち、違うって、そうじゃないよ。井口先生から言われたんだ。この大学を卒業すれば、全魔協の職員に推薦してやるって。そのために、大学でいろいろ勉強して視野を広げてこいって。だ、だから、大学を卒業したら、絶対に戻ってきて、また真帆と一緒にいるから、捨てるとか、そんなつもり、本当にないんだって……」
「信じられません、何を言っているのかもわかりません。どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか? なんでずっと黙っていたんですか? それって、私を騙していたのと一緒ですよね? 私がどんな気持ちでこの数か月を過ごしていたと思います? これから先、ユウくんとどんな日々を過ごそうかって思っていたのに、それが全部全部――」
「……どうした、お前ら。せっかくの卒業式に揉めてんのか?」
そこへ、井口先生がのっそりのっそりとやってきて……あとは井口先生とふたり、真帆の説得に相当な時間を要したのは言うまでもない。
そして僕は必ず帰ってくるという約束の証として、おそろいで嵌めていた指輪を――あの、真帆のおばあさんからもらって一緒につけていた恋愛成就の魔法の指輪を――真帆に差し出しながらこういった。
「これを、真帆に預けておきたいんだ。絶対に帰ってくるっていう証として。それに、これを身に着けていたら、真帆の事を想って、勉強に集中できなくなるだろうから。だから――」
すると真帆は、ばっと僕の指輪を奪い取るかのように受け取ると、「なるほどなるほど」と口にしてから、おもむろに自分の嵌めていた指輪を外したのだ。
「――なら、優くんが帰ってくるまで、私もこれは外しておきますね。つまり、これを外すってことは、その間、私たちは恋人同士ではなくなるということです」
そう、半ばキレ気味(いや、ガチギレ?)に言ってホウキを取り出すと、一気に空へと飛び去ってしまったのだった。
僕も井口先生も、そんな真帆をただ黙って見送ることしかできなかった。
……それからしばらくの間、僕らは本当に連絡を取らなかった。いや、お互いに取るに取れなかったというべきか。
売り言葉に買い言葉、というわけではないのだけれど、どうしてもそのやり取りが頭から離れなくて、僕は改めてどう真帆と話をすればいいのか全く見当もつかなかったし、真帆もまた言ったからには意固地になって、真帆のほうから連絡をくれるということすらなかったのだ。
そんななか、僕が県外に旅立とうというその日に僕のもとを訪ねて来たのは、真帆ではなく、あの、乙守先生だった。
乙守先生は僕からその話を聞くと、にっこりと微笑んで、
「大丈夫よ」
ただ短く、そう答えたのだった。
「大丈夫って、何が大丈夫なんですか。もしかしたら、本当にこのまま、もう真帆とは――」
思わず涙目になってしまう僕に、乙守先生は僕の背中をぽんぽん叩いてから、
「シモハライ君はやるべきことをちゃんとこなした。だから、安心して行って来なさい」
「……やるべきこと?」
「そ。だから、そこまで不安になることもないし、数か月後には仲直りできてるわよ」
まるで根拠のないその言葉を、僕は本当に信じて良いのかわからないまま旅立って……結局、大学一年の前期が終わるまで、僕らは全く連絡を取り合うこともなかったのだった。
ホントに乙守先生の言う通り、僕らはまた会えるのか。真帆とやり直す(その言い方も変だけれど)ことができるのか、そればかりが気になって、その間、結局僕は勉強に集中することができなかった。
けれど、それは真帆も一緒だったのだ。
そろそろ夏季休暇に入ろうかというある日。僕は勇気を出して、真帆にメールを送った。
どう連絡をとろうかとさんざん悩んだ挙句、
『来週から夏休みだから、次の日曜日、夕方くらいに会いに行くよ』
何とかそうメールを送った。
けれど真帆から返ってきたのは、
『はい』
と絵文字も何もない、ただそれだけの短い言葉だけだった。
返事が来たことは嬉しかったけれど、その短さが僕の心をなんとなくモヤモヤさせた。
……だけど、実際に真帆のもとを訪ねた時、真帆に変わった様子はまるでなかった。
そこには真帆の親戚の子である夢莉ちゃんと翔くんがいて、真帆と一緒になんとなくふざけ合って。
つまるところ、真帆は、僕の知る真帆だったのだ。
そのとき、真帆の使い魔であるセロが教えてくれた。
「真帆の奴、あの指輪を外してから三日ももたなかったんだ。自分で指輪を外したくせに、指輪が無いことに一瞬焦って、探そうとしてしまうんだって言ってな。結局すぐに、また指輪を嵌めてしまったよ。あの指輪を嵌めている限り、少なくとも安心するんだそうだ」
そうして僕から預かった指輪はセロの首輪に括りつけて、無くさないようにしていたのである。
僕と真帆はそれから再び連絡を取り合うようになり、会いに行けるだけの休みができた時には迷わず真帆に会いに行って、そして僕らは――
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